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悪妻は退場しましたので  作者: 中村くらら


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1/5

1 気付いたら初夜…の翌朝⁉

初めてシークレットベビーものに挑戦してみました。

よろしくお願い致します!

 淡い朝の光が瞼を照らす。

 ゆるゆると意識が浮上したとき、真っ先に感じたのは気怠さだった。

 慣れない――そして激しい運動をした後のように、全身がだるい。


(んー……? 私昨日、何かしたっけ……?)


 いつものように終電間際まで残業し、ヘトヘトで独り暮らしのアパートに帰り着いて。コンビニ弁当とパックの野菜ジュースで夕食を済ませ、スマホ片手にベッドに寝転び、趣味のウェブ小説を読んで……。

 そのまま寝落ちしてしまったんだろうか。そこから先の記憶がない。


(ま、いっか……)


 あっさりと、私は考えるのをやめた。だってだるいし。

 それに、体はだるいけど、なんだかものすごく心地良くもあるのだ。まだまだこの心地良さに浸って微睡んでいたい。

 何か温かなものに全身を包まれている感覚。温かくて、心が隅々まで満たされている。

 もっとその温もりに触れたくて、私はすり、と頬を寄せた。


(……ん?)


 私、今、何にすりすりした……?

 パチリと目蓋を持ち上げ、ぎょっとした。

 視界いっぱいに飛び込んできたのは逞しい胸板。

 男性の、それも裸の。


(え、いや、待って待って待って!?)


 急速に覚醒すると同時に、とんでもない事態に気付く。

 自分が素っ裸でベッドの中にいて、同じく裸の男性に抱きしめられていることに。

 そろそろ〜っと目線を動かしていく。胸から喉仏、そして顔――。

 こちらを見つめる端正な男の人と至近距離で目が合い、私は息をのんだ。


「目が覚めたか」


 心地よい低音ボイスが鼓膜を震わせる。

 さらりと流れる黒髪。私をじっと見つめる瞳は宝石のような深い青。

 おそろしいほどに整った顔立ちは、正直言って好みど真ん中だ。


(えっ、めっっっちゃくちゃイケメンなんですけど⁉ 精悍って言うのかな、こういうの。しかも色気がすんごい! 左目の泣きぼくろとか反則でしょ。一生推せるわ~! ……あれ? このイケメン、どこかで見たような? どこだっけ……って、今はそんな場合じゃない!)


「えっと……誰……? これどういう状況……?」


 掠れた声で問うと、彼は苦々しげに口の端を歪めた。


「……ほう。初夜を終えたばかりの夫に向かってその言い草。悪女という噂はどうやら真実らしいな」

「おっ……おおお、夫!? 初夜ぁ!?」


 男の言葉に仰天する。

 つまりこのイケメンは私の夫で、この全身のだるさの正体は――。


「嘘でしょ、そんな――んむっ」


 呆然とした呟きは噛みつくようなキスに飲み込まれた。

 強引な、それでいて甘い口づけに、頭の芯がくらくらと痺れる。

 散々好き勝手に貪ってから、ようやく彼は私の唇を解放した。

 けれど自由になったのは呼吸だけ。逞しい両の腕は相変わらず、捕らえるように私の体に回されている。

 涙目で喘ぐような呼吸を繰り返す私を見据え、挑むように彼が言った。


「これが現実だ、どんなに不本意だろうとな。今さら王宮に戻れるなどと甘い考えは捨てることだ。あなたはもはや王女ではない。このアドルファス・デュアーの妻に――ロザリンド・デュアーになったのだからな」

「ろ、ロザリンド……アドルファス……!?」


 その名を耳にした瞬間、電流のような衝撃が体を巡った。

 悪妻、朝の満員電車、黒狼将軍、深夜のオフィス、結婚式――。

 ぐちゃぐちゃに混ざり合った膨大な記憶が、一気に押し寄せてくる。

 頭が割れるように痛い――。


(転生……悪妻ロザリンドに……?)


 その思考を最後に、私の意識は途切れた。







 それから長い長い夢を見た。

 日本という国で生まれ育った夢。

 それから王女ロザリンドとして生まれ育った夢。

 ようやく目覚めたのはその日の夕暮れ時。

 三日後、私は旅行鞄一つを抱え、一人で国境の町に向かう馬車の中にいた。

 署名済みの離縁届を残して――。




のんびり更新予定です。

のんびりお付き合い頂けると嬉しいです。

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