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2話ー⑪

 第2の君は終始挙動不審となる場面が存在したが、手馴れた様子で挨拶に来る貴族達に対応していく。


「レイティ」


 貴族達が再び2人を取り囲む前に名前を呼ぶ声が掛けられる。フィンクスとは違うレイティと公爵家名ではなく名前を呼ぶ声の主にレイティは声が聞こえる方向を見る。


「…ノ………第6の君」


 シャンデリアが煌めく下、鮮やかに着飾った人々の間から顔を覗かせたのは主役の38歳下の弟―第6の君―レイティが付けた名で呼ぶとすればノアだ。彼はこの華やかな場にも負けない美しさがある。容姿の良さとパーティ会場にふさわしい装いはさることながら、さらに7色に輝く髪が色とりどりな様子を表していた。


 レイティはノアと呼びそうになって直ぐ第6の君と言い直す。公式の多数の目がある中で親しすぎる行為は命取りとなる。特に今日のような第2の君を推薦する貴族家が多いところでは余計にだ。


 レイティとフィンクスは第6の君の姿を認めて直ぐ第2の君と同じようにお辞儀する。


「ご機嫌よう。貴方も参加していたのですね」

「ああ、兄上の晴れ姿を見たいと思ってね」


 レイティの言葉に対してノアはにこやかにそう言う。しかし、食事すら共に取らない王族の家族は細い繋がりでしかない。証拠にこのパーティに参加している王族は主役の第2の君を除けばノアしかいない。


 現在生き残っている王子王女は2人の他に第9の姫、第12の君がいるが彼らの様子からして端から参加するということすら考えていないようだった。だからノアの兄の姿を見たかったからという言葉に引っかかりを持つ。ノアと第2の君は王族として他と変わりない接点しか知らないから余計にだ。


「君の綺麗な姿も見ることができて嬉しいよ」


 第6の君のその言葉で彼が何故参加したかの真意が読み取れた。


(ノアはわたし達と会うために来てくれたんだ…!)


 近頃、氾濫した川にかかる橋の修繕がようやく終了し、街道が利用することができるようになった。それにより、物資の運搬や人の出入りも活発となり、滞っていた景気も回復を見せ始めた。


 しかし、それにより溜まっていた事柄が次々と浮上し、どこも人手不足だという。ドラゴニスタ王国は冬は冷え込む、さらに河川の氾濫により畑が泥に沈み今年は豊作が願えない有様の地域が川に沿って広がる。問題は積み重なり、王宮もひどい人手不足の1つとなっていた。早期解決できるよう魔法学園、魔術研究室に引きこもっているレイティの兄―アノールまでもが駆り出される程だ。


 そんな王宮が多忙を極める中、更に第2の君の誕生日を祝うパーティを開催したのだから、このパーティがどれほど異常で非常識か窺い知ることができる。


「ふふ、ありがとう」


 レイティはエスコートの為にフィンクスに腕に添えていた手を離して人が近距離に居ないことを確認した後、その場で一回転する。青藍色のドレスの下から白いたっぷりのレース生地が顔を覗かせ、流れる滑らかなプラチナブロンドは彼女の動きに合わせてシャンデリアの灯火によって光る。ハーフアップに使われた黒いリボンが印象によく残る。


「フィンクスに頂いたの」


 回り終わるとレイティはフィンクスと目を合わせる。フィンクはレイティと目が合うと苦笑とも取れる微笑みを見せた。


「…綺麗だね」


 ノアはもう一度そう呟く。彼の瞳はパーティの賑やかさも夜の暗闇も映さずただ美しい7色が静かに存在する。形のいい唇から紡がれた言葉は彼の優しげな笑顔に似合った色を帯びていた。


「今宵舞い降りたセレネのようだね」


 セレネは神話で月の化身と謳われる美しいとされる龍の名前だ。レイティはノアが驚くほど自然に甘い言葉を吐くから思わず瞬きしてしまう。


「…貴方はよく女性から好意を寄せられないかしら」

「寄せられたことないよ」


 レイティは紅潮した頬を隠すように少し俯く。その理由を作ったノアはというとレイティの発言の意味が理解できないようで首を傾げている。しかし、彼女が俯いた理由が自分にあることは分かった為か、少しの焦りを見せる。


 ノアの様子にレイティは「そう」と答えながら彼が王族であることを思い出す。王子様に愛の言葉を投げ掛けられることを夢見る少女は多いが、王族は龍であるため短命、若しくは生まれ落ちた時から定められている運命の相手がいることはドラゴニスタ王国の周知の事実だ。そのような御方に見初められたかもしれないという妄想をする人がそもそもいないのかもしれない。


 むしろこの龍が治めるドラゴニスタ王国で最も恋愛感情を寄せられるのはレイティの隣に立っている男―フィンクスではないだろうか。


 彼と彼の周囲の人達はレイティがノアと話し込んでいるのを見て世間話をしている。人集りの奥を見ればフィンクスに対して明らかな恋愛感情を抱いている令嬢達がいることも見てわかる。


 レイティは一瞥にフィンクスを見て、その後俯きがちだった顔を上げてノアと瞳を合わせる。彼の目はいつもと同じ白い無機物のようで、彼にそういった想いは一切なく女性を褒めるお世辞の一つとして使用しただけということをよく表していた。


 少しの間だとしても本気にしてしまったレイティが無性に穴に入りたい気分でいると、第2の君の挨拶の列が終了したようでダンスの為に会場に華やかな音楽が鳴り始める。


 通常のパーティならば1番初めのダンスは主催や主役のファーストダンスから始まるが、第2の君は特に踊りたい令嬢がいないのか打ち合わせの時点で1番初めのダンスをレイティとフィンクスに譲っていた。


 ノアは事前に確認していたようで音楽が鳴り始めた時点で新しい話題を出すことはなく、少し離れた位置にいるフィンクスは会話を止めこちらへ戻ってくる。


「ミナミノ公爵令嬢レイティ、私とファーストダンスを踊って頂けませんか?」

「はい、わたくしでよければ」


 フィンクスは膝を着き、正式なダンスの申し入れをする。レイティがそれに応えて手を差し出されたフィンクスの手に重ねる。いつの間にかできていた2人を取り囲むようにしてできた空間は人々を虜にする。


 それはフィンクスを狙っていたご令嬢が悔しいとすら思わせない程に洗練された美しい動きだ。


 人々が注目をする前に場を素早く離れたノアは壁の華となり色とりどりに着飾る人々の隙間から2人を観察する。彼にはパーティもそこで着飾る人もましてや主役の兄も画一的な背景にしか見えなかった。


(やっぱりレイ以外楽しそうなものってないなぁ)


 レイティからパーティの楽しさについて教えてもらい、それを全て試したこともあるが楽しさを見出すことはできなかった。通常年に2回のみ王宮で開かれるパーティである国王の生誕祭と建国祭以外のパーティであるから出席してみたがそれらと変わり無かった。


 レイティにとっての楽しみが全て自分に関することであればいいのにと感じることもあるが、『大切な人が楽しそうにしていると自分も楽しくなってくる』という言葉を知っているノアは口元に穏やかな笑みを浮かべた。

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