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第四話「時速300の自己紹介」

 昼の陽光が、天空都市アスフォデルの連絡艇発着デッキに眩しく降り注いでいた。薄く張り巡らされた光層シールドが、直射の強さを和らげているが、ここは上層リングでも特に活気に溢れる場所だ。巨大な連絡艇が次々と滑走路に吸い込まれ、また吐き出されていく。

 その滑走路の一角。警戒ランプが一斉に点灯し、サイレンが鳴り響いた。

「接近警報! 着陸予定外機体、進入速度過剰――!」

 管制員の叫びが飛ぶ。警告灯が赤く明滅し、整備員たちが慌てて退避を始めた。連絡艇ではない、小型の高速機が管制区域に突入してきたのだ。

 白銀のボディに鮮烈なブルーライン。細身の機体は鋭く尖った機首を揺らしながら、明らかに法定速度を大幅に上回るスピードで滑走路を突き進む。速度計は――時速300キロを軽々超えていた。

「なにやってる! 誰だあのバカは!?」

 駆けつけた警備隊長が怒号を上げたその瞬間、滑走路脇の防壁が煌めいた。

「『遮断障壁展開――凌平式・即席防壁術式、完成』」

 凌平の低い声と共に、透明な光壁がぴたりと進入角度に合わせて展開された。暴走する機体はそのまま防壁に接触し、弾かれるように緩やかに減速旋回して滑走路の端へ吸い込まれていく。

 土煙が舞い、静寂が戻った。

 整備員たちが呆然と見つめる中、やがて機体のハッチが跳ね上がる。そこから勢いよく姿を現したのは、長い金髪をなびかせる少女だった。

「フゥーー! やっぱ最高だわ!」

 鮮やかな異国訛りの入った声が響く。少女――ステラは満面の笑みを浮かべていた。全く悪びれる様子はない。

 そのまま彼女は腰に手を当て、回りの騒然とした整備員たちを一瞥した。

「だってさ、速ければ轟音も聞こえないでしょ? アスフォデル最高の滑走路、ちょっと使わせてもらっただけ!」

「……“だけ”じゃないだろうが」

 凌平が呆れた顔で呟いた。彼女が乗っていたのは、今回のプロジェクトのために招聘された外国人テストパイロット用の専用機だったはずだ。

 正式な合流前にこんな無茶をするとは思わなかった。だが――

「君が……ステラ・ヴァレンティーニか」

 駿が静かに歩み寄る。背後には乃愛も控えていた。

「うん、そ! 今日から参加するステラだよ。よろしく、リーダーくん!」

 ステラは悪びれるどころか、手をひらひらと振った。

「いやぁー、アスフォデルの空気、想像以上に薄いけどキレが良い! サーマルも面白い乱れ方するし、これ絶対いいテストコースになるよね?」

 まるで遊園地の感想でも語るように、興奮した様子で言葉を重ねる。

「……自覚あるのか? これ、立派な管制違反だぞ」

 さすがの凌平も若干声を荒げた。だが、ステラは屈託なく笑った。

「ちゃんとブレーキ結界張って止めたじゃん? あなたが。すごいね、あんな即席展開できるなんて! さすが、噂に聞いた天才補助術士!」

 凌平は思わず言葉に詰まった。褒められているのだが、褒め方が軽すぎる。




 そのやり取りを横で聞いていた乃愛が、控えめに口を挟んだ。

「あの……ステラさん、そのスピードで接近したら管制局に迷惑がかかるって、ご存じですよね?」

「もちろん! でも逆に考えてよ?」

 ステラは人差し指をピンと立て、瞳を輝かせる。

「万が一何かトラブルが起きたときに、私が自力で制御できる限界がどこか、先に知っておいた方がいいでしょ? つまり自分の限界テストを兼ねた到着ってわけ!」

「そういう問題じゃないと思うけど……」

 乃愛は苦笑しつつ、駿の表情を伺った。だが、駿は微動だにしない。

「……ステラ」

 低く名前を呼ぶと、ステラはきょとんとした顔を見せた。

「君が速さを信条にしているのは理解した。だが、速さには『制御』が伴うべきだ。エテルナ・コードは高精度な記憶学習機構を持つ。操縦者が無理をすれば、それ自体が“学習”として機体性能に刻まれる」

「へえ? それ面白いね!」

 まるで怒られているとは思っていない。新しいおもちゃの説明を聞いているような好奇心だけが前に出てくる。

「だったらなおさら、私みたいな実戦派の感覚が必要でしょ? 失敗なんて怖がらなくていいわ。失敗しても、次に活かせばいいんだから!」

「……君は乃愛の考え方に近いな」

 駿が意外そうに言うと、乃愛は軽く肩を竦めた。

「私は『間違えたらすぐ訂正』の方針だけど、ステラさんは『間違いすら楽しむ』感じかな……?」

「その通り! ほら、似てるじゃん! 仲良くしようよ、乃愛!」

 にこっと満面の笑みを向けられ、乃愛は思わずたじろいだ。

「い、いや……あの、もちろん、仲良くは……」

 やや引き気味の乃愛の様子を見て、凌平が咳払いを挟んだ。

「まあまあ……ともかく、派手な自己紹介は済んだわけだ。あとは正式にチームに加わるだけだな」

「もちろん! 今日から私も全力で走るわよ!」

 ステラは高々と右手を挙げた。その無邪気な明るさは、このチームに新しい風を吹き込むことになるのだろう。

 しかしその一方で、駿は冷静に思っていた。

 ――制御の外にいる者は、時に危険だ。

 だが、この“自由な風”をどう利用するかが、今後の設計にも影響を与えていく。エテルナ・コードはまだ完成していない。だからこそ、さまざまな思考と技術、性格が交錯する場が必要なのだ。

 こうして、破天荒な外国人パイロットが新たに加わった。

 再試験まで、残りはわずか十日しかない――。

(第四話 完)


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