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魔王、真相を知る

 最も無害そうだった少年が犯人という結果に、みんなざわつく。

「私に分かるのは、自分が犯人でないということだけだ。

 しかし、それでも信じられんというか……」

「幻覚魔法使いと、封印、記憶喪失。それに何の関係が?」

 デゼールとティレも不思議がっている。



「そもそもヴェルティージュの魔法は、幻覚魔法ではない」

 俺はビシッと言い放つ。


「君、何言ってるの?

 さっき僕の作った幻覚を体験したよね?」

 ヴェルティージュはおどおどと、少し不快感をにじませながら言った。


「ジーヴルルートでも、ヴェルティージュは幻覚魔法使いとして登場したはずだよ?

 私にはその記憶がある」

 ルルはあくまでも公平に証言する。



「もちろん、幻覚を見せるという使い方が多かったのは事実だろう。

 だから周りが勝手に、ヴェルティージュを幻覚魔法の使い手だと誤解したのかもしれない。

 しかも本人は、敢えてそれを訂正しなかった。

 その方が何かと都合が良いから……例えば悪事を働く時には」

「他の魔法を応用して、幻覚を見せている。

 ヴェルティージュの魔法の本質は、別にあるということか」 

 さすが、ジーヴルは話が早い。

 それでこそ俺のライバルだ。



「ジーヴルルートの途中でその事実がルルに発覚する、というのが、このゲームの見せ場の一つだったのだろう。

 ルルの記憶と噛み合わないのは、そういう理由だ」

「私の有利になる記憶は消去されている……なるほど」

 俺の推理を聞いて、ルルは納得してくれたようだった。



「ヴェルティージュの魔法は、幻覚というよりは……そうだな、洗脳魔法とでも言うべきか。

 相手の眼球にコンタクトの要領で、脳波を狂わせる文様を貼り付けているのだ」


「だから目薬で文様を洗い流したんだ!

 さすがトラゴスさん!」

 看護師見習いの魔人がはしゃいだ。


「医者に見抜けなかったのは、ジーヴルの目を覗き込んだ者にも文様の効果が作用し、文様を認識出来ないようにさせられるからだ。

 以上が俺の推理だが、どうだ? ヴェルティージュ」



 するとヴェルティージュは、軽くため息をついた。

「……観念しました。

 よくぞ今の戦いで、そこまで見抜けましたね」


「動機は?」

 ジーヴルが訊ねると、ヴェルティージュは素直に答える。

「王子様のことが好きだったから……」

「好きだったから、俺からトラゴスの記憶を奪ったのか?」

「それはついでです」


 ついで?

 ヴェルティージュにとっての恋敵である俺をジーヴルに忘れさせる以上に、何の目的があると言うのだ?


「王子様が弱くなれば、魔王は王子様に興味を無くすと思いました」


 ……え?

 

 しかし、そう考えるのも自然か……。

 強くて恐れを知らないジーヴルを絶望させるというのが俺の目標。

 ジーヴルが弱くなれば、俺がジーヴルに関わる意味など無い……のだから。



「王子様をとことん弱らせて、誰にも見向きされない存在に貶めて……自信を失ってひとりぼっちになった王子様を、僕が守ってあげるつもりでした」


「それがお前の計画か?」

 つい口を挟んでしまった。


「ええ」

「実にくだらんな」

「くだらない……?」

 俺の言葉は、何やらヴェルティージュを怒らせたようだった。


 可愛らしい顔を歪めて、ヴェルティージュは俺に食ってかかる。

「君が好きなのは王子様の強さだけだろう!?

 王子様が本当の本当に魔法を使えなくなったら、君は見捨てるんじゃないか!?」



 俺が思わずジーヴルの方を見ると、目が合ってしまった。

 エメラルドのような瞳には、悲しみや不信など一つも浮かんではいない。

 ただ真っ直ぐに俺だけを見ていた。


 こいつは、そういう奴だったな。

 俺も俺らしく、思ったことを言おう。


「俺のことはどうでもいい。

 ただ、ジーヴルは魔法の勉強を日々頑張っている。

 俺はそれを、短いながらも見てきた。

 その努力を単なるエゴで台無しにするお前の根性は、実にくだらんぞ」

 ヴェルティージュはまだ何か言い返そうとしたようだが、無視した。


「俺が出来るのは推理までだ。

 裁きは国に任せる」

 闘技場を出て行く俺に、王と王妃、看護師見習い、デゼールやティレといった面々からの喝采が降り注いだ。

 悲鳴の方が嬉しかったが、まあ良かろう。


「ありがとう、ビケット」

 ジーヴルが隣で囁いた。

 俺はハッと笑って、ルルとアンジェニューを指差す。

「礼なら、あの二人に言え。

 ルル、アンジェニュー、ご苦労だった。

 ジーヴルが何か奢ってくれるそうだぞ」


 こうして俺たちは無事、魔法と記憶を取り戻したジーヴルを連れて学園に帰還したのだった。




 数日後。

 学園の外廊下を歩いていると、カフェテラスにルルとアンジェニューを見かけた。

 丁度、アンジェニューに返さねばならない資料があったのだ。


 二人の元に駆け寄った俺は、ルルの隣に居る男を見て思わず叫んだ。


「何故ヴェルティージュが居るのだ!」

「うるさっ……編入したんだよ」

 ロジエ魔法学園の制服を着たヴェルティージュが、心底うっとうしそうに俺を見上げた。


「私のハーレムに加えたから、呼び寄せたの」

 ルルが泰然とした態度で言う。


 待て。


「ルルの!? ハーレム!?」

 訊き返すと、ルルはとても良い笑顔で答えた。

「ゲームがバグってシナリオを外れた今、私がやりたかったこと……。

 それは推しキャラを集めたハーレムを作ること!

 ヴェルティージュくんのこと、ジーヴルルートの時から気になってたんだよね。

 可愛いけど影がある感じが推せるの。

 やっぱりヤンデレ属性だったとは、私の見立てに狂いは無かったみたい。

 攻略対象じゃないのが勿体ないくらいの良キャラで~」


 ルルがめっちゃ早口で語っている。

 こ、この俺が、乙女ゲームのヒロインに恐怖させられている……!


「こんな騒動を起こした僕にまで優しいルル様こそ、まるで聖女です……」

 ヴェルティージュはルルを拝んでいるし。

 カオスすぎる。


 いや、それより!

「アンジェニューは納得してるのか!?」

 ルルはアンジェニュールートに入ったはずではなかったか?

 俺がアンジェニューの肩を掴んで叫ぶと、彼はのんきにうなずいた。

「勿論、納得してるから付き合ったんだよ」

「器広いな、お前……!」

「愛の形は色々だからね」


 ルルの大胆な一面を知ってしまったが……まあ、みんな幸せそうだから良いか。




 お前が好きなのはジーヴルの強さだけだろう……

ヴェルティージュにそう言われた時、確かにカチンときた自分がいる。

 そもそもジーヴルのことなど好きなどではない、はずなのに。


 あの時、俺の脳が連想していたのは、ジーヴルの笑顔だった。

 俺はジーヴルを怖がらせたいはずなのに……。

 全く意味が分からない。



 寮室に戻り、薔薇の香水を手首に吹きかけてみた。

 王城から帰る道すがら、こっそり購入したものだ。

 ジーヴルの腕の中で嗅いだものと同じ、薔薇の香り。

 しかし一人で嗅ぐ薔薇は、いまいち心が躍らなかった。




 俺が魔法陣から火球を放つと、名も知らぬモブ生徒はあっけなく被弾してダウンした。

「そんな実力で、この俺に言い寄るとは。

 ずいぶん見くびられたものだな」

 モブを見下ろしながらつぶやく。


 この世界のモブは、ちょくちょく俺をナンパしてくるのだ。

 ジーヴルが甘ったるい台詞で俺を誘うのに対し、モブ共はゲスな台詞を吐く。

 しかも弱くて戦い甲斐が無いときた。


「ひぃっ……」

 恐れをなしたモブが逃げて行くが、あんな奴ごときに恐れられても全く楽しくない。

 ジーヴルという大目標の前には、あんな雑魚の絶望顔などかすんで見える。


 しかし、ジーヴルを恐れさせることはまだ出来ていない。

 どうしたものか……。


「僕とか王子様に比べると十人並みの顔してるくせにさ、追いかけ回されて大変だね」

 唐突に声を掛けられる。

 背後に居たのはヴェルティージュだった。

 てかお前、なんかキャラ変わったな。

 おどおどした奴だと思っていたが、こっちが本性か。


「でも勘違いしない方が良いよ。

 君は魔人だから、都合のいい遊び相手になると思われてるだけ」

「はあ……」

 ヴェルティージュの言いたいことがよく掴めず、俺はその場に立ち尽くして話の続きを待つ。


 するとヴェルティージュが、信じられないといった感じで俺を睨んだ。

「まさか君……魔人のこと、よく分かってない?」

「角の生えた種族だろう?」

「魔人の特徴は角だけじゃないよ」

「え……そうなのか」

「はあ……面倒だけど、無知のままじゃ可哀想だから教えておいてあげるよ」

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