1 気付いたら初夜…の翌朝⁉
初めてシークレットベビーものに挑戦してみました。
よろしくお願い致します!
淡い朝の光が瞼を照らす。
ゆるゆると意識が浮上したとき、真っ先に感じたのは気怠さだった。
慣れない――そして激しい運動をした後のように、全身がだるい。
(んー……? 私昨日、何かしたっけ……?)
いつものように終電間際まで残業し、ヘトヘトで独り暮らしのアパートに帰り着いて。コンビニ弁当とパックの野菜ジュースで夕食を済ませ、スマホ片手にベッドに寝転び、趣味のウェブ小説を読んで……。
そのまま寝落ちしてしまったんだろうか。そこから先の記憶がない。
(ま、いっか……)
あっさりと、私は考えるのをやめた。だってだるいし。
それに、体はだるいけど、なんだかものすごく心地良くもあるのだ。まだまだこの心地良さに浸って微睡んでいたい。
何か温かなものに全身を包まれている感覚。温かくて、心が隅々まで満たされている。
もっとその温もりに触れたくて、私はすり、と頬を寄せた。
(……ん?)
私、今、何にすりすりした……?
パチリと目蓋を持ち上げ、ぎょっとした。
視界いっぱいに飛び込んできたのは逞しい胸板。
男性の、それも裸の。
(え、いや、待って待って待って!?)
急速に覚醒すると同時に、とんでもない事態に気付く。
自分が素っ裸でベッドの中にいて、同じく裸の男性に抱きしめられていることに。
そろそろ〜っと目線を動かしていく。胸から喉仏、そして顔――。
こちらを見つめる端正な男の人と至近距離で目が合い、私は息をのんだ。
「目が覚めたか」
心地よい低音ボイスが鼓膜を震わせる。
さらりと流れる黒髪。私をじっと見つめる瞳は宝石のような深い青。
おそろしいほどに整った顔立ちは、正直言って好みど真ん中だ。
(えっ、めっっっちゃくちゃイケメンなんですけど⁉ 精悍って言うのかな、こういうの。しかも色気がすんごい! 左目の泣きぼくろとか反則でしょ。一生推せるわ~! ……あれ? このイケメン、どこかで見たような? どこだっけ……って、今はそんな場合じゃない!)
「えっと……誰……? これどういう状況……?」
掠れた声で問うと、彼は苦々しげに口の端を歪めた。
「……ほう。初夜を終えたばかりの夫に向かってその言い草。悪女という噂はどうやら真実らしいな」
「おっ……おおお、夫!? 初夜ぁ!?」
男の言葉に仰天する。
つまりこのイケメンは私の夫で、この全身のだるさの正体は――。
「嘘でしょ、そんな――んむっ」
呆然とした呟きは噛みつくようなキスに飲み込まれた。
強引な、それでいて甘い口づけに、頭の芯がくらくらと痺れる。
散々好き勝手に貪ってから、ようやく彼は私の唇を解放した。
けれど自由になったのは呼吸だけ。逞しい両の腕は相変わらず、捕らえるように私の体に回されている。
涙目で喘ぐような呼吸を繰り返す私を見据え、挑むように彼が言った。
「これが現実だ、どんなに不本意だろうとな。今さら王宮に戻れるなどと甘い考えは捨てることだ。あなたはもはや王女ではない。このアドルファス・デュアーの妻に――ロザリンド・デュアーになったのだからな」
「ろ、ロザリンド……アドルファス……!?」
その名を耳にした瞬間、電流のような衝撃が体を巡った。
悪妻、朝の満員電車、黒狼将軍、深夜のオフィス、結婚式――。
ぐちゃぐちゃに混ざり合った膨大な記憶が、一気に押し寄せてくる。
頭が割れるように痛い――。
(転生……悪妻ロザリンドに……?)
その思考を最後に、私の意識は途切れた。
◇
それから長い長い夢を見た。
日本という国で生まれ育った夢。
それから王女ロザリンドとして生まれ育った夢。
ようやく目覚めたのはその日の夕暮れ時。
三日後、私は旅行鞄一つを抱え、一人で国境の町に向かう馬車の中にいた。
署名済みの離縁届を残して――。
のんびり更新予定です。
のんびりお付き合い頂けると嬉しいです。




