世界の歴史と面倒くさい攻略対象
「アルエットさま!これ、うちの領地の名産の香水です。ぜひ使ってください」
「ありがとう、イザベラ。大切に使うわね」
「あ、ずるい、わたしも!この髪飾り、わたしが作ったんです。アルエットさまならよくお似合いになると思います!」
「あら、ありがとう。マリアンナは手芸がお上手ね」
悪役令嬢アルエットの周りには、今日も人だかりができていた。彼女の美貌と人柄への賛辞を唱えながら、熱心な崇拝者たちが次々と貢物を置いていく。そして、アルエットの背後に影のようにはりつく眼鏡の男子生徒たちに引きはがされ、建物の外へと連行されていく。ここはアイドルの握手会場か。なお、連行された生徒は律儀に戻ってこない。
「ではお嬢さん、そろそろ。僕もこれで失礼します」
「お会いできて光栄でした、アルエットさま!」
最後の一人が扉の向こうに消えていくのを見送り、アルエットは小さくため息をつく。今日もものすごい量の贈り物をもらってしまった。便利な収納魔法が使えなければ、教室から教室を移動するだけでも苦労しただろう。以前お礼状が出せないからものを贈るのはやめてくれと伝えたら、お礼状などいらないからとにかく受け取ってと懇願されてしまった。他人様の善意を無碍にもできないし、もはやどうしたらいいのか分からない。
チュリチュリという鳴き声がして、アルエットは窓から空を見上げた。コマドリだ。楽しげにさえずりながら、小さな灰色の翼をはためかせて飛んで行く。アルエットは唇を引き結び、コマドリのいなくなった空を見上げた。
―こうして人に囲まれるのは、本当はわたくしじゃなくて、あの子のはずだったのにね。
アルエットが魔法学園に入学してから、三ヶ月が経っていた。
ロビンがいなくなった後でも、なに滞りなく日常は進んでいく。
別の世界でヒロインと呼ばれていても、こちらの世界にとってロビンはただの少女でしかないようで、神の裁きだの世界の崩壊だのの起こることはなかった。それはどこかありがたい処置でもあるようで、同時にどこか寂しかった。
ヒロインがいなくなっても、代役を迎えて世界は勝手に進んでいく。それなのに、自分は悪役令嬢になり切れないでいる。いびつな形であれ、シナリオを強制執行してゆくこの世界でどう振る舞っていいのか、アルエットにはいまいち分からなかった。
アルエットがそんな感傷に浸っている頃、「ロビン」の代打としてヒロイン生活を送る羽目になったラスボス・アザゼルは、大いに困惑した表情で、廊下の隅っこ、壁と壁の交差する場所に追いやられていた。
「ロビン君。どうしてあんな発言をした」
覆いかぶさるように壁に腕をつき、アザゼルに詰め寄っているのは水色の長髪にフチなし眼鏡、理知的な金の瞳の印象的な若者だ。周囲で迷惑している生徒たちよりも少し年上だろうか。洗濯をサボっているのか、白衣は少し薄汚れている。身なりに気を遣わない主義なのか、靴もズボンも、あと少しで伯爵令息としての体裁をぎりぎり保てなくなってしまうようなくたびれ具合をしていた。
彼の名はクロード・スレッダ。この学園の《魔術研究生≫、すなわち大学の助教のような立ち位置として雇用されている、攻略対象の一員だ。通常、乙女ゲームのヒロインならば「壁ドン」の状況に胸をときめかせるところだが、中身のアザゼルはラスボスである。この状況を恋の始まりなどと解釈する思考回路は持ち合わせがない。今の感想を求められれば、「とにかく邪魔」の一語に尽きる。
狭苦しいから本当にどいてほしい。なぜ自分が詰められなければならないのかを問いただしたが、返答はない。こちらが真意を推し量って謝罪するまでだんまりを決め込む了見のようだ。
それにしても、分からない。
こいつとは墓を出てから今に至るまで面識はないし、廊下ですら出くわしたこともない。足を踏むとかぶつかるとかもした覚えはないから、恨みを買うような心当たりは何一つない。必死に頭をひねってみても、
―この男は大金の入った財布でも落とすか盗まれるかして、自分はその最有力容疑者と疑われているのだろうか?
という以外に、何の憶測も出てこなかった。
とりあえず、低姿勢に出て様子を見る。
「あのー、わたしは拾った財布はお上に届け出る主義ですが」
「おお、それは大変結構な心がけだな!だが一体何の話をしている!」
「あ、念のため言っておきますが飛んでも小銭の音はしませんよ」
「カツアゲじゃない!僕の実家が貧乏伯爵家だからといって、愚弄する気か!」
うん、財布が原因じゃなさそうだ。
話し合いの余地はないと見た。仕方がないので、顎を引いて少し腰を落とす。そこから鋭角に相手の鼻をつけ狙う。この体は少し小さいが、今、クロードは前かがみの姿勢を取っており、的は自分の頭頂部から十センチほどの距離にある。威力は十二分に期待できそうだ。
「聞いているのか」
無視を決め込むアザゼルにしびれを切らしたのか、クロードの手が襟に伸びて来る。
―今だ!
脚の筋肉をばねのように収縮させ、一息に頭突きを見舞ってやろうとしたその時、向こうから救いの女神が駆けつけて来た。
「ちょっと、クロード、離れなさい!ロビンがびっくりしているでしょう!」
頭に扇子の一撃を入れ、壁と壁の隙間、もといアザゼルからクロードを引っぺがすアルエット。持つべきものはお人好しの悪役令嬢である。
「いや、これには深い訳があって・・・・・」
「どんな理由があるかは知りませんけど、女の子を怖がらせるなんて、紳士にあるまじき行為でしてよ。反省なさい!」
そのまま尋問に連行されそうになり、アルエットともみ合うクロード。アザゼルが怯えるどころか、その細首で容赦なく頭突きを見舞おうとしていたことは、本人以外誰も知らない。
しばらくの取っ組み合いの後、何とかアルエットのコブラツイストを振りほどいたクロードは、最後にトドメとばかりにアザゼルに詰め寄ると、
「とにかく、きみにはがっかりだ。きみならば、あんなことだけは絶対に言わないと思っていた!」
捨て台詞のように言うだけ言って走り去っていく。顔を覆い、背中を丸めたクロードの姿は、恋人の不実を目撃したばかりの哀れな若者の姿を想起させた。そして、その姿は甚だしく周囲に誤解を植え付けた。興奮を抑えた甲高い囁きが周囲で交わされる。
「・・・・・わたしは今、何を勝手に期待されて、勝手に失望されたんだ?」
アザゼルは怪奇現象に出くわした人の顔でその背中を見送り、壁の隙間に呆然と立ち尽くすしかなかったのであった。
なぜこんなことになったか。事の発端は、数十分ほど前、パルミラ王国史の授業にさかのぼる。
今日も今日とて、担当のベイゼル先生は、常に不機嫌そうなガラガラ声を張り上げ盛んに拳を振り回し、無駄に長い黒板の前を足早に何往復もしていた。だんだん、先生の姿が催眠術の振り子に見えて来る。アルエットはこの講義が退屈で、あまり好きではなかった。
「これは、数年前、バーミリア伯爵領のリラ遺跡で見つかった石板に記された一節です。読み上げます」
誰の声色を真似るのか、ガラガラ声を裏返し、表情筋全体を上方に吊り上げて、大袈裟な身振り手振りで朗読を始める。先生が口を大きく開けるたび、口髭の先端がひょこひょこと動いた。その髭は左右に反りくりかえったふざけた形状で、たしか元の世界ではカイゼル髭、という名前だったと思う。しかしあの髭を成形するにはグリースか何かでべったり固めなければならなかったはずだ。あの自在な伸縮性を担保する仕組みがいまいちわからない。髭のセットに関する魔法など聞いたことはないが、先生は何か新らしい魔術でも開発したのだろうか。
『天地創造の次第はこうである。
創造主は自分が存在していることに気づいた。そして、自分一人だけが存在していることを寂しく思った。そこで、創造主は世界を作ることにした。
まず、自らを補佐するものとして、天使を生み出した。
次に天地を定め、太陽を、月を、星を作った。海と陸を分け、岩を作り、草木を作った。そこに満ちる獣を、虫を、魚を生み出した。
最後に創造主は、地上に住まう人間を生み出した。天使たちは、この創造物の末子を大変愛おしいと思った。そこで、双子の兄弟で、天使たちのまとめ役であったミカルとルシフは、この幼き被造物にそれぞれがふさわしいと思う祝福を授けた。
ミカルは、一生をあざやかに彩る豊かな感情を。
ルシフは、自分で幸せを生み出してゆく文明の知恵を。
こうして人間は地上に放たれた。だが、人は大変脆い造りをしていた。獣のように鋭い爪や牙もなく、寒さをしのぐ厚い毛皮や衝撃に耐える堅い甲羅もない。その代わりとしてルシフが知恵を与えたとはいえ、まだそれを十分に使いこなせているようには見えなかった。
天使たちは話し合い、特に信頼のおける八人を選び出して、地上の監督に当たらせることにした。すなわち、友愛を司るグラシャラボラス、魔術を司るアルマロス、幻視を司るレミエル、自然の言葉を聞き分けるカイム、海を司るラハブ、護身術を司るバラキエル、植物を司るシェムハザ、気象と太陽を司るアザゼル。アザゼルが彼らの長であった。
はじめ、人々は天使を敬い、天使たちは人々を慈しんで教え導き、地上には平和で満ち足り時間が流れていた・・・・・』
先生はそこで言葉を切り、読んでいた本を親の仇とばかりに教卓目掛けて叩きつける。教室の天井アーチにバァァァァァン、という重い音が反響し、居眠りをしていた生徒が全員飛び起きた。
「近年、こうした遺物を証拠に、善神ミカルの地位をあの忌まわしき邪神と同列に引き下げ、パルミラ王国の歴史を疑う学説が流行しています。確かに、リラ遺跡は千年ほど前の神殿跡です。時期的にも、神殿にその主を侮辱するような石板を奉納するなどありえないという観点からも、資料としての信憑性が高いことは否めないでしょう。しかし、遺物など後からいくらでも偽装はできる。こんなものを信じるなど、まったくもってナンセンスです!」
老先生は口角泡を飛ばしながら、台風のさ中に放り込まれた割れ鐘のように論駁を滔々とがなり立てる。途中、教卓の隅に拳をぶつけて顔をしかめたが、何事もなかったかのように全文を言い切った。あっぱれな執念である。
「いいですか、みなさん。本当の歴史はこうです。堕天使たちは、神から地上の監督を仰せつかったにも関わらず、人間が繫栄していくことに嫉妬し、邪神ルシフと結託して世界を滅ぼそうとしまた。そのせいでほとんどの人間は死に絶えましたが、その中から善神ミカルが心の清らかな男女二人を救い出した。その子孫が我々パルミラ王国の民なのです。これこそが真実です」
アルエットは教科書の影で冷笑を浮かべた。
―見事なまでに嘘ばかりですわね。
このゲームをクリアしたアルエットは、ミカルもルシフも、この出土文献が示すように、元は一介の「天使」だったことを知っている。それが一連の事件後、この両者はアザゼルたちの処遇を巡って喧嘩別れし、人間を害そうとつけねらうルシフが「邪神」、ルシフの魔手から人間を救おうとするミカルが「善神」と呼ばれるようになったに過ぎない。それに伴い、善神ミカルの眷属が「天使」、邪神ルシフの眷属が「悪魔」と呼ばれるようになった。
はじめは創造主の代理人たち全体を指して「天使」と呼んでいたのだが、ミカルとルシフが「神」に祭り上げられるにしたがって、「天使」の語の持つ意味も変化した。この字義の混乱から、堕天使たちは長らく悪魔扱いに甘んじている。堕天使たちは「天使以下悪魔未満の霊体」であって、本来は善神と邪神のどちらにも属さない。
だからこそ、この『ユメウタ』世界では、堕天使たちが善神と邪神どちらの勢力に取り込まれるかで、今後の世界の趨勢が決まっていくことになるのだ。
本作の敵役・邪神教団は、邪神ルシフの力で堕天使を「悪魔」の側に引き込み、その力を世界の支配に利用しようと考えている。
他方でヒロインは、善神ミカルに浄化の力を与えられ、堕天使たちを「天使」に引き戻そうとする立場だ。堕天使たちが「天使」へ復帰する要件は、「自分のやったことを反省し、人類の庇護者としての自覚を取り戻すこと」。物語の開始時点では、世界を滅ぼそうとしたことについての反省はかなり進んでいるが、「人類の庇護者としての自覚」を取り戻すことはできていない、という状態だった。人間との信頼関係を失い傷ついた彼らは、もう自分たちが人間から必要とされないことに苦しんでいる。そこで、自力での改心が難しいと判断したミカルは、最後の手助けをヒロインに命じるのだ。
しかし、堕天使たちは邪神教団に操られ、ステージごとのボスとしてヒロインの前に立ちはだかって来る。ステージをクリアし、救済のための大技《浄化の祈り》を発動させるためには彼らを一回ボコボコにしなければならない。アルエットも初めてプレイした時は、「鉄拳制裁?」と首をかしげた。
それはひとまず置いておくとして、とにかく、ボス戦をクリアすると、さっきボコボコにした堕天使の記憶に触れることができる。堕天使一体を救済していくごとに真の歴史が暴かれていき、最後には天と地の和解が実現する、というのが本作のシナリオなのだ。
「堕天使についての見解も同様です。最近、『堕天使非悪魔論』と題した論文を発表し、堕天使どもを信仰の対象に加えるように主張する輩もいますが、こんなものは異端の学説、邪神を奉ずる輩の妄言に過ぎません!みなさん、こんなものに惑わされてはいけないのです」
先生はなおも力説を続ける。この一件、パルミラ国民にとっては信仰が揺るがされる大問題なのだが、アルエットはいまいちついていけなかった。
日本の汎神論的・多神教的な感覚を引きずったまま異世界に来てしまうと、ミカルとルシフが天使だろうが神だろうが、さして重要な問題には感じない。まあ、ひっくるめて人間以上のものとして崇めておけばなんとかなるだろうという頭がある。日本の祟り神方式に、堕天使だって祀ればそのうち人間の庇護者としての自覚を取り戻すかもしれないとも思う。超能力持ちのヒロインに任せるより時間はかかるだろうが、ゲームの趣旨からしてあながち間違ってはいないと思う。
この世界にも少数ながら似たような考え方を抱く者もいるが、はっきり言って異端の扱いだ。先生がさっきこき下ろした論文の著者、ベルフェゴール公爵やスレッダ辺境伯などは、堕天使たちを再び人間の庇護者として祀るべきだと主張しているが、彼らはゲーム本編でも悪役、邪神教団の一員として描かれている。ここで「アルエット」が「堕天使非悪魔論」の旗幟を鮮明にするとゲームの展開を壊してしまうので、表向きはベイゼル先生の一派という顔をして適当に相槌を打っておく。
何度でも言おう。アルエットは原作至上主義者である。しかし、かなり詰めが甘いお人好しであるため、行動は穏健派のそれである。
「いいですか、みなさん。こんなくだらない論説に騙されないためには、歴史の実像を、正しく、理解せねばならんのです」
ベイゼル先生は獲物を狙うトンビのように、教壇の上をぐるぐると動き回る。おそらく、この流れで敵対勢力とおぼしき生徒を指名し、みんなの前でつるし上げるつもりなのだろう。生贄になるのは誰かとみなが固唾をのんで見守る中、先生は一人の生徒を指名した。
「そこのきみ、堕天使アザゼルの犯した罪を答えなさい」
なんと、先生が指名したのはアザゼル本人だ。最悪の人選である。隣で気をもむアルエットをよそに、アザゼルは相変わらずの無表情で起立し、よく磨かれた銀細工のような声で答える。
「堕天使アザゼルの罪は三つあります。一つは、人間に知恵を与えて堕落させたこと。一つは、人間の妻を娶ったこと。最後の一つは、全てが自業自得であるにも関わらず、神から与えられた役目に叛き、人間を滅ぼそうとしたこと、です」
端々に侮蔑が滲む言葉選びをしているあたり、ベイゼル先生の好みを的確に押さえた完璧な模範解答だった。これにはアルエットも少し驚いた。自分で言っていて哀しくならないのだろうか。
「素晴らしい。救世の聖女たるものこうでなくちゃならんと思わんかね。王家たるもの、チャラチャラ流行りに流されず、汚らわしい悪魔どもには断固たる対決姿勢を示すべきだ。だいたい、今の若者は—」
自分の理想通りの解答に、先生は満足げに鼻の孔を膨らませる。そのまま勢いづいて大演説を打とうとした瞬間、昼休みを知らせる鐘が鳴り響き、全生徒は一目散に教室から逃げ出した。アルエットたちもそそくさと後に続いた。そしてアルエットが信者に取り囲まれて目を離した隙に、アザゼルがクロードにつかまっていたのであった。
廊下でのひと悶着の後、二人は満身創痍で食堂に移動した。やっと午前中の授業が終わったばかりだというのに、無駄な労力を消費させられたような気がしていた。
食堂は「ザ・西洋の城」といった外観で、渡り廊下で学生寮の一部とつながっている。内部は全校生徒を楽々収納できるほど広大で、飾り気のない灰色の石の上に、入り口から奥に向かって簡素な木製の長机が延々と並べてあった。生徒が増えて入りきらなくなるたびに、空間を捻じ曲げる魔法で収容人数をごまかすらしい。この学園には給食のようなシステムが導入されていて、生徒たちは食堂を無料で利用できる。提供されるメニューは量も質も兼ね備えた料理揃いとあって、筋肉系や苦学生、平民、寮住まいの生徒たちからの人気が高い。いつも大勢の人でごった返しているのだが、クロードにつかまったせいで昼休みも後半に突入したため、座席の半分程度しか埋まっていなかった。
「で、結局あれは何だっだんだ」
あまり食欲が湧かないらしく、スープの中身を適当にかき回しながら、アザゼルは尋ねた。本日の全精神力を使い果たしたような顔をしていた。
「今のはイベントでしたのよ」
同じくげっそりはしているがおくびにも出さず、優雅にスプーンを口に運びながら、アルエットは説明を始める。
古代魔術の研究者であるクロードは、大昔の文献を読み漁って育ったせいで、堕天使たちに好意的だ。彼の指導教員はさっきのベイゼル先生なのだが、学術的な立場の相違とクロードの才能に対する嫉妬から、いつもネチネチやられストレスをたっぷりため込んでいる。
そんな時、クロードの目の前に現れたのがヒロインだ。ヒロインは、王家も認める「善神ミカルより堕天使たちの救済を託された聖女」である。本編冒頭のチュートリアルを含めて、すで三体ほど堕天使を救済した実績もある。クロードにとってヒロインの存在は、堕天使たちが邪神ルシフの手先ではなく、依然として善神ミカルの領分にいることの生きた証左だった。丁度この頃、ヒロインも堕天使たちの記憶を垣間見る中で、今まで教えられてきた歴史に疑念を抱き始めている。クロードとしては、ヒロインがベイゼル先生の鼻柱をへし折ってくれることを秘かに期待していた。そこに来ての二択。
先生の主張に迎合するか、自分なりの疑義をぶつけるか。
そういうわけでクロードは、ベイゼル先生に迎合するような発言をしたアザゼルに詰め寄ったのだ。アザゼルの、「勝手に期待されて、勝手に失望された」という指摘は一応当たっている。
ちなみに、ゲームでこの展開になると、クロードの好感度が中々上がらないようになってしまう。古代魔法を複数習得し、かなりレベルを上げた後でしか挽回できない。その魔法も救済した堕天使から教えてもらうという設定なので、五つのステージを全てクリアする必要がある。もはやゲームを終盤である。
裏を返せば、ここの選択肢さえ間違えなければ、クロードの攻略難易度は割と簡単である。