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2話ー①

 春の華やかな香りが鼻を掠める。寒い冬が過ぎ、暖かくなった途端に一斉に開く花々は蝶を集め人を集め春の訪れを告げる。取り分け王宮内の庭園の華やかさお菓子と本に魅せられているレイティさえも目を引く程だ。


 フィンクスと馬車の中で和解したあの日から既に15年と8ヶ月21日が経過しようとしていた。少し伸びた背と女性らしい身体付きを以て身体は成長を終了させようとしている。歳は今年で47歳となりあと数年で魔力量の多いミナミノ公爵家やクロウ公爵家の平均成長期終了である50歳を迎える。


 これらは魔力量の少ない庶民で換算する所の20歳前後の姿で300年生きる。その後次第にまた50年程掛けて衰弱し老化するのだから、如何に成長期の若々しい日々成長していく姿を見ることができる期間が珍しいかよく分かる。


 王族は魔力量には桁が違うというのに何故かミナミノ公爵家やクロウ公爵家と同じ速さで成長する。おかげでレイティやフィンクスの幼なじみである第6の君と一緒に過ごしていける。これは彼女にとって最も嬉しい事の1つだった。


 ただし、歳を取らない期間の長さには大きな違いがあり王族の場合2倍以上となる。つまり、龍と成らずこの世を去る場合レイティよりも早くに幼なじみは死を迎え、龍となった暁にはレイティが彼をこの世に置いて逝くこととなるのだ。


 残酷な運命に嘆いていたいが立ち止まることはできないのだ。レイティが王族に仕えることもまたミナミノ公爵家に産まれたならば当然の運命。王が誰になろうとそれが変化することはない。


 子供の元気の良い高い声を聞いてレイティはそちらの方向に顔を向ける。


「そんなに走られては危ないですよー」

「へーき!」


 そこには第11の君と彼の乳母の姿があった。2人を取り囲むように配置された護衛騎士達は皆微笑ましそうに見ている。絶対に王子を守りきる自信があるからこその雰囲気であることを察して自国、ドラゴニスタ王国の騎士を誇らしく思うと共にレイティも2人の様子に頬を緩める。


(わたしにも周囲の人達を困らした時期がありました)


 今でもあるかもしれませんが、と付け加える。王族の件でもそうだがレイティは自分がそうだと思ったことは考えを改めない悪性があった。ただしレイティは自分が信じているものには自信があり、それにまた救われている人達がいるのだから完全なる悪性とも言えない。


 足を暫く止め、黄昏の陽光が降り注ぐ薄く雲がかかった空の下で元気良く走っていた第11の君が低木の影に素早く隠れる。


 騎士も乳母も決して見失った訳では無いが可愛らしい子供の悪戯心に乗りわざと見失った振りをする。探す素振りをする乳母に第11の君は笑った様で楽しそうに王子が隠れている低木が揺れる。


 しかし第11の君の悪戯はそう長くは続かなかった。薄い茶色の髪を持つ少女が王子の元へ駆け寄ったからだ。


 あの少女はカタラーナ伯爵家のアミンだ。第11の君の遊び相手として選出されたご令嬢でレイティとも面識があった。身分に対してかなり厳格な方で今事情を知らない彼女は見て明らかな場所に隠れていた第11の君に声を掛けてしまい明らかな王子の落胆の色に恐縮してしまっている。


 レイティは助け船を出そうかとも思ったが、レイティと第11の君やアミンの関係よりも見た目上の年齢差は魔力量の関係により歳が離れて見えるが、第11の君とアミンの関係の方がずっと深い。部外者が2人の間に割り込むべきでは無いと考え踏みとどまった。


 レイティは2人が去るのを見届けるのを以て観察を辞め再度歩き始める。早く着かなければ心配されるし、迷惑もかかるかもしれない。


 だが、レイティの脳裏には初めて第6の君と出会った時のことを思い出していた。






 現在の季節と同じくらい、春の花を鑑賞する王宮で開かれるお茶会。色とりどり花々に囲まれて開催されたそれは春の花開いたようなデザインのドレスを纏う貴婦人達よりさらに華やかなものとなっていた。


 主催はまだ当時ご存命だった第4の姫で招待されたのは同い年くらい子供ばかりだった。レイティはまだ幼いからと招待されなかったが、彼女の兄であるアノールは招待されていた。レイティは兄が羨ましく思って我儘を言って無理矢理お茶会へ参加したのだ。


 だが未だ作法も完璧に習得していない子供だ。小さな失敗をいくつか重ねてしまう。嘲笑う音も小さく聞こえたが、アノールのフォローもあり大多数が微笑ましいものを見る目で穏やかに見ていた。


 レイティは失敗を恥じて、更に微笑ましい目線に居心地の悪さを感じて遂にお茶会を無断で飛び出してしまう。


「王宮は国のどこより安全だわ。あの子には少し自分で考える時間が必要ではなくって?」


 アノールは妹を追いかけようとしたが眉一つ動かなさい第4の姫の一言でできなくなってしまう。


「そうですね…。私が甘やかした結果です、御前を汚してしまい申し訳ございません」


 この時のアノールはどんなにレイティを心配していたか、どんなに連れてきたことを後悔したかレイティは知らない。ただこの日を境に甘いだけだった彼の妹への態度が変わったことだけは確かだった。


 一方レイティは花がまだ蕾の庭園の人通りの少ない寂しいエリアでひとり蹲っていた。


(しっぱいしちゃった…)


 大きな翡翠色の真ん丸な目には涙が溜まり今にも零れてしまいそうな程だ。


「そこで何をしているの?」


 突然声が降ってレイティは顔を上げる。泣いている恥ずかしい顔見せるかもしれなかったが、彼女にはそこまで考えていられるほどの思考力は残っていなかった。


「泣いているの?」


 そこに居たのは美しい日の当たり具合により7色に変化するシルバーブロンドにヒトのものでは無いような無機物感ある澄んだこちらも7色の光が瞳孔に映る白い瞳の美少年が見下ろしていた。


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