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3話ー⑤

 お待たせしました…、すべて書き終わったので投稿を再開します。

 冷たい夜風が頬に当たる。第6の君は山の側面に立つ神殿の白石のデッキから灯火が光る王都を見下ろしていた。白塗りされてスタンドグラスが窓に嵌められたこの神殿はドラゴニスタ王国建国当初に建てられた建物であるに関わらず多岐の魔術により建設当時の美しい状態を保っていた。


 この教会は龍の為に存在する。昔―神話の最終章にはヒトと暗黒竜を葬った龍の婚姻の描写がある。女神の許可を得て行われたそれはこの神殿で行われたと伝わる。以後、二十と数回の王とその番の結婚式はこの神殿で行われた。


 そんな由緒ある神殿に何故第6の君が居るかと言うと、本日龍力解放の儀が行われた為である。龍力解放の儀とはその名の通り龍力を解放する為の儀式だ。神殿中央には龍力を極限まで高めることを可能にする魔術陣があり、それを発動させると共鳴により無抵抗でそれを起こせる。


 強制龍化、王族の13人の子供のうち誰が次の王となるかを計る―つまり今残る王子3人のうち完全体の龍が誰かが判明する。


 但し、この魔法陣の使い方は本来の使用方法では無いから制御機能が非常に不安定だ。魔術陣上の全ての人の魔力の感知能力を上昇させて、最も強力な魔力を鍵に同一化する。そのため、 差が大きい場合、自身より強ければ惨い状態で死することになり、逆に弱過ぎれば龍化が時差となる。


 通常龍化の際には身を焦げ付かすような激しい熱が全身を襲うらしい。個体差はあるが高熱が半月から1年程続き、その期間高圧な魔力に基本側に近づくことができない、他人から見れば龍化も魔力暴走もそれほど変わらないらしい。


 それらを解消すべく開始されたのが強制龍化の儀で開始された当初は龍となった者以外が惨い死を迎えていたが、徐々に儀式中に死することはなくなり、近年になると儀式を終了しても龍化しないことが殆どになった。龍の血は世代を重ねることで確実に薄まってきている。


 儀式中に龍化を迎えなかった場合は今の第6の君達のように誰かの龍化が開始されるまで神殿に滞在して居なければならない。彼らの父親である現国王は儀式途中に龍化したが、祖父の前国王は儀式後から龍化までに半月掛かったらしい。


 第6の君は月が見えない灰色の空から降り出したか雪を掌の上に乗せる。軽い真っ白な雪は彼に冷たい感触を与えると同時に溶けて消えてしまう。雪が溶けてできた水を優しく握る。目を瞑れば感覚が研ぎ澄まされて脳裏に鳥の囀りのような可愛らしい声が響く。


―見てくださいまし!


 あのプラチナブロンドの少女は誰かと会話しているようだ。


―組紐というものですわ!図鑑を見ながら作りましたの!


 確かとある小島が発祥のカラフルな紐を編んだもので絆のような意味合いがあった気がする。


―これを………渡そうと思って、


 話している相手はフィンクスだろうか、ノアは風と共に流れてくる彼女の声を拾うのを辞めた。彼女がどこにいるかも何を感じているかも知ることができる。研ぎ澄まされた感覚にまるで生まれ変わったようだなと感じる。


(だけど盗み聞きはあまり褒められたことじゃない)


 第6の君は閉じていた目を薄らと開く。そうすれば耳に風の雑音が入る、瞳に王都の夜景が写る。何故これ程までに彼が詳細な感覚を手に入れることができるのか、それは彼が龍の完全体へとなったから。


 そう、第6の君は確かに今日の龍化の儀にて次期国王となる権利を得たのだった―






 太陽高度が高い白昼、太陽を反射する白塗りの神殿の中では龍化の儀が行われていた。青や緑が主に使用されたステンドグラス越しに窓から入ってくる光は拡散して不思議な程明るく幻想的な雰囲気が満ちていた。


 本日儀式を受ける王子達の他に神殿内に呼ばれたのはミナミノ公爵家とクロウ公爵の当主とその子息令嬢。これは古代強制龍化によって儀式中に龍化した際、直ぐに忠誠を龍化した方に誓う為のが通例だった名残だ。代数を重ねることによって龍の血が薄まり、時差で起こるようにはなったが、龍の兆候が現れれば直ちに行うことになっている。


 忠誠を誓うのは一代に一人で第6の君が属する世代ならば忠誠を誓うのはレイティ達―次期国王の側近候補として王宮に務めている彼らだ。


 王子達の父親である国王が神殿の中で高い天井の中央部に立つ。舞を踊ることで魔術陣を発動させた王もいたと聞くが、現王は複雑な魔術陣の中心に立ち目を瞑るだけだった。床に三重の紋が光だして空中へ浮かび上がる、魔力の流れの向きが変化して国王と魔術陣上を立つ第6の君達に覆い被さる。


 変換されずに漏れた魔力は光粒子となり辺りを浮遊する。虹色に色を絶え間なく変化させる光が舞うその様子はまさに幻想的で美しかった。


 だけれど第6の君にとって美しいと感じられたのは一瞬だけだった。熱が全身に行き渡り呼吸がしにくくなる、手足に力が入らず立つことも不可能になり膝から崩れてしまう。神殿内に鈍い音が反響する。レイティが眉を下げて慌てて近づいて来ようとしたがフィンクスが彼女の手首を掴んで止めた。


 レイティがフィンクスに対して抗議を叫んでいるが、そのうち彼女の兄であるアノールが彼女の肩を掴んで首を振る。レイティは泣き出しそうな顔をして俯いてしまった。


(共鳴している)


 床に手を着いて、汗を留めなく額から大量に流しながら第6の君はそう思った。自身の中に存在する魔力が共鳴して暴れて外へ出たがっている、放出するルートもしたことが無いはずなのに感覚も明確に想像できた。


 魔力をこれ以上中に留めて置くのは危険だと理解できるのに放出するのは躊躇してしまう。大切な何か―きっとこれまで生きてきたヒトとしての感覚―それを失ってしまうような気がして、王宮最北の塔で起こったような自分が自分でなくなる恐怖を思い出す。


 それは冬の日の風邪にも似ている。あの時も身体の中でのたうち回る魔力を必死に中に押しとどめていた。自由に放散できれば楽ではあるだろうが、長い間誰も近づくことができない空間を作ってしまうと感じてできなかった。


 今もまた同じ。流れに任せて膨れ上がる魔力を流せば楽にはなれるが制御を知らないこれは同じ魔術陣上の第2の君と第11の君を蝕んでしまう。


(人を傷つけるのはしてはならないこと)


 だけれどこのままだと逆に自分が蝕まれてしまう。早く判断しないと意識が朦朧としそうだ。そうなれば無理矢理押しとどめていることも無意味となる。特殊かつ強力な防護魔術が仕込んであるこの神殿やレイティに怪我を負わせてしまうようなことは絶対にないが、それ以外となると嫌な予感がする。


(何か方法を探さないと)


 第6の君は暗記している今までに読んだ本から最適解を探す。龍の習性に関わる記述、神話、王家に纏わる歴史、能力、魔術陣の特性、この神殿が建設された経緯、この魔術陣の説明文―


―生命の根源は魔力に由来し世界へ還るとする。魔力を共有するとは運命を共有するとされ、魔力を分け与えるとは生命を分け与えて運命を所有するとする―


『生命を分け与えることで他の生命の所有権を得る』


 魔力量は分け与えることができる。そして今、第2の君と第11の君の魔力量こそ違えど質は等しく、感知能力が高められた2人への分け与えは通常より格段に簡単な筈だ。生命の所有権云々は気にしていられない、ちょっとした延命治療のようなものだと気を落ち着かせる。


 自身の中で形を変えて流れを乱れさせる魔力を捏ねて大雑把な形を整える。失敗する可能性なんて考えずに最低量を外へとむけて放出、共鳴範囲を超えて2人へ逆流させる。微かに呻き声がして膝を着く音が神殿内をこだまする。



 龍化の儀の終了後、描かれた魔術陣にそって光が収まっていく白く輝く大理石の床の上に開始前と同じように立っていられたのは国王だけであった。第2の君は蹲り、第11の君は嘔吐する。第6の君は意識が渾沌としていた。


 第2の君、第11の君、そして第6の君を順に見渡した王は「成功した」とだけ呟く。目線は最後の第6の君にあったが、誰がとは言わない上に見ただけでは分からない為に通例通り龍化が起こるまで王子達は神殿で過ごすことになった。






 次に第6の君の意識が覚醒した時には王は退出し、神殿内にある個室のベットの上に寝かされていた。ベットと机のみが置ける小さな部屋にひとつある窓からは月が顔を見せ、白いカーテンが揺れている。


 鼻いっぱいに甘く良い匂いがする。本能的に抗えない香りの元を探そうと顔を動かすとそこにはベットの縁に顔を伏せて寝るレイティの姿があった。


「レイ」

「ん…」


 半身を起こして彼女に優しく呼びかけると彼女は目を瞬かせながら顔を上げる。長いまつ毛に縁取られた美しい翡翠色の瞳、全て結い上げずに片方横で三つ編みされた髪の毛が揺れる。全てが美しくまた可愛らしい彼女はとある目覚めたばかりの龍にとって最も価値のあるものだった。


 第6の君―レイティにノアと呼ばれる青年は自嘲する。


(嗚呼、レイは……………番だ)

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