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令嬢、主張する

「魔人はね、寝所で異性の精力を吸って栄養にする生き物なんだよ」

 ヴェルティージュの言葉に、俺はぽかんとしてしまった。


「せーりょく?」

「ああ。だから、食べさせてあげるって言って誘えば大抵の魔人はホイホイ付いてくる。

 最近は魔人と人間の交流が進んだせいで、好みがうるさくなったのか、付いてくる魔人は少なくなったみたいだけど」

「交流の無い時代が長かったのか?」

「そう。生息地だった島が災害に遭って、住処を追われた魔人が大陸に流れてきたのはここ十年の話だよ」


 特殊な生態、失われた故郷、魔人だと一目で分かる角。

 アンジェニューは魔人の友達が多いと堂々発言していたので、魔人だからといって迫害されているという訳でもないだろうが……。

 人間に迷惑を被っているのは確かなようだ。


「君、本当に魔人じゃないの?」

 ヴェルティージュが不思議そうに訊いてくる。

「異性の精力を吸うのも魔人の定義なら、俺は当て嵌まらないな」

「ふーん。エルフは弓矢が得意で、ドワーフは鍛治が得意みたいな共通認識だと思ってたけど、魔人はそういうんじゃないんだ」

 勝手に納得すると、ヴェルティージュはさっさと行ってしまった。


 俺が角のせいで誤解されていることは分かった。

 しかし、この角は魔王らしさそのものだ。

 他人の目など、どうでもいい。




 数日後、俺はアンジェニュー、ルル、ジョリーと四人で、武器を担ぎながらダンジョンを歩いていた。

 学園からチーム戦の演習を課されて来たのだ。


 アンジェニューが召喚した使い魔で辺りを偵察する。


 アンジェニューの肩に偵察を終えたリスが戻ってきて、召喚術師にしか分からない鳴き声で何やら伝えている。

「あっちの岩場に大猿みたいなモンスターが居るって」

 リスからもらった情報をアンジェニューが通訳する。

「大猿なら、ベトンかしら? 運が良ければ加工に使える岩をドロップしますわね」

 ジョリーがモンスターの種類を予想している。

 俺はベトンとかいうモンスターとは戦ったことは無い。

 ま、どんな相手だろうと楽勝だ。


 四人で、高い岩がそびえ立つ一帯にたどり着く。

 岩場の上から、大猿が炎を降らせてくる。


「こいつがベトンですわ。

 ベトンには弱点がありませんので、ゴリ押しで倒しますわよ」

「ゴリ押しなら得意だ!」

 強化魔法使いのジョリーと、炎魔法使いの俺で突っ込んでいく。


 回復魔法使いのルル、召喚魔法使いのアンジェニューは後衛。


 ジョリーの魔法で強化された俺の炎は、ベトンの炎を押し返す。

 しかしベトンの硬い皮膚は炎をものともしなかった。

 攻撃力は高くないが、防御力が高すぎる。

 さっさと手を打たなくては、こちらが無駄に消耗していくだけだ。


 ベトンは俺の攻撃を突っ切って走ってくると、パンチ一発で、俺を遠くの岩場に吹き飛ばした。

 嘘だろ?


 いや、俺のことはどうでもいい。

 転倒したジョリーがベトンの下敷きにされている!


 しかしジョリーは余裕の表情だった。


「ルル! 任せましたわよ!」

 ジョリーが強化した拳で岩を破壊する。

 岩場が崩れ、ベトンとジョリーが落下していく。


「任された! アンジェニューもお願い!」

「了解!」

 アンジェニューが鳥の使い魔を召喚し、空中でジョリーを回収させる。

 ルルは落ちてくる瓦礫に回復魔法をかけた。

 地面に落ちる前に、瓦礫が元通りの岩に戻っていく……ベトンを巻き込みながら!

 

 岩に融合して身動きが取れなくなったベトンを俺が最大火力で包み込むと、さすがのベトンもHPがゼロになったようだ。

 ベトンは光になって消えていく。


「よし、演習は完了」

 戦闘の様子を記録した水晶を手にルルが言った。

 安心して俺たちは帰路につく。


 町を歩きながら、ジョリーの顔色が優れないことに気付いた。

 ステータスを覗かせてもらうと、ジョリーは他のキャラクターに比べてMPの消費が激しいようだった。

 魔法を使った量は四人ともさほど変わらないはずなのだが……強化魔法は必要MPが多いのか?



「ねえ、お腹空いたから、ご飯立ち寄っていい?」

 ルルもジョリーが疲れていることに気付いたのか、気を利かせて俺たちを軽食屋に引っ張っていった。


 俺は食事を必要としないが、気まぐれにサンドイッチとかいう一番人気のやつでも食べてみよう。


 運ばれてくる前に、俺は席を立ってトイレに向かった。

 久々に履く靴だったので、足を痛めたのだ。

 個室で靴を脱ぎ、テーピングを済ませて席に戻ろうとする。


「ねえ、君~」

 トイレを出た瞬間、出くわした男に声を掛けられてトイレに押し戻された。


「暇? 僕と遊ばない? 良いもの食べさせてあげるからさ」

「人が少ない所に連れ込むのは、ナンパの手口としてどうなんだ?

 後ろ暗いところが無いなら、堂々と誘ってみろ」

 俺が吐き捨てると、男は怯んだ。

 その隙に男を突き飛ばして、アンジェニューたちのところに戻る。

 


「うわ、トラゴスすっごい不機嫌そうな顔」

「え、そうか?」

 アンジェニューに笑われ、眉間に寄ったシワをほぐす。

「どうやら魔人をナンパする奴が多いみたいでな。

 今も絡まれていた。

 俺は正確には魔人ではないのだが……」


「異性の精力を吸うのが魔人の定義だと思ってらっしゃるの?」

 いつも高圧的なジョリーが、ますます語気を強くして言う。

「え、違うのか?」

「違いますわ!」


 ええ……?

 ヴェルティージュが言うことと、ナンパ野郎たちが言うことに矛盾は無い。

 しかしジョリーはそれらを否定している。

 どっちが正しいのだ?

 とりあえず、ジョリーの言い分を聞いてみよう。

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