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婚約破棄されることを知っていた令嬢と結婚する約束を果たす

作者: 光井 雪平

「婚約破棄か」


 マークは先ほど届けられた情報をもう一度かみしめるようにつぶやく。


 マークの従姉妹である、ルミア・フランソワは第三王子との婚約を幼少期から結んでいた。その婚約が昨日王子の手によって破棄されたのだ。


 しかも、学園の卒業パーティの日にそれが行われた。多くの人が驚きを覚え、その対応に今も追われている。


「しかし、ほんとにそうなるとはなぁ」


 マークにも多少の驚きはあったが、ほかの人に比べればそうでもなかった。なぜならマークは知っていたのだ。


 マークはルミア本人から婚約破棄になると言われていた。しかも10年以上も前から。


「さてと、ルミアとの約束を果たすとするか」


 マークは机の鍵をかけた引き出しの鍵を開け、入れていた書類を出す。それはマークがルミアとの約束のために数年前から準備していた書類である。


 準備していた書類は色々あるが、そのすべてがとあることをなすためのものである。


 マークがルミアと交わした約束を果たすためのものである。


 マークがルミアと結婚するという約束。それを果たすためにマークは準備した。


「冗談だと思っていたのだがなぁ」


 マークはルミアに婚約破棄になったら、自分と結婚してほしいと頼まれた。それも10年以上前に。マークはルミアの冗談か何かだと思い、承諾した。だが、何年経ってもルミアが約束を確認してくるので、本気なのだと思った。


 そのため、マークは数年前から準備を始めたのだ。ルミアの本気に応えるために。


 正直な話、マークはルミアと結婚したいという強い意志はない。だが、マークはルミアの想いに応えることにしたのであった。マークはルミアと家族になること自体に拒否感はなかったからであった。

 それに、マークには結婚したいという相手もいなかった。マークは伯爵家の次男で、家を継ぐこともなく結婚をせかされることもなかった。しかも、ルミアは婚約破棄されたとしても、侯爵家の令嬢のままとなるはずであった。


 一応婚約破棄された令嬢との結婚とのことで、社交界から風当たりは強くなり、関係性も悪くなるかもしれない。だが、マークの家は伯爵家ではあるが、祖父の事業の失敗で貧乏で、ルミアの家から金銭の援助を受けていた。そのため、厄介払いと思われることもわかっていたのであった。


 その他、様々な理由からマークはルミアとの結婚の約束を果たす準備をしていたのだった。


 そして、マークはルミアとの結婚のために、動く。


 わずか三日で、マークはルミアとの結婚が決まった。そして、ルミアと婚約破棄されてから初めて会うこととなった。

 マークはルミアの家の応接室で会うことになった。ルミアはマークと出会った瞬間、嬉しそうな表情をさらに強めていた。


「マーク様、約束を果たしてくれてありがとうございます」

「いや、むしろ本当によかったのかい?僕なんかとで」

「マーク様でむしろいいんです」


 マークの問いに、ルミアは食い入るように言葉を返す。マークはその勢いに驚きながらも、少し嬉しさと安堵を感じていた。約束を果たすことは望んでいなかったのではないかと思ったからだ。


「むしろすみません、私のわがままにつきあってもらって」

「いやいや、気にしないでくれ。結婚相手にも困っていたぐらいだから」

「それならいいですが」


 嬉しそうな雰囲気から一転、ルミアは申し訳なさそうな様子を見せる。


「ああだから本当に助かっているんだ。だから気にしないでくれ」


 マークは笑顔を見せる。ルミアは顔を手で覆い、言葉をつぶやく。


「ああ、ホント好き。ホントに婚約破棄になってよかったぁ」


 マークはマークにはなんと言ったかは聞こえなかったのもあり、ルミアの様子に疑問を持ち、首をかしげる。だが、すぐによくあることだと変に納得する。ルミアの謎の行動は時折みられることであったからだ。


「それでね、ルミア。一つだけ言いたいことがあって」

「はい、なんでしょうか」


 ルミアは顔の前から手をどける。マークは一度深呼吸をしてから、言葉をつむぐ。


「僕と結婚してほしい。迷惑をかけると思うがよろしく頼む」


 ルミアは一度ポカンとした後、顔を真っ赤にする。マークはもう結婚は決まっていることはわかってはいたが、それでもその言葉をつむぐことを決めていたのだった。なぜなら、それはルミアの話を覚えていたからだ。


『私ね、プロポーズって言うのが好きなんです。だから、プロポーズは絶対にしてくださいね』 

 

 ルミアは顔を真っ赤にしたままで黙っていた。嬉しさでいっぱいで言葉がでなかったのだ。マークはルミアが黙ったままでいるので、少し困ったが、ルミアの表情でルミアの感情はわかったので、そのままだまっていた。


 しばらくして、ルミアは言葉をつむぐ。


「はい、こちらこそお願いいたします。お慕いしておりますマーク様」


 マークは笑顔を浮かべる。この様子を眺めていた、マークとルミアの使用人は後々までこの時のことをずっと覚えていたそうである。


 そして、マークとルミアは結婚した。マークがだんだんとルミアのことを恋愛対象としても好きになっていったこともあり、二人の仲はとてもよかった。貴族の社会の中でも一番の夫婦とも噂されるほどであった。


 余談だが、マークにはルミアからあとで明かされた秘密があった。だが、マークはそのことについても全く気にすることはなかった。それだけマークはルミアのことを好いていたし、なんとなく秘密があったことを察していたからだ。


 ルミアが転生者であったこと。


 それはマークにとっては些事であった。ルミアはそれを明かすのにずいぶん時間をかけ、明かすことに恐怖もしていたが、マークがすっと受け入れたことで、ルミアはさらにマークのことを好きになっていた。


 二人は最後まで幸せそうに暮らしていった・・・


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