表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

魔王、推理(物理)する

「今まで経験してきたルートの記憶を誰よりも保持しているキャラクターが居る。

 犯人候補を探すにあたり、彼女の協力をあおいだ」

 促すと、ルルが挙手した。


「私、このゲームのヒロインであるルル・プリエが証言します。

 デゼールさん、ヴェルティージュさん、ティレさんに私を加えた四人が、この乙女ゲームのジーヴルルートで描かれた、ジーヴルさんが集めた伴侶候補でした」


「というわけだ」

 ……というか、ジーヴルの守備範囲広すぎないか?

 正統派ヒロインのルル、クールなメイドのデゼール、儚げ美少年ヴェルティージュ、寡黙イケメンのティレって。

 プラス、この魔王トラゴスだろう?

 見事にタイプがバラバラではないか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。



 四次元的に考えろ、とはつまり。

 この乙女ゲーム世界で多層的に蓄積した「複数のルート分岐」や「多数のエンディング」といった、目には見えないが確かに存在する世界を推理のヒントにしろ、というお告げだったのだ。

 

 あんな抽象的なお告げから、そこまでの考えに至るとは。

 俺、さては天才か?



「私が王子様の魔法を封印した犯人だと疑っているのですか?」

 砂魔法使いのデゼールが、こちらに厳しい目を向けた。


「ああ。

 ジーヴルは自身のルートで、君たちのうちの誰かに刺されるほどの経験をしているそうだ。

 色恋関係でジーヴルに恨みを抱いていても、おかしくはない。

 伴侶候補である俺だけがジーヴルに認識されなくなっているのも、動機に恋愛が絡んでいるならば納得はいく」

 俺が答えると、デゼールと磁力魔法使いのティレは深いため息をついた。

「……馬鹿馬鹿しい」

「王子様のルートに居た私たちならともかく……今の私たちには、王子様に対して特別な感情などありません」


「僕も、心当たりは無いよ……。

 そういう物騒なのは苦手……」

 ヴェルティージュが物憂げに言う。



「しかし三人とも、ここ最近ジーヴルに接近して魔法を掛けるチャンスがあったこともまた事実だ。

 社交パーティーや馬術大会がそれだ。

 遅効性の魔法などいくらでも存在するから、日付云々は言い訳にならんぞ」

 俺だって考えなしに犯人候補を集めた訳ではないのだ。

 反論ならいくらでも出来る。


「はいはい、素朴な疑問!

 砂魔法も幻覚魔法も磁力魔法も、魔法の封印とか記憶の操作と関係あるとは思えないけど」

 アンジェニューが口を挟んだ。

 まあ、この場にいた全員が思っていたことだろう。

 ……正直、俺も未だにそう思っているし。



「そのことで再確認しておくが、ルルも各ルートの記憶が完全にあるわけではないのだな?」

 俺が問うと、ルルがうなずく。

「うん。攻略の有利になりすぎる情報は、エンディングを迎えた時点で消されてる」

「つまり、ライバルキャラがどんな攻撃をしてきたか……なんて記憶は真っ先に消去の対象ということだな」


 そう、そこなのだ。

 この闘技場で解決しなくてはならないことは!



 俺はラスボスらしく高笑いして、デゼール、ヴェルティージュ、ティレに指を突きつけた。

「それでは推理タイムだ!

 そこの三人!

 全員まとめて、俺にかかってこい!」


「え!?」

 三人はもちろん、周囲も絶句している。

 まあ、この恐るべき魔王トラゴスに宣戦布告されれば当然の反応だろう。


「安心しろ、手加減はする」

「それは推理……なの……!?」

 ヴェルティージュはおろおろしている。


 しかしデゼールとティレは腹をくくったようだった。

「無駄だとは思いますが、仕方ありませんね。

 やるからには、このデゼールの無実を証明してくださいね。トラゴスさん」

「……行くぞ」

 


「この魔王トラゴスと戦えることを光栄に思うが良い!」

 俺はさっそく、魔法陣を複数展開して、炎を射出した。


 しかし炎は俺の操作に反して、三人を避けるように逸れてしまう。

 見れば、ティレが展開した魔法陣が三人を守っていた。


「炎は反磁性の物質……」

 俺とティレの声が重なった。

 炎のような反磁性の物質は、磁力に弾かれてしまう。



「ならば、これはどうだ!?」

 俺が魔法の出力を上げ、高温の炎の渦で三人を包み込んだ。


 ティレの磁力魔法は、魔法陣が磁石のような働きをしているに違いない。

 しかし磁石は一定の温度、いわゆるキュリー温度まで熱すると、磁力を失うのだ。

 

「っ……さっそく俺の磁力の弱点に気付くとはな」

 ティレも俺の意図を悟ったらしい。

 彼の魔法陣は加熱されて光を失い、炎が三人に迫りつつある。



 その時デゼールが、大きな魔法陣を展開した。

 ずっと念を込めていたものが、やっと完成したのだ。

「反撃の時間だ!」

 地面いっぱいに広がった魔法陣から、競技場に大量の砂があふれてくる。

 砂が集まって人型を形成する……ゴーレムというやつだ。

 ゴーレムたちが、寄ってたかって俺を蹴りつけてきた。


 走ってかわすが、砂に足をとられてしまう。

 思い切って靴を脱ぎ捨てると、山羊に似た構造の足のおかげで多少は走りやすくなった。

 しかし、靴に比べればマシという程度だ。



 俺がゴーレムに気を取られて魔法陣を維持する手を緩めたうちに、ティレが魔法陣を立て直し、三人を包んでいた炎は弾かれてしまった。

 


 さらに、ティレが砂鉄で作ったナイフをゴーレムが飛ばしてくるという連携プレイまで始めやがった。



 この「推理」……一筋縄ではいかなさそうだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ