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ドキドキ? 女子寮の夜

 そのまま、(くだん)の学園へと向かう我々一行。森でも突っ切れば早かったのかも知れないが、普通に歩ける道を選ぶと意外と遠回りだったし、全員テンション低くトボトボ歩いていたので時間が掛かってしまった。

 見えて来た学園は、何か中世の洋館と言った風情(ふぜい)の建物だ。洒落(しゃれ)た作りで、質実剛健(しつじつごうけん)一辺倒(いっぺんとう)だった俺の国の建築物とは対極(たいきょく)にある建築思想と言えるだろう。それでも何となく学校である事は分かる、そんな(たたず)まいだ。

 近付くに連れ、学生のものらしき声も聞こえて来る。俺が校門から入って行くと、そこそこ注目を()びた。(何あれ、悪魔?)などと俺の存在自体を珍しがる声がほとんどの中、モイラを知っている者もいる様だった。

(え、あれ、"ガリ勉モイラ"だろ、座学ばっかり優秀で、実技はからっきしの頭でっかち。まさかあれ、あの子の召喚魔(しょうかんま)か?)

(確かあの子、召喚出来るのが魔神(しゅ)だけなんで、実質召喚は不可能って話じゃ無かった?)

(いや、でも、あの連れてるの、魔神じゃないのか? 召喚出来ちゃったとか?)

あちこちで(ささや)かれる(うわさ)話、耳が良いお(かげ)でそれ等全てを聞き取り、情報を得る俺。そして学内での彼女の微妙(びみょう)な立場も(うかが)い知る。学生を見渡すと半分以上が魔族だ。人族は亜人(あじん)族共々少数派の様で、決して立場が良さそうでは無い(俺の国よりは大分ましだが)。そんな中で座学ではダントツの成績を(おさ)めているモイラは結構(けむ)たがられており、召喚で結果を出していない事を殊更(ことさら)揶揄(やゆ)されていた様だ。それがここへ来ていきなり召喚魔を連れ回しているとなれば、いままで揶揄(やゆ)していた連中は穏やかでは無いだろう。

 段々とモイラの元に集まって来る者は、やはり人族ばかりだ。口々に(たた)えられ、愛想(あいそ)笑いのモイラだが、余り元気は無い。(せま)る俺との別れを悲しんでくれているのだろうか。

「え〜い寄るな寄るな人間共グワ!」

「わっ、何だこのカラス⁈ 」

しんみり気分をネビルブがぶち(こわ)す。

「いや〜、実はね…」

横からアンジーが説明を加える。

「ええ! そんな事って有るの?」

「主人の召喚に巻き込まれた使い魔って、何だか間抜けね。」

「何だとクワー! 使い魔じゃ無い、お・と・も!」

…何だか俺より人気有るなこいつ…。

 やがて校庭を抜け、マリーヴ教諭がさっきの忠告を繰り返してから教員(とう)に去って行く。後にはモイラとアンジー、俺の3人が残された。そのまま連れ立って、学園に併設(へいせつ)された施設(しせつ)へと向かう。その入り口には、"パンプール魔法学園女子(りょう)"とあった。女子(りょう)⁈ え、これ、入っていいのか?

 モイラが寮母(りょうぼ)らしき大鬼の女性と話をして、何やら怒られて(あやま)っている。マリーヴ教諭(きょうゆ)に心配を掛けた事を(とが)められている様だ。だが最後には召喚の成功を祝福され、話は終わった。え、俺を連れて来た件、お(とが)め無し? あ〜あ…、入ってっちゃうよ。仕方無いからついて行くか。()()()()ね。……平常心(へいじょうしん)平常心……3.14159265…。

「じゃ、わたしも部屋に帰るけど、いい、マリーヴ教諭の忠告(ちゅうこく)、ちゃんと考えるのよ。」

そう言い残し、アンジーも去って行く。そこはもうモイラの部屋の前だった。

 生まれて初めて入る女子の部屋、結構質素(しっそ)、って言うかガランとしている。もっとヒラヒラした感じを想像してたけど、まあ、学生寮だし、こんなものかな? …でも、いい(にお)いはするかな。

「その辺に座って。」

モイラが口を開く。椅子は彼女の勉強用一脚(いっきゃく)しか無い様で、仕方なくベッドの端っこに腰掛ける。

「先ずはわたしの元に来てくれて本当に(うれ)しいわ。召喚魔にこんな事言うの変かも知れないけど、有難う。」

「だったらお茶ぐらい出したらどうですクワねぇ!」

そういやコイツもいたっけ。(しゅうとめ)かこいつ!

「そうか、あなたも()たわねカラスさん。あなたのお名前は?」

「…ネビルブでクエ。」

「ネビルブさん。ごめんね、今お茶切らしてるの。後で食堂から何か(もら)って来るわね。あなたのご主人様、何が好きかしら?」

「ボニー様はなあ、人間を頭からボリボリ喰らうのが大好きでクエェ!」

「人間はさすがに用意出来ないわねww、パンと豆茶(まめちゃ)でいいかしら。」

「……何だか調子の狂う子でクエ…。」

何やら徐々(じょじょ)毒気(どくけ)を抜かれていくネビルブ。

「ねえネビルブ、あなたのご主人様ってどんな方なの?」

「エ…ボニー様は流浪(るろう)の魔神でクエ。あちこちを(めぐ)って武者修行(むしゃしゅぎょう)の旅の最中、たまたまこの辺りを飛んでいた時にお前の召喚に(つか)まってしまったでクエ。」

おいおい、初めて聞いたぞそんな設定。

「そうだったんだ。旅の邪魔(じゃま)をしちゃってごめんね。」

「全くでクエ。さっきの女教師(じょきょうし)の言う通り、とっとと開放してもらいたいものでクエ。」

「うん…、そうだよね…。」

ネビルブとモイラの会話はモイラが急激(きゅうげき)にテンションを下げた事で終わりになった様だ。

 それはそうと! 俺の方は全くそれどころでは無い。なぜならモイラが話をしながら俺の目の前で当たり前の様に着替えをしていたからだ!! 確かにこの部屋に隠れる様な物陰(ものかげ)も無いし、一応彼女はこちらに背中を向けてはいるが、パンモロのお尻が丸見えだ。そして遂にはブラまで外してしまう! まあやや(ひか)えめなモイラの胸は、背中からだと全く存在感を発揮(はっき)しないが。

 とにかく女性経験皆無(かいむ)の男子高校生にとっては大いに狼狽(うろた)えざるを得ない状況なのは間違い無いだろう。エ…エチケットとして後ろを向くべきか? でも、召喚魔が自由意志で気を使って行動するのっておかしくないか? おかしいよね? うん、おかしい。これは仕方ない……。

 と言う事で、モイラが部屋着に着替え、ここで待っててねと言って部屋から出て行った。残されてやっと我に返った俺は、(あわ)ててネビルブと確認作業。

「召喚魔ってのはどの程度自分の意思で動けるものなんだ?」

「基本的には自分の意思は有るままの様でクエ。ただ召喚者の指示には絶対服従(ふくじゅう)。今も"ここで待ってて"と言われてるんでこの場を離れる事は出来ないでクエ。」

「絶対服従…、死ねと言われれば死ぬってやつか?」

「いえ、召喚魔にとっての"死"は召喚魔が消える…即ち召喚魔で無くなる、という意味に()られる事も有るクエ。元々好き勝手な命令をされまくって不満の()まっている召喚魔にそんな命令をしたら、そう言う解釈(かいしゃく)の元召喚契約から解放されて、いきなり元召喚者に襲い掛かって来る事()け合いクエ。」

「なるほどな…。」

「まあ、特に具体的な指示の無い時には結構勝手に動いても大丈夫でクエよ。」

…という事は、エチケットで後ろを向いてもおかしくは無かったのね…。

 そんな話をしている内に、モイラが約束通り、パン中心の軽食とお茶を持って戻って来た。トレーがかなり重そうに見える。てかそんな仕事こそ召喚魔にやらせるもんなんじゃ無かろうか?

 そんな感じに軽い食事を()り、その後はモイラと会話して過ごし(実際会話していたのはほとんどモイラとネビルブで俺はほぼ相槌(あいづち)だけだったけど)、夕食をいただき(これもモイラが食堂と2往復して持って来てくれた)、大浴場(よくじょう)に誘われたが断り(女子寮のね。行けるか!)、やがて夜が()けて行った。

 世間話なんかの中で、彼女の事情や環境(かんきょう)等も分かって来た。ここはエボニアム国の隣国(りんごく)となる魔導国家ザキラムの辺境(へんきょう)()る魔法の総合学校だ(俺の国、エボニアム国って名らしい。もうちょい(ひね)らんかい!)。魔王四天王の1人ビオレッタは、四天王の中の魔法担当(たんとう)。その為ザキラムは魔法至上(しじょう)主義。魔族人族関係無く、魔法の能力さえ(すぐ)れていれば国の重職(じゅうしょく)にも取り立てられるという国家運営の為、人族が基本的に魔族と平等に扱われる魔大陸唯一(ゆいいつ)の国であるそうだ。腕力ではどうしても魔族や鬼族に(おと)る人族にとっては住み易い環境で有ると言える。

 もちろん良い暮らしをしたければ魔法の実力を示すのは必須(ひっす)で、能力的には問題無い(はず)なのに(めぐ)り合わせの悪さから実績を上げられずにいたモイラは今日まで相当な(あせ)りを感じていた様だ。

 モイラの実家は元々魔法、とりわけ召喚魔法に適性(てきせい)が有る家系で、家業である商売にも大いにこれを活用して大きくなったそれなりの大商人で有るという事だ。そんな中モイラは幼い頃から魔法の才能を開花させ、就学(しゅうがく)前の検査(けんさ)では召喚魔法にも高い適性が有るとされ、周囲の期待を背負いながらこの大陸でも随一(ずいいち)とされる魔法の名門校へと入学して来たのだそうだ。

 そこから2年弱、モイラは人生初と言える程の挫折(ざせつ)の日々を過ごす事になる。悩んで悩んで、出来る努力は全てして、今回は無茶をした自覚も有る。だが遂にその全てが(むく)われた、今はそんな気持ちなのだそうだ。そんな話をしながらうっとりした様な目で俺を見つめて来る。いやあ、俺、他人からこんなに歓迎(かんげい)されるのなんて初めてだなぁ…。

「さあ、もう遅いわ。でもあなたには何処(どこ)で寝て(もら)おうかしら。流石に(せま)いからわたしと一緒(いっしょ)のベッドは無理よね。床でって訳にも行かないし…。」

モイラがさらっと恐ろしい事を言うので豆茶を吹き出しそうになる。

「俺は睡眠(すいみん)を必要としないが、寝ようと思えば立ってでも寝られる。」

俺は今床の上に胡座(あぐら)をかき、ベッドの上に移ったモイラと対面しているのだが…、

「このままで眠れるぞ。」

(ひざ)(たた)いてそう伝える。(ちな)みに寮はエントランスで(くつ)を脱ぐ方式だ、床で寝転がるのも特に躊躇(ちゅうちょ)は無い。"立ってでも寝られる"は以前興味(きょうみ)本位で試して確認済みだ。

「そうなんだ…。本当は共同異空間で寝ててもらう方が落ち着くんでしょうけど…、いなくなっちゃうかも知れないんだよね…。」

そう(つぶや)きながら、今度は一転して(せつ)な気な視線でこちらを見つめて来る。俺はどんな顔でその視線を受け止めればいいか分からず、ぎこちなく無表情を(つらぬ)くのみ。

 それにしても一向に契約の解除(かいじょ)も異空間での待機もさせられる気配(けはい)が無い。大丈夫なのかと逆に心配になって来たりしていたが、気付けばモイラがベッドに座ったまま壁にもたれ掛かって無防備(むぼうび)に眠ってしまっている。ありゃりゃ…。

 俺は彼女を横にさせ、毛布を羽織(はお)ってやる。可愛い寝顔だなあ…。

「さて、俺は今何の指示も受けていない状態な訳だが…。」

「まあ、召喚者を害する事は出来ませんグワ、ちょっとイタズラするくらいなら大丈夫でクエよ。後は召喚者と召喚魔は一定の距離(きょり)以上離れる事が出来ない様になっているんですグワ、この建物の中くらいなら見て回っても問題無いでクエよ。」

と、ネビルブが解説。え〜と…、寝ている女の子にイタズラ? それから何、夜中に女子寮の中をうろついて回る⁈ どっちもアウトだよ!! 仕方無い、大人しく眠るとしよう。

 俺はランプを吹き消し、部屋の(すみ)陣取(じんど)ると、「今夜は眠る。」と宣言し、座り込んで睡眠(すいみん)モードに入った。そのままスイッチを消す様に眠りにつく…。

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