表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

パンプールの大ピンチ

 いよいよ間近となった制御塔(せいぎょとう)、そこに広がる異常な光景。塔の(まわ)りには多数の召喚魔(しょうかんま)がたむろしながら呆然(ほうぜん)としている。そして今しも空中から不意(ふい)に現れる新たな召喚魔、小動物っぽいそいつは(しば)逡巡(しゅんじゅん)していたが、突然走り出すや、森へと消えて行った。

 それ等を横目に塔の中へ入る。普段は固く閉じられているらしい入り口は今は開いていた、というか、明らかに無理矢理こじ開けられている。

 中には、もちろんマリーヴ教諭(きょうゆ)。 操作盤(そうさばん)の様なパネルに向かい、せわしなく何か調整(ちょうせい)している。モイラが倒れた時と同様の、かなり(あせ)った様子だ。(かたわ)らにはバルキリーと、学者風の男性、学芸員かと思ったが、(にお)いで召喚魔だと分かった、あれがディアン・ケトとやらだろうか。

「バルキリー(ねえ)さーん!」

いち早く()け付けたのはシルフ。

「一体これ、どうなっちゃってるの(ねえ)さん?」

「ああ、共同異空間を維持(いじ)する為の魔力を供給出来なくなったんだ。」

「…へ?」

質問したものの難しい事は分からないらしいシルフに代わり、モイラが質問を引き継ぐ。

「魔力の供給って、魔結晶(まけっしょう)よね。此処(ここ)にはかなり大きなものが使われていて、5年は()つ程の魔力量が(たくわ)えられてるって話でしたよね。」

魔結晶とは、魔力要素が結晶化した物。魔力の無い者がこれで魔法を使ったり、特定の魔法を込めておいたり、魔力を動力として使う施設(しせつ)のエネルギー源として利用されたりするそうで、ザキラムの特産品なのだそうだ。俺は以前にもそれを見た事が有る、思い出したく無いが。(ちな)みにそれの粗悪(そあく)代替(だいが)え品が魔力電池という事になる。

 モイラの質問は続く。

「この場所に来た時に入り口が(こわ)されてました。ひょっとして、破壊工作か何かに会ったんじゃ…?」

「工作かどうかは分からない。だがとにかく、何者かにより魔結晶が破損(はそん)させらせた。破損(はそん)した魔結晶でも異空間を維持(いじ)出来る様に、今ご主人が装置を調整しているところだ。」

そうバルキリーが説明してくれる。すると丁度(ちょうど)その"調整"を終えたらしいマリーヴ教諭が(つか)れた顔で振り返る。

「やれるだけの事はやったわ。異空間の収縮(しゅうしゅく)は止まったし、召喚主と召喚魔との(つな)がりも阻害(そがい)されなくなったはずよ。」

「お疲れ様、ご主人。」

教諭に(ねぎら)いの言葉を掛ける男性の召喚魔。

「ありがと、ディアン。…ただ、あくまで応急処置(おうきゅうしょち)よ。収縮(しゅうしゅく)は止まったとは言え異空間のサイズは元の一割程度、出されてしまった召喚魔を又全部収納(しゅうのう)し直すのは不可能ね。現状の維持(いじ)だってやっと。それもいつ崩壊(ほうかい)したっておかしくない状況よ。」

「破損した魔結晶って、代わりは手に入らないんですか?」

「あのサイズの魔結晶となると、精製(せいせい)するのに100日は掛かるし、その辺のお店ではちょっと買えないわ。国の首都レミスの魔法局(まほうきょく)には次のが出来ているはずだから、連絡して(とど)けて(もら)うしか無い。でも(すご)く高価な物だから、今すぐ輸送隊(ゆそうたい)組織(そしき)して(もら)っても10日は掛かる。とてもそんなには()たないでしょうね。」

「そういうのって、予備(よび)を置いておいたりしないのかな?」

アンジーのその指摘(してき)に、更に(しぶ)い顔になるマリーヴ教諭。

「実はその前の魔結晶が使用限界を(むか)えてストックと交換(こうかん)したのがつい10日程前の話なの。次のストックを手配する便(たよ)りは多分未だ先方に届いていないわ。余りにピンポイントなタイミングを(ねら)われたとしか思えない。」

「それって…、バリバリ悪意(あくい)有ってやってるじゃない、テロじゃない! この学園に何の(うら)みが有るって言うの⁈ 」

憤慨(ふんがい)するアンジー。

「まったく、何処(どこ)不心得(ふこころえ)者だ!」

「ふんがーっ!」

バルキリーとシルフもカンカンだ。そんな中、やや冷静なディアン・ケト。

「まあまあ、先ずは魔結晶問題をどうするかでは有りませんかな?」

「そう…だよね。実際魔結晶ってどんな状況なんですか?」

モイラの質問に(しば)思案(しあん)のマリーヴ教諭だが、

「一般の学生にそこまで立ち入らせるのは異例なんだけど…、もう此処(ここ)まで来ちゃってるしね。こっちよ。」

そう言いながら別の場所に歩き出す教諭、全員でゾロゾロとこれに続く。

「実際良く此処(ここ)まで来ましたな、明らかに此処(ここ)が危険の中心地なのに…。現に他の学生など誰も来てませんよ?」

ディアンにそう言われ、初めてそう言えばとなるモイラとアンジー。

「ボニーが()たから?」

「そう…かな?」

ほう…と、変に感心した目を向けて来るディアン・ケト。()えて又フンとふんぞり返って見せる。ま、()れ隠しで有る。

 塔の入り口より更に厳重(げんじゅう)そうな、しかし壊されている扉から中へ入る。中には既に数人の職員がおり、教諭とモイラ、アンジー、俺が入るともうぎゅうぎゅう、バルキリーとディアンは外で待機となる。

 職員達は、台座に置かれた球状の物を慎重(しんちょう)補修(ほしゅう)している。と言うか、スイカ割りされたスイカを元に戻そうとしているみたいだ。黄色味がかった透明(とうめい)の大玉スイカを数人掛かりで(のり)(?)で()って、ガムテ(?)で補強(ほきょう)している。

「これが魔結晶よ。ご(らん)の通り、不自然に破損してる。こうなると、安定した魔力量を抽出(ちゅうしゅつ)し続ける事は出来なくて、魔結晶は無駄に魔力を空中に放出し続けて、数日で消えて無くなってしまう。異空間の制御(せいぎょ)は更に維持(いじ)が難しいわ、()って2〜3日かしら。」

()わりの魔結晶、間に合わないじゃない! 全員召喚契約を解除(かいじょ)しなきゃならなくなるわ、大混乱(こんらん)よ! 」

アンジーの言葉が悲鳴に近い。

「実は、問題はそれだけじゃ無いの。」

「共同異空間の"(ぬし)"ですか?」

モイラがそう言うと、アンジーは更に色めき立つ。

「あ、あ、あれってただの(うわさ)話なんじゃ無いの⁈ 」

「…事実よ。」

そう断言する教諭、よろめくアンジー、思わず(ささ)える俺。

「その昔天才召喚士が召喚したドラゴンをこの共同異空間に置いたまま死んでしまって、以来ドラゴンは共同異空間の主としてその最奥(さいおう)生息(せいそく)している…って言う(うわさ)ですよね?」

モイラがそう質問を重ねるが、教諭の口は重い。

大筋(おおすじ)で事実…ね。天才召喚士のところは、かつて学園の設立当時に此処(ここ)にいた召喚術の研究員。死んだんでは無く召喚契約の維持(いじ)に失敗して。リカバリーが出来ないまま放置して、蒸発(じょうはつ)してしまったの。それきり誰にもどうにも出来ず、今に至るわ。」

「そんな…、無責任(せきにん)な。」

アンジーが俺の腕の中で(うめ)く。

「共同異空間が消滅(しょうめつ)すれば、そのドラゴンはこっちに出て来てしまう訳ですね。」

「ええ、そうなるわね。ジュニアドラゴンではあるけど、それでも災害級だわ。学園はもちろん、この近隣(きんりん)の町や村も全滅…でしょうね。」

「そんなあぁ…」

絶望感に頭を(かか)えるアンジー、気持ちはこの場にいる全員が一緒(いっしょ)だろう。そんな重い空気の中…。

「要は一刻も早く新しい魔結晶が欲しいんでクエ? ボニー様なら首都までくらいひとっ飛びでクエ。」

ネビルブの(つる)の一声、カラスの(くせ)に。反転、地獄に仏を見た様な視線が俺に集まる。ハッと気付いた様に俺から体を離すアンジー、今頃かいっ、少し()(くさ)そうだ。

「…無理よ、召喚魔は召喚主から一定の距離以上離れられない様に契約で強制されているもの。」

と、教諭、一瞬差した光はすぐに消え、重苦しい顔に戻る教諭とアンジー。そこでモイラが提案して来る。

「あの…わたしが一緒(いっしょ)に行くんじゃ駄目(だめ)かな?」

え、一緒(いっしょ)にって、俺がモイラを(かか)えて飛ぶ…って事? 俺を含め、全員がその可能性について思案を(めぐ)らす。まあ俺が気にしているポイントは他の人とちょっと違うかも知れないが。

「あ…危なくない? 落としたりしたら大変だよね。小柄(こがら)とは言え人ひとり、更に帰りは荷物も増えるわよ。」

さすがに不安気なアンジー。まあ、多少はスピードは落ちるかも知れないが、積載(せきさい)能力としては問題無いと思う。しかし落としたら大変と言うのも確かだ。

「それならモイラに浮遊(ふゆう)魔道具(まどうぐ)を身に付けてもらえばいいわね、それは学園の方で手配出来る…。」

「ボニーって、この国の首都の場所なんて分かる? 増して魔法局なんて…」

「わたし、案内(あんない)出来ます! うちの実家、商人ですから、そこは(まか)せて下さい!」

と、モイラ。何やかや俺とモイラが行く流れは確定しており、どんどん外堀(そとぼり)()まって行く。

 マリーヴ教諭は緊急用の魔法通信で魔法局に連絡して事情を説明、その後数分で依頼の書状(しょじょう)をしたためると、貴重であろう"浮遊(ふゆう)のベルト"なる魔道具を強引に借り付けて来た。モイラがこのベルトを装着(そうちゃく)し、更にアンジーが何処(どこ)からか借りて来たモコモコのジャンプスーツを着込み、フルフェイスのヘルメットを(かぶ)ると、まるで宇宙飛行士である。こうしてギリ日没(にちぼつ)前に出発準備は完了した。夜間は()けて、早朝の出発を(すす)めてくる教諭。だがモイラは即刻(そっこく)出発すると(ゆず)らず、そのままバタバタと出発の運びとなった。

 アンジーやマリーヴ教諭等一同が見送る中、浮遊(ふゆう)のベルトを起動(きどう)させるモイラ。宇宙飛行士がふわりと浮き上がる。(あわ)てて(つか)まえる俺。

「もっとちゃんと捕まえて、ぎゅーって抱き()めて、離れない様に。」

言われるまま彼女を抱きかかえようとする訳だけれども、我ながら情け無い程ぎごちない。それでも何とか後ろから抱きかかえる感じでホールドする。分厚いジャンプスーツの上からでもモイラの柔らかさを感じる。腕の中にすっぽり収まってしまうサイズ感、いやが上にも大事に運ばなければという義務(ぎむ)感を呼び起こされる。

「行こ、ボニー。」

「ああ。」

俺は翼を大きく展開し、空へと飛び上がる。

「うわあー!」

歓声を上げるモイラ。見送り一同と手を振り合うのも(つか)の間、俺が速度を上げていくと、あっという間に学園は後方に豆粒(まめつぶ)程になっていた…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ