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01:聖女に人権はありません

「いいですか?働かざる聖女食うべからず。城は無料のホストクラブでも執事喫茶でも介護施設でもありません!貴女の生活費がどのようにして賄われているか、よもやご存じないわけがないでしょう。

税金ですよ、税金。民たちの血税で貴女は豊かな暮らしを保障されています。税金がなければ、貴女の生活は成り立ちません。

ですが!税金の多くを納めている貴族や商人たちの財産が、今まさに、凶悪なイカサマ師に狙われているのです!

この問題を放置したら、どうなるかおわかりですか?

民たちの財産が減ってしまうとその分、税収が下がり…財政が逼迫すれば、当然!貴女の生活費は少なくなります。最終的には出せなくなることだってあるでしょう。そうなれば我々も着の身着のまま、寒空のもとに放り出すしかなくなります。

それが嫌なら、あなたは!聖女として!!この国を救うしかないのです!!!」


メガネをつけた男が唾を飛ばしながら熱弁してるのを、聖女は「ふぇ?」といった具合で見つめていた。

聖女の座る豪華絢爛な椅子の右には、右手のネイルを手入れするイケメン。左には紅茶をサーブするべくポット片手に待機するイケメン。前には大きな扇で優しく風を送り続けるイケメン。椅子に大きく寄りかかり、イケメンを侍らせているその姿は、聖女というか、もはや女王の様相だ。


パンパンッ


先ほどのメガネ男が苛立った様子で手を叩くと、それを合図にイケメンたちは撤収を始める。


「あ、あぁ…」


聖女はなす術なく情けない声を出している。一瞬で侍っていた男たちはいなくなり、広い空間にポツンと取り残されてしまった。

シーンと静まり返る執務室。机には山のように積まれた資料。コホン、と一つ咳払いをして、彼女は話をする体勢を取る。


「…でも、私にそんな警察みたいな捜査ができると思わないです。バジルさん、生活費を自分で稼げっていうんだったら私、普通に働いてもいいし…」


「…アイリ様。聖女に人権はない、と何度言わせれば気が済みますか?」


やれやれ、とわざとらしい顔をして、バジルと呼ばれた男はあきれた声を出す。その姿は見た者誰もがムカつく態度だし、実際アイリもムカついた。


「それって働く権利も含まれるの?」

「いいですか、よくお聞きください。聖女なんて所詮、召喚されただけの異世界人。私たちの国の住人ではないのです。太古の昔こそ、その手に宿る聖なる力を有難がり敬ってきましたが…今や調子に乗った聖女が自分の故郷の文明を持ち込み、そのせいでいくつもの国がオーバーテクノロジーにより滅んできました。もしあなたが働いたせいで、仕事に革新的な進化が起き!その結果民衆の心が乱れ!国が破滅してしまうかもしれないんですよ!!」

「ただのOLにそんな事できるわけないし、そもそも私に発現してる魔法、これだけなんですけど…」


彼女は手の上に光の球を作る。熱を持たない、ただ光るだけの魔法球だ。アイリがこのルノワール王国に召喚されたときに発現した、たった一つの魔法。聖女に与えられる“聖なる力”。こんなショボい魔法ひとつで国民から敬ってもらえるとは到底思えなかったし、求心力のない聖女に国を滅ぼすほどの影響力があるとは全く思えなかった。

しかし…


「聖女っていうのはね、みんなそう言うんですよ!とにかく!一般的に働くことは許可できませんし、聖女ならこのイカサマ師による謀略から国を救ってこそです!それがあなたの使命です!わかりましたね!?」


こめかみに青筋立てて喚き散らすバジルを見て、男のヒステリーってあるんだなーと思いながらアイリはぼんやり眺めている。彼は別に無能なわけではないのだが、こうなってしまうともはや会話が成立しない。だから相手にしないのが正解なのだ。

せっかくの端正な顔が台無しである。もったいない…


「はぁ…めんどくさ…」

「なっ…めんどくさい!?なんと失礼な、貴女という人はいつもいつも」


コンコン


留まるところを知らない二人のレスバに終止符を打ったのは、来訪者を知らせる音だった。

ノックのした方を見ると、全身真っ白なスーツに身を包んだ若い男がこちらを見ている。声は美しいテノールだ。帽子をかぶり、コートを肩にかけている姿は、なんとも気障ったらしい。


「失礼、バジル殿はこちらにお見えかな?」

「これはこれはヴェルナー卿ではないですか!こんなところまでいかがいたしました?」

(こんなとこって…、こいつ…)


先ほどまでの剣幕と打って変わって、バジルは猫なで声を出しながら白スーツに近づいていく。強く出ていい相手を見極めるのは、できる官僚の処世術なのだ。少なくとも彼はそう思い込んでいるし、周りに嫌われれば嫌わられるほど、その思い込みを強くしていた。

しかしそのおかげで、この来訪者はある程度の地位にある者か、実力のある人物であることが分かった。バジルは自分より下と認定した人間に敬意を払えるほど、人間ができていないのだ。


「先日の話題に出ていた西方の貴重な紅茶が手に入りましたので、お試しいただけたらと思いまして…お忙しいようなら出直しますが」

「いえいえ滅相もない!すぐ!すぐに参ります。どうぞこちらに!」


男たちは建前だけの笑いをこだまさせながら去っていく。

いよいよアイリは大量の捜査資料とともに取り残されてしまった。


さて。


(なんでこんなことになっちゃったかな…)


アイリは一人考えていたが、答えは明白で、彼女自身が悪いだけだった。


話を巻き戻すこと、この物語の冒頭の数分前…


新年あけましておめでとうございます。

今年の目標は、まずこの作品をエタらず終わりまで書ききることです。

次は1/2(木)昼12時過ぎにアップ予定です。

よかったらブックマーク、フォローしてお待ちしていただけますと幸いです。


本年もよろしくお願いいたします。

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