空のランデブーと、その行き着く先
「うわー、ホントに早い、」
モイラがまた歓声を上げる。
「当然でクエ!」
何故か威張っているのは俺の懐に入って楽をしているネビルブ。俺は遠方まで見渡せる様にまずは一気に高度を取った。赤い太陽(?)が沈み行く中、まだギリギリ人の目でも景色を見渡す事が出来るだろう。
「あっちの方、あの山の麓辺りに首都のレミスが有るはずよ!」
「…なるほど、街が有るな。あそこへ向かえば良いんだな。」
「え、見えるのボニー? 凄い! わたしじゃあ昼間明るくてもあんな所まで見えない。」
「目は良い方なんでな。当座の目的地は分かったし、あそこに着くまではかなり掛かる。なんなら寝ていてもいいぞ。」
そう提案する俺だったが…。
「う〜ん、何だか寝ちゃうのがもったい無いみたい。…わたし、自分の召喚魔を持つのがずっと夢だったの。父さんや母さんが召喚魔と一緒に仕事してるのが楽しそうだったし、アンジーがシルフと他愛の無いおしゃべりをしているのも羨ましかった。でも、ボニーとの経験はそれらを遥かに上回ってる。召喚魔と一緒に空の旅なんて想像もして無かったもん。…やっぱり、寝ちゃったらもったい無い!」
何やら俺の腕の中ではしゃいでいるモイラ。
「ふふ…、しかしもう間も無く夜になって真っ暗だ。眼下は当分森ばかりで変わり映えしない。飽きるぞ。」
俺がそう言っても暫くはもったい無いと言って抵抗していたモイラ。だが間も無く完全に日が落ちて夜の闇が訪れると、本当に何も見えなくなった為か、いつの間にか眠ってしまった様だ。
俺は夜目が効くので目的地を見失う事は無い。道行きに横槍を入れられるのが嫌でなるべく高度を取って飛んで行く。それでも何度か飛行型の魔物の襲来を受けるが、接敵される前にエボニアム・サンダー(控えめ)で撃退し、モイラを起こさない様に努めた。
そうして夜通しのフライトは再び空が白み始めるまで続き、気が付けば、かなりの広さが有って、エボニアム国の城下町と比べると遥かに文化的な、目的地の街が目前だ。
「首都に着いた様だぞ。何処へ向かえば良い?」
俺の呼び掛けに、モゾモゾと動き出すモイラ。
「あ…、えっと…、はっ!」
何とか状況を思い出すモイラ。
「えへへ…、結局寝ちゃった。えっと、目的地だよね。あの一番高いのが王城、そのすぐ左にいかにもお役所っぽい建物が有るでしょ、あそこへ寄って。」
「承知した。」
目的地の指示を受け、街に近付いて行くと、街の方からも飛んで来る者が有る。でかい杖の様な物に跨った数人の兵士らしき人影がこちらにやって来るのだ。まあ、怪しい奴めと言われたら反論のしようも無いが…。
「パンプール魔法学園の使いの物か⁈ 」
先頭でやって来る空飛ぶ兵士が呼び掛けて来る。良かった、話は通っている様だ。
「そうでーす! 召喚術学科の、マリーヴ・ルーフ教諭の使いとして来ましたー!」
ヘルメットを脱いでモイラが答える。
「付いて来なさい!」
兵士に促され、彼の後から付いて行く、周りを兵士達に取り囲まれながら。向かうのはやはりあのお役所。その中庭に降り立ち、モイラを降ろし、彼女のヘルメットを引き取る。
「わたしは召喚術学科の生徒のモイラ・キートと申します、両親は商人で、こちらにも食品や薬品の納入で何度か伺った事がございます。」
「ああ、そう言えばキート商会んとこの一番ちっちゃいお嬢ちゃんだ、見掛けなくなったと思ったら、パンプールにいたのか!」
何と、兵士の一人がモイラと面識が有った様で、一気に空気が和む。これは有り難い。
「後ろはお前の召喚魔か?」
「はい、ボニーのお陰で一晩でここに来る事が出来ました。」
最初より大分柔らかくなったリーダーらしき兵士の質問に元気に答えるモイラ。
「なるほど。まあ急ぎの要件だったな。我々はただの警備の兵士だ。挨拶は中で担当官とするといい。案内しよう。」
そう言い建物の中に我々を招き入れるリーダー氏。モイラが居なければこんなにスムーズにはいかなかっただろうと思う。それなりの早足で先導する兵士リーダー。階段も使って3階まで上がり、更に奥へ。モイラなどはハアハア息を切らしている、ゴワゴワのジャンプスーツが邪魔そうだ。そしてやって来た、と或る部屋の前。"保管庫"と表示された丈夫そうな扉の正面には幾つかの魔力を帯びた石がはまっている。恐らく鍵の役割をする魔法装置だろう、厳重な事だ。
「この扉はそれなりの地位の方で無いと開けられないのだ。連絡はして有るので、暫し待たれよ。」
と、リーダー氏。なるほど、誰か偉い人が鍵を開けに来てくれるのね。
すると程なく我々が来た側とは逆の方から足音や話し声がして来る、結構な人数で来る様だ。
「何も貴方様が自ら出向かれる事も御座いませんでしょうに!」
「馬鹿ね! あの学園の共同異空間の消滅なんて、国難レベルの大事よっ、即刻飛竜騎士か、せめてペガサス騎士団を派遣するのが当然でしょうに、手続きでモタモタしている間に学園からの使者の方が先に到着したって? 恥入りなさいな!」
そんな言い争う様な声が聞こえて来る。やがて通路の角から姿を見せる御一行。
「なっ⁈ 」
思わず声を漏らすリーダー氏。だが即座に通路の端に整列し、直立不動となる兵士達。何が起きているのか良く分からぬままこちらに近付いて来る一行を見る。兵士や文官を引き連れてやって来る女性、角や翼が有るので人間では無いだろう。決して大柄では無いし、きらびやかな服装という訳でも無いが、明らかに集団の中で一番偉い人というオーラを放っている。あれがカリスマってやつなんだろうなぁ等とぼんやり考えていた。
「女王…様?」
モイラが上擦った声を上げる。
「え、女王って?」
「この国のトップ、魔王四天王の1人、ビ…ビオレッタ様でクエ。」
俺の疑問に答えるネビルブの声も少し震えている。と、こちらに気付いたらしい女王様、文官との会話を中断、俺を真っ直ぐに見、足を早めて迫って来る。あ、これヤバいんじゃ…と思った瞬間、女王の強い声がその場全体に響き渡るのだった…。
「なぜお前が此処に居るの? エボニアム!! 」
ー第三話 終了ー