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2話ー⑰

 その後いくつかのぎこちない会話を繰り返し、歪な家族会合はお開きとなった。


 第6の君は人生で会うのは産まれて乳母に引き取られるまで僅かな時間を共に過ごしたのを含めて、2度目となる母親との接触の中で、彼女を街へ下れば何処にでもいる至って普通の少女だと評価した。何か特別な感情が芽生えるわけでも無ければ、嫌悪感も抱かない。他の家族同様に他人だと感じた。


(レイに会いたい)


 第6の君は登ってきた螺旋階段を今度は第2の君と第11の君と共に降りる。窓のない隙間風の騒音が円柱状の塔の中を駆け抜ける暗闇の中、彼らは灯火を付けることなく踏みはずさずに降りていく。靴で石造りの階段を踏み鳴らす音が来た時より2つ分増えた。


 その最中、母親に会ったことよりも第6の君の脳内には今日の午前にレイティと散歩した宮廷内の庭園での思い出が流れていた。


 復帰したとはいえ彼女の兄を筆頭とするミナミノ公爵家の家族とクロウ公爵家嫡男が心身を心配し、彼女がいない2週間―正確には15日の短期間のうちに確率させた執務の分担分けにより彼女が働く時間は以前よりずっと短くなっている。


 第9の姫が亡くなる以前と同じ時間に登城したレイティは午前中に終わらす執務を昼休憩よりもかなり早くに終了させ、フィンクスとアノールに追加の執務を寄越すように迫ったらしいが、それを彼らが許す訳なく暇を持て余した彼女は庭園で散歩していた。


 レイティが散歩していた庭園の位置は宮殿と第6の君達王子が住まう離宮の間にある1番大きな場所だった。その頃、母親との面会を主とする手紙を受け取り了解の返事を書き終わった彼は窓から見えた長いプラチナブロンドを下ろし、深紅色の仕事用のドレスを纏うレイティを見て目を細める。髪をカチューシャのように三つ編みにして先に黒いリボンを着けているところが律儀だと思う。


 庭園を見て周り冬に向けて蕾を付ける花を見て微笑むレイティはこの世のものとは思えないほど美しい。自由に動きまわる様子から休憩中だということは直ぐに分かり、母親との面会まで時間があった第6の君は席を立つ。部屋の隅に控えていた侍女に外に出ると伝えると、予め準備していたのコートを取り出す。


 それに腕を通し離宮を出てレイティに近くと彼女は第6の君に気がついたようで小走りで向かって近づいて来る。


「あ!……第6の君!」


 ノアと言いかけて言葉につまり、跳ねるように足を小さく動かして近づいてくる様はまさに小動物のようであり愛らしい。第6の君は優しげな微笑みを浮かべる。


 湖と代々公爵家の別荘がある地―トゥー二ーで会い王都に戻って初めての再会となる。さらに2人とも空き時間を持て余していた為に久しぶりにゆったりとしたくだらないことを会話して笑い合うことができた。


 彼女との会話が楽しく時間の確認を怠った結果、二度はない家族の集いに時間ピッタリに到着したが、遅刻しなければ父親の国王から後日小言のような嫌味が言われるかもしれないが番がいるその場で激怒することは無いと踏む。


 陽の下の温かな思い出に浸っていると日に当たらないこの塔の中でも元々掘り抜きの窓があった痕跡がある部分から光が差し込んでいる幻影が見える。


「おにーさまぁ…」


 背後から声を掛けられ、その妙に人懐っこい声に第6の君は階段を降りる足を止め、後から続いていた第11の君を眉を顰めたかったが、友好的に接してくれる人に対する対応では無いと改めにこやかに振り返る。第6の君の先を降りていた第2の君は弟2人の様子を気にすることなく進む。


 先程の家族の集いで自分の父親に威圧を受けたことを根にも思わない能天気な態度だった。


「なに?」


 家族関係が気薄なのに第11の君は第6の君を『お兄様』と呼んだ。普段からそう呼んでいるのか発音におかしな所は無いのに、第6の君は弟からそう呼ばれるのに違和感が拭えない。


「あ、えっと…んと……」


 第6の君が足を止めさせた要件を訊くと第11の君は第6の君の2段上の段から言いきれずに躊躇し、上目遣いで彼を見つめる。


「用がないなら僕は行くよ」

「あああ、まってー!」


 なかなか言い出さない第11の君の様子に煩わしさを感じた第6の君は既に王子教育も終わっており、この後の午後、特にこれといった用事は無いが、彼に背を向けてもうかなり下に姿が見える第2の君に追いつくよう足を進めようとする。しかし第11の君が咄嗟に腕を掴んできた為進行ができなくなる。


「あのねあのね……王宮を出る方法を教えてほしーの」


 再び振り返った第6の君は唐突な無茶振りに第11の君を探るような瞳を向ける。第6の君は教えて貰えないという未来を想定していないようで期待の篭った目で第6の君を見つめる。


「何故?」


 第6の君は訳が分からないとでも言うように肩を落として溜息を吐く。確かに未成年の王族は王宮を出ることはできないが、王宮の中で生活が完結できるような稀にない贅沢な生活を送っている。態々外へ出る必要など普通ない。


「アミンの領地のカタラーナ伯爵領に行きたいの。最近魔物の処理が追いつかないから困ってるんだって…」


 第11の君は第6の君の様子に言葉足らずだったことを悟り説明を付け加える。


「国に討伐軍の要求を出したけど今って色んな場所で魔物達の動きが活発になってて、取り下げられちゃったんだって……可哀想でしょう?」


 その言葉に束の間第6の君は不愉快になるが、第11の君は未だ王子教育を始めて間もない。出没する魔物数がアネクメーネである紫の土壌と青と銀の生い茂る葉で有名なルーナ地方を中心に各地で異様に増えていて、国の根底として龍が支配したこの地は魔物が少ないというのが仇となり討伐軍の人数も備えも心許ないことを知らない。


 さらにカタラーナ伯爵領はそのルーナ地方に接しており他で見ることができない特殊な魔物に対応する戦術を身につけている先鋭部隊がある。ルーナ地方を北西で接するカタラーナ伯爵領より南で接する龍の化石を献上したルカラーナ子爵領での被害の方が酷い。


 しかしそれは王子教育を終わらせ、尚且つレイティ達と会話する中で得られる情報だ。離宮に引きこもっている第11の君は知らないだろうし、今は知らなくてもいいことで責めるのは好ましくない行為だろうと第6の君は溜飲を下げる。


「それでどうして僕にその相談を?」


 王宮を出る必要が無い―つまり出る方法など知らないであろう他の兄弟に尋ねて回るよりも、祈りの為に外へ出れる国王に訊いた方が効率的だ。


「だっておにーさま、ミナミノ公爵令嬢のおみまいに王宮を出てたから」


 第11の君は不思議そうに首を傾げる。第6の君は気付かれていたことに目を見開いく。王宮に戻れば国王から咎められ暫くと言っても2年ほどだろうが自室での謹慎を覚悟していたのにレイティを連れ戻したお礼で手を回してくれたのか、国王からの呼び出しも謹慎を言い渡されることも無かった。


 しかし、まさか第11の君に気付かれていたとは思わなかった。第6の君は目線を逸らし諦めの溜息を吐く。


「カタラーナ伯爵令嬢と言えば君の友人だったよね」

「うん!僕の大事な友達!」


 第11の君の声色は友達と言いながら楽しい玩具で遊んで喜んでいるようにしか聞こえない。


「友達の危機とあらば助けに行かないと…!」


 第11の君は覚悟を決めた顔をすが、第6の君にはそれすらも遊びにしか見えなかった。楽しそうに鼻歌でも混じりそうな調子で台詞を吐く。


「それにおにーさまだってミナミノ公爵令嬢が困ってたら助けてあげるでしょう?」

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