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2話ー⑩

 普通、といってもここ3000年の話なのだが、王子王女は王太子となり名を貰うまで生誕祭をしないのが通例となっていた。だから、立太子していない第2の君の誕生日を祝うこのパーティは異常だ。


 このパーティーはドラゴニスタ王国西部に広大な領地を持つケルタス侯爵家が後援したことで実現したもので、かの侯爵家は第2の君が立太子すると予言している。それは決して強欲で言っているわけではない。


 第2の君は85年生きているのだ。ほとんどの王子王女は50歳を迎えずに死する中で85という数字は予言できるほどの説得力があった。


 そんな異様なパーティに何故レイティとフィンクスが参加しなければならないかというと、2人がドラゴニスタ王国を代表する由緒正しき公爵家の子供であるから。しかし2人以外の公爵家メンバーは不参加だ。これは高慢なケルタス侯爵家を筆頭とする貴族達に天啓も無しに第2の君が王となるのを認めないことを示している。


 第2の君が頭を上げる許可を与え、2段の階段を降りたところで、フィンクスが片手を胸の前まで上げると挨拶の為に2人の周りに群がっていた貴族達が第2の君までの道を開ける。


 2人は空いた道を通り第2の君の前まで移動する。


「こんばんは。クロウ公爵子息、ミナミノ公爵令嬢」

「ご機嫌麗しゅう、85歳のお誕生日おめでとうございます。夏と秋の龍星の下、殿下をお祝いできたことに心より感謝いたします」


 フィンクスが定型文を述べる。龍星は星を繋げて作る想像の龍でそれぞれの季節に1つずつ、計4つある。海を越えた国では龍星などはなく、ドラゴニスタ王国固有の星の見方で、海を越えた国では龍の形ではないが、同じように星を繋げて星座と呼ばれているものだ。


「貴方に龍の兆候があらんことをわたくし達はお祈り申し上げますわ」


 次にレイティが口を開き、挨拶のあと、意味は『これだけ大規模な生誕祭の開催を止めなかったのだからそれほどまでに自信がおありなのですわね』というちょっとした嫌味を言う。これも先に考えてあった文章だ。


「ありがとう、ドラゴニスタ王国を未来担う者たちに祝われてとても嬉しく思うよ」


 第2の君はノアと似た声のトーンで言葉を発する。だけれど、そこには感情がなかった。建前や思惑、そういったものに全く興味がないようだった。それはレイティとフィンクスにも当てはまり、2人の言葉や行動の意図を探ろうともせず、発せられた言葉に対して返しただけに過ぎないようだった。


 これが他国のヒトの王子ならば愚王子となるが、龍の場合本当に興味がないのだ。国にも民にも興味を示さない王が頂点に立てば国は荒廃する。だから公爵家が王を支える。王は重要事項の最終決定と国土の肥沃と安定のために祈りの儀式を行う。政治や経済に異様に興味を持ち賢王と呼ばれた王もいたようだが、例は少ない。


 公爵家は産まれて1週間以内にに王族と契約を交わし、縛りを受ける。元来2つの公爵家の気質が穏やかだったのもあるだろうが、縛りは王族を殺すことができないようにする身体的なものと、王族に対して忠実心を植え付ける精神的なものがある。


 レイティもどこまでが本心でどこまでが契約によるものか聞かれると混同していてわからない。しかし、物心ついた時から言われ続けた生き方に不満を抱いたことはないから考えたことすらなかった。


「そういえば、ミナミノ公爵とクロウ公爵の姿が見えないようだけど」

「父上は今夜忙しいようで」

「わたくしのお父様もですわ」


 瞳や首、手の動かし方や体の傾け方、口調は芝居がかっており、それがヒトへの興味の無さをよく表していた。


「そうか、残念」


 少しも残念な様子には見えないが口上ではそう言う。第2の君の髪はノアと似たシルバーブロンドでパーティ会場のシャンデリアの灯りを反射して白金色に見える。


「これが生誕祭か」


 パーティ会場を見渡した第2の君が呟く。


「国王の場合もう少し賓客が多くなるのかな。まぁ。変わらないか」


 第2の君はこのパーティの為にどれほどの人が関わり、準備をしたかを顧みず期待はずれ、興味を失った響きを持つ声で冷たく言い放った。


 会場の華やかで楽しげな雰囲気ががらりと変わった。第2の君への畏怖から楽しめなかったことに対して身を竦めている者が多数だが、このパーティの準備に大きく関わった物の中には批判や軽蔑の視線を向けている。


「貴方はここにいる人達がどのような思いでこのパーティーを開催し、参加しているか考えていますか?」


 暖かな電球色すら白々しい白色光を感じる巨大かつ豪華なシャンデリアの下、レイティは第2の君の暴言に耐えられず冷ややかな目を第2の君に向ける。


「パーティとは楽しいものなのでしょう?私を主役としたのはちょうど私の誕生日が近かったからで、王宮で開かれるのであれば誰でもよかった」


「そうでしょう?」と言う第2の君とノアは38歳差でありながらどちらも成長期を過ぎたため、ほとんど変わらない年齢の見た目となっていた。なのに2人の人への対応は雲泥の差があるとレイティは感じた。それはフィンクスも同じようで眉をひそめていた。


「少なくともこのパーティーは第2の君―貴方の為に開かれたものですわ」


 他人事な態度の第2の君へパーティの開催に携わった人への感謝と主役としての自覚を持って欲しいとレイティは願うが、彼は言葉の意味が理解できないのか、首を傾げるだけだった。


 会場の空気がもう一段冷えようとした時、レイティの行動をフィンクスが制した。


「私達は貴方のおかげでこんなにも素晴らしいバーティに参加することができました。感謝申し上げます」

「ああ…」


 フィンクスはレイティに任せてははこの場の収束がつかないと考えたらしく、話をまとめる。第2の君はフィンクスのお礼と先程のレイティの非難の言葉に困惑しているのか、生返事が返ってきた。


 レイティはフィンクスの態度に少しの間不満を持ったが、直ぐに彼の考えを読み取り場を合わせる。主役を罵ってパーティをこれ以上不格好なものにする訳にはいかない。


「失礼します」


 最後に第2の君へ向けて会釈をし、その場から去る。レイティとフィンクスが退いた後、先程の失言で冷ややかな視線を向けていたのが嘘のように穏やかに微笑んだ貴族達が次々と第2の君へ挨拶を行う。

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