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3話ー④

 上半身を起こし優しい瞳でレイティの話に 相槌を打ちながら聞いてくれるノアへ前半のどうやって離宮の侍女の中に紛れ込んだかだけを話した。ノア付きの侍女がかれに良い感情を抱いていないことは雰囲気で気がついていても態々教える必要は無いと判断した。


 但し、ノアにそこを追求されれば隠す気も無い。彼は暴君では無いから侍女達の不満を聞いても彼女達を責めたりはしないだろう。


「ノアが心配だったから…、その…不快だったのならごめんなさい!」


 ノアは緩く首を振る。レイティは近づくことを4日前に拒絶されてしまったけれど、どうしても体調を確認したかった。だからちょっとした裏技を使って潜入していたのだ。


「心配してくれてありがとう、嬉しいよ」


 ノアの声にゆっくりと顔を上げる。天幕の奥から入る白い光が透けてベットを照らしている。


「レイが意識が無い僕の世話をしてくれたのでしょう?おかげでこうして元気になれたよ」


 頬を緩め目を細めて破顔する彼はとても美しかった。レイティは「よかった…」と呟いて胸を撫で下ろしてサイドテーブルに置いた鍋に入った粥を小皿に少量取り出しノアに手渡す。受けっ取った彼は戸惑いを見せながら口へ白い柔らかい白米を運ぶ。味はミナミノ公爵家料理人が味付けを提案・改良を行い、王宮料理人が許しを出す程の出来であるから心配はしていないが、口に合うかは不安だ。


 一口目食べたノアは二口目、三口目と粥を運んでいく。表情に変化はないが、スプーンは止めないようだ。


「美味しい」


 ノアのその一言にレイティは頬を綻ばせる。粥からは湯気がたっており、出汁のいい香りが立ち込める。寒い冬の午前に丁度いい心まで温もってくる温かさだ。


「その…前にお見舞いに来た時、わたしのどんな言葉が不愉快だったか教えて欲しいです」


 温かなる沈黙が2人の間に流れていたが、それを途絶えさせるようにレイティは静かに口を開く。ノアは焦ったように首を横に振る。


「レイに悪い所なんてないよ、あの時は本当に調子が悪くてね」


 ノアは苦虫を噛み潰したような表情で言う。しかし、安心して欲しいノアの願いとは裏腹にレイティは体調不良の時に無理に押しかけてしまったことに対する申し訳なさで胸がいっぱいになり項垂れてしまう。


 落ち込んでいくレイティを慰めるべくノアは手を伸ばしたが、彼女に届く前に下ろしてしまう。何となく彼女に触れてはいけない気がした。塔で弟―第11の君を殺めかけた何か、起こしてはいけないものを起こしてしまう気がした。


「…レイがお見舞いに来てくれたから僕は早く治るように頑張ろうと思えたんだよ。だからあの時来てくれたのも侍女に紛れて僕の為に動いてくれたのも今こうして目の前で話せるのも全部嬉しい」


 考えて選んだ言葉はレイティに届いたらしく顔を上げる。目が合って微笑めば薄く桃色に色付いた頬の彼女が恥ずかしそうに笑う。


(可愛い)


 そうノアは思った。後ろでひとつに纏められたプラチナブロンドも翡翠色のノアを真摯に見つめる瞳もとても綺麗だと思った。


 ここ数ヶ月、ノアはレイティを見る度に心が踊り、つい彼女の動きを目で追っては思わず笑ってしまう。彼女が笑えば心地よい感情が胸に広がり、彼女との思い出は思い出す度に何度も噛み締めたくなる。この感情は何だろうか。


 いや、ノアにとって出会った頃からレイティは特別だった。しかし、フィンクスが婚約者だと紹介されれば納得しかなかったのに今は残念で仕方ない。笑顔でいて欲しい、そう願うからノアはレイティと友であり続ける。


「わたしはノアの言葉が嬉しい!これからも頑張ろうって思えるの」


 明日の方向を見上げて意気込むレイティを見てノアは表情を崩して声を漏らして笑ってしまう。彼女にこの心地よい胸を温める感情の名前を訊けば答えを教えてくれるかと吟味する。


「レイ…君は心の中がふわふわと熱くてその人のことを考えるととても幸せな気持ちになるこの感情を知ってる?」


 突然の問いにレイティは暫く思考の停止した後、ゆるりと動き出した頭を回転させる。


「とても幸せになるのに、同時にとても苦しくなる」


 うまく説明できないなと切なげに呟かれたノアの言葉にレイティは耳を傾ける。特定の人の熱くて幸せで有頂天になるのに、同時にとても苦しい―それはきっと。


「それは恋だと思う」

「こい…?」


 反復する声を受けてレイティは深く頷く。ノアもレイティに続いて真剣な表情で頷きを返す。実物を知らなくても知識として知っているノアはきっと結びつけることができるはずだ。


 ノアは顎に手を当て考え込む。口元で何回か繰り返した後、「あぁ、なるほど」と小声で口篭る。そう呟いた後顔を上げてレイティを見るその表情は晴れ晴れとしていた。


「ありがとう」


 彼の感謝にレイティはそれ以上に誰に対して恋心を抱いたのかが気になった。幼い頃からの付き合いだ。友人の好きな人を知りたくない訳がない。だけどそれを尋ねるのは憚られる、理由は何となく知らない方がいい気がしたから。少なくてもレイティはノアを心の支えにしていた。彼に頼ることができなくなるかもしれない可能性を心のどこかで恐れたのかもしれない。


 気まずい空気感の中、先に口を開いたのは粥を運ぶ手が先程から止まったままのノアだった。


「あんまりフィンクスやアノールに心配をかけないように程々にしてね」

「………はい」


 再び手が動き出し、特別何事も無かったかのようなノアの言葉にレイティは目を逸らして信用できないか細い声が返ってくる。それを聞いてノアはくすりと笑い声を漏らす。肌寒い冬の朝、心温まる会話、これもまた大切な思い出のひとつになりそうだ。

すみません…、間に合いそうにないので暫く休みます。

ここまで見てくれた方々ありがとうございます!

完結はさせます!m(*_ _)m

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