11 うちの子、天才なのでは…!?(親バカ発動中)
私のことはさておき、可愛いロウェルの魔法レッスンである。
「ろーちゃも、ひ、だしゅ!」
と、本人は気合い充分なのだが……。
「ローちゃんは火、なのかなぁ……?」
うーんと首を捻ると、ロウェルがしょんぼりと眉尻を下げた。
「ろーちゃ、まほうちゅかえない……?」
大きなお目々にうるうると涙が溜まるのを見て、慌てて首を横に振る。
「あっ、ううん、違うの違うの! ローちゃんには魔力があるから大丈夫。魔法、使えるようになると思うよ!」
魔力がある人間は、他人の魔力を感じ取ることができる。そして私の見たところ、ロウェルには魔力がある。
ただ、ロウェルに魔力があることは分かっても、どんな魔法を使えるのかまでは、私には分からないのだ。
使える魔法は、各人の生まれつきの魔法属性によって決まる。
例えば私は炎属性なので、炎魔法を使うことができる。主に王族に現れる聖魔法というやつも、属性の一つだ。
そして、属性は基本的に遺伝で決まる。隔世遺伝というのもなくはないが、たいていは両親のいずれかの属性を引き継ぐことになる。だからロウェルの場合も……。
「もしローちゃんがママとお揃いなら、炎の魔法が使えるようになるよ。でももしパパとお揃いなら、氷の魔法になるはずなんだ……」
ロウェルの父親、アドルファスは氷属性だ。しかもかなり強いらしい。
魔獣との戦闘では、一度に何十本もの氷の槍を放ち、魔獣の群れを殲滅するのだとか。
残念ながら私はアドルファスが魔法を使うのを見たことはなくて、全部噂で聞いた話なのだけど。絶対かっこいいに違いない。一度でいいから生で見てみたかったなぁ……。
ちなみに、私には他人の魔法属性を見抜く能力はないけれど、それができる人というのも存在する。ただ、魔法属性の鑑定ができる人は、魔法使いの中でも数が少なく、たいへん希少な存在だ。
貴族の家では、子どもが生まれると、わりと早いうちに鑑定人に依頼し、魔法属性を確認するのが一般的だ。
私も赤ちゃんの頃に鑑定を受けたらしい。その結果、聖属性ではなく炎属性ということが分かり、早々に落ちこぼれの烙印を押されたというわけだ……。
この辺境には魔法属性の鑑定人はいないと思われるし、仮にいたとしても私には依頼するだけのお金はない。結局、魔法を発動させてみるしかないわけだ。
「ろーちゃはね~、ままとぱぱ、どっちともおしょろいがいいな!」
「んふふ、それ素敵だねぇ」
炎と氷、両方使えたらものすごく便利だろうなぁと思う。辺境スローライフがますます充実すること間違いなしだ。
だけど残念ながらそれは難しいだろうな、とも思う。
基本的に魔法属性は一人一つのみで、複数の属性を持つ人は極めてレアなのだ。小説『黒狼将軍の最愛花』にも、二属性持ちはたった一人しか登場しない。
だからロウェルも炎か氷、どちらかになる可能性が高いと思うのだけど、私は密かに、氷だったらいいなと思っている。
だって氷魔法が使えたら、魔法で冷蔵冷凍庫やクーラーが作れちゃうじゃん!? めっちゃくちゃQOL上がるじゃん!? ダンさんとハンナさんもすごく喜んでくれると思うんだよね!
あ~でも、ロウェルが私の炎属性を引き継いでくれても、それはそれで嬉しいかも。黒髪碧眼のクールな見た目で炎魔法の使い手というのも、なかなかかっこいいんじゃないでしょうかね!?
などと私が考えている間に、ロウェルはさっそく私を真似て構えの姿勢を取った。
勇ましく両足を開いて立ち、ちっちゃなお手々を顔の前に出す。
「ちょうちょさーん、ひのちょうちょさーん、でてきてくだしゃーい!」
私がやって見せた炎の蝶を出そうとしているらしい。手と手の間を一生懸命に見つめて炎の蝶を召喚しようとするロウェル。はっきり言って可愛さしかない。ずっと見ていたい……!
だけど、何もないところに魔法で炎を出すのは、実はそう簡単なことではないのだ。いきなりやろうとして出来るものではない。イメージ力も必要だから、幼いロウェルにはなおさら難易度が高いはずだ。
(ローちゃんが魔法の練習をするのに、もっといい方法はないかな……あっ、そうだ!)
いいことを思いついた私は、洗濯に使う木の桶に水を汲んできて、ロウェルの前に置いた。
「ローちゃん、おいで~」
素直にやってきたロウェルと並んで、桶のそばにしゃがむ。
「ちょうちょさんはまた今度にして、お水を温める魔法を試してみたらどうかな? ママがいつもお風呂を沸かす時に使ってる魔法。こうやってお水に手をかざして、あったかくな~れってするの」
何もないところに炎を出すよりも、水をお湯に変える方が難易度は低い。ロウェルにもイメージしやすいはずだ。
ロウェルは「わかっちゃ!」と言って、さっそく両手を桶の上にかざし、「あっちゃかくな~れ~、あっちゃかくな~れ~」と唱え始めた。
なんだこれ可愛いな!? 呪文(?)を唱えるロウェルが可愛すぎて、ついニコニコしてしまう。
「そうそう、その調子だよ~」
ほんわかした気持ちで、のんびりとエールを送る。
「だけど魔法ってすぐに使えるものじゃないからね~、焦らずにのんびり練習しようね~」
難易度が低いといっても、それはあくまでも炎を出すよりはという話。二歳児のロウェルがいきなり魔法を使えるなんて全く思ってな――。
そのとき、桶の水面に、にわかに小さな波が立った。次の瞬間、ボコボコと大きな泡が沸き起こる。
「えっ、ちょっ、沸騰してる!?」
「やったー! あっちゃかくなった-!」
大喜びでぴょんぴょん跳びはねるロウェル。
呆然としていた私はハッと我に返り、慌ててロウェルを抱きかかえて桶から遠ざけた。
「ローちゃん大丈夫!? 火傷してない!?」
「だいじょうぶだよー」
ロウェルはケロッとしている。その手や顔に異常がないことを確認し、ようやくホッと胸を撫で下ろした。
「は~、びっくりしたぁ……」
安心したら、じわじわと興奮してきた。
まさか初めてのレッスンでいきなり魔法を使えるなんて……。
うちの子、もしかしたら天才かもしれないな!?
「ローちゃんすごいねー! 魔法使えちゃったね!」
「んふふ~!」
「そんで、ローちゃんは炎属性で確定だね! ママとお揃い!」
「ままとおしょろい~!」
にっこにこで頬を染めるロウェルをぎゅっと抱きしめて頬ずりする。
しかもかなり火力も強いんじゃないかな、と、いまだボコボコ沸騰している桶を見ながら思う。
「ていうかこれ、いいかげんなんとかしないと危ないな……」
私の魔法では、対象の温度を上げることはできても、下げることはできない。
別の桶に冷たい水を汲んできて混ぜるしかないかな……と思っていたら、ロウェルが「じゃあこんどはちゅめたくする~」と言って桶に近付き手をかざした。
「ちゅめたくな~れ~、ちゅめたくな~れ~」
「あっ、ローちゃん危ないから――」
再びロウェルを抱きかかえようとした私は、桶の中を見て目を疑った。
さっきまでボコボコと沸き立っていた水面が嘘のように静まり、湯気がピタリと消える。
「え、うそでしょ……」
その次の瞬間、ピキリと音を立てて、桶の中の水が凍り付いた。
「氷属性も、ってこと……!?」
ポカンとする私の周りを、ロウェルが「ぱぱともおしょろい~!」とぴょんぴょこ跳ね回る。
どうしましょう……うちの子、マジで天才みたいなんですが……!?




