表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ

この戦場では、兵士は「死ぬ」ことで強くなる。


ひとりの死は、誰かに“戦い方”を遺し、

また別の誰かが、それを継いで生き延びる。


けれど、最後に残る者には──

998人分の“死に様”が、記憶として焼き付けられている。


それは最強の兵士か。それとも、最悪の兵器か。

この物語は、そうして生まれた《ラストナンバー》と、

記憶を繋ぐ少女の記録である。


 


「……あなたの中には、いったい何人が、いるんですか?」


 


戦場で死んだ全員の戦いが、彼の中にある。

そしてそれを“記録”するのは、誰の記憶も持たない少女──。


 


魂の継承は、希望か、呪いか。

答えは、まだ誰も知らない。

「オペレーター、通信安定中。第K-15分隊、目標地点に接近。……まあ、今日は退屈な当番だね」


苦笑まじりの声が、ヘッドセット越しに響く。

リコ・エルネストは、ぎこちなくも操作盤を睨みながら、軽く相槌を打った。


「は、はい。異常なし、です。えっと……このままなら、何事もなく終わるはず……」


「破壊工作だけだしな。危険度は最低レベル。新人でも問題なし、ってやつだ」


“新人でも”。


リコの頬が微かに引きつる。配属されて、まだ三日。

現地配備オペレーターとしての初任務。緊張と不安でいっぱいだったが、

分隊のメンバーはどこか余裕で、むしろこちらが申し訳なくなるほどだった。


(よし、大丈夫……何も起きなければ……)


その“何も起きなければ”が、開始から数分で崩れた。


 


《────っ、やべぇ! 伏兵!? 後ろ、後ろだ!》


《くそっ、罠か! 応答しろ、応答──ぐっ、あぁぁぁ──!》


通信が、血に濡れたような音で満たされていく。

悲鳴、怒声、銃声、そして爆音。


 


リコは思わず耳をふさいだ。


だが、オペレーターの手はそれを許さない。


画面の中、マーカーがひとつ、またひとつと“死”の印に変わっていく。


 


(やだ、やだ、こんなの聞きたくない……!)


画面が真っ赤に染まった。

分隊は──壊滅していた。


 


でも、そのとき。


銃声が、ピタリと止んだ。


 


……静寂。


 


次の瞬間、マーカーが“敵”のものから、

一つ、また一つと──消えていった。


 


何が起きているのか、まるで分からない。


映像もノイズ交じり。

砂嵐のように荒れた画面の中で、何者かが、敵陣の中を駆け抜けていく。


 


……速い。


いや、速いだけじゃない。

銃撃、接近戦、地形の使い方……まるで“戦場そのもの”を読みきっているような動き。


 


一人。

ただの一人で、小隊規模の敵を圧倒していた。


 


(なに……? この人、何者なの?)


 


「オペレーター、目を離すなよ。あれが──“ラストナンバー”だ」


背後で、ヴァンス中佐が呟いた。


 


「え……?」


 


「アッシュ・クレイド。所属はK-15分隊。“最後の一人”で、最初から“そうなる予定だった”兵士だ」


 


「な、なんですか、それ……意味が……」


 


「今は理解しようとしなくていい。

 ただ見ておけ。……彼が、どんなふうに敵を“記録”していくかを」


 


リコは、再びモニターを見た。


そこにいたのは、“人”ではなかった。

無数の動き。無数の戦法。無数の死に方。


それが、ひとりの兵士を通して、“なぞられている”。


 


──誰かの“最期”が、また戦場に蘇っていた。


 


彼の名前は、アッシュ。

コードネームは、《ラストナンバー》。


 


その意味を、リコはまだ知らない。


けれどそれが、彼と自分の運命を繋ぐ“記録”の始まりだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ