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2話ー⑧

 ルイーズの部屋はピンクと白色を基調としてリボンやレースたっぷり使った天幕付きのベットや宝石で装飾された棚に繊細なデザインの小物が置いてあるまさに女の子の夢の部屋だ。


 そんな部屋の真ん中に色鮮やかに描かれたキャンパスが立てられており、ルイーズはキャンパスの側へ寄る。


「これかいてたの!」


 自信ありげに鼻を鳴らして紹介されたそのキャンパスは美しい花畑に白色と薄黄色と水色で描かれた蝶々が飛んでいた。空は晴れており澄んだ空色と薄く白で雲がとんでいる。さらに空は明るいのに星が輝いており、不思議な世界観を生み出していた。


「綺麗な絵だな」

「んふふ、おはなはね、おにわでかんさつしながらかいたの!」


 フィンクスが褒めてルイーズの頭を撫でると彼女は変な笑い声を上げた後、どこを拘ったか説明してくれる。


 ルイーズの絵は才能を持っているとフィンクスは思う。描かれている構図やひとつひとつの物の形の美しさもそうなのだが、何より彼女は無自覚に物質の色を変えるという魔術を使っている。


 ミナミノ公爵家が火、風、水、土の属性魔術が得意だとすれば、クロウ公爵家は無属性魔術が得意だ。形があるものが魔法、形の無いものが魔術であり、魔法は古代神話時代に生み出されたものが礎となりそこから派生させたもので魔力が有れば誰でも使える。しかし魔術はドラゴニスタ王国ではミナミノ公爵家、クロウ公爵家、そして王家のみが使え、基本創造した本人しか使用することができない。


 その理由は魔術は繊細なのだ。魔力の量や圧力、術式のひとつを間違えれば、術式の複雑さによって規模はことなるが爆発してしまう。その性質はある国で戦争に使われた位なのだから舐めてはいけないだろう。


「このちょうちょはこううんで、このちょうちょがこうふくで、このちょうちょがかなしみ」


 ルイーズはまず黄色い蝶を指さし、次に白色、最後に水色の蝶へ移動させながら説明してくれる。


「なるほど、蝶々にも意味があるんだな」

「うん!」


 蝶々が描かれた部分には魔術が込められた絵の具が使われており、ルイーズがそれぞれの蝶に触れた時に彼女の表情や声色が微かに説明通りに変化した為、これらにも無自覚に魔術を使用した事が推測できた。


(天才だな)


 それはフィンクスがシスコンという訳では無い。ルイーズは誰かが魔術を教える前に魔術を使ってみせたのだ。今代の魔術の天才と謳われるレイティの兄、アノールでさえフィンクスの初めは叔父に教えを受けていた。


 更にルイーズはピアノの音色を他の楽器の音に変換する―よく聞けばピアノだと分かるが、ピアノでは出せないような音色をたった一つの楽器で表現することができる。そこにプラスで絵の蝶のように簡単な感情操作すらできてしまう。


 初めて彼女の演奏を聞いたピアノのレッスン講師は感動のあまり、膝を着いて涙を流し、私に何も教えれることはありません、と言い放ち帰ってしまった。


 そのレッスン講師は就業の為、音楽の都―サルティア王国へ旅立ち偉大な功績を残したが、謙虚なようで一切章を受け取ろうとしないらしい。


 フィンクスはルイーズのよくできたと頭を撫でる。その時丁度、夕方の鐘が鳴る。朝、昼、夕方の3回でこれを機に街は雰囲気を変える。


「さ、夕餉の時間だ。食堂へ行こう」

「うん!るいーずね、きゃろっとさらだをね、りくえすとしたの!」


 フィンクスは自身の手の半分程しかないルイーズの手を握って部屋を出た。そして夕日の残光と灯ったばかりの魔石に彫られた魔法陣による灯りが入り交じる廊下を歩く。


 キャロットサラダはフィンクスが好きな料理の一つだ。


「さいきんいそがしそうなおにいさまがげんきになってほしくて…!」


 フィンクスはルイーズの言葉に頬を緩めて愛おしい目付きを彼女に向ける。彼女は照れて目線を外して最後の方は早口になっていたが、言い終わった後にちらりと彼に同じ漆黒の瞳を向ける。


「ありがとう、嬉しい」


 そうフィンクスが言うとルイーズは安心したように照れた顔が花開いた笑顔になる。


(ルイーズが1番可愛い)


 王宮でどんなに絹のように美しい髪ときめ細やかな肌を持っていて月の妖精と称えられていようと、人により態度を変え、高慢かつ高飛車な姫とは大違いだとフィンクスは内心悪態を付く。


 そしてそれは婚約者であるレイティにも飛び火する。レイティは第9の姫のことを異様な程大切にしている。何故、ルイーズでは駄目なのだろうか。姫よりもずっとずっとルイーズは可愛くて人のことを思える優しい心を持っている。それにルイーズはいなくやったりしない、同じヒトという生き物で同じ時間の中で生きている。


(なのに何故…)


 レイティとルイーズが初めて会った時、ルイーズはフィンクスが信頼しているのを見てレイティに懐いた。その様子に寂しいような嬉しいような気持ちになったことを今でも覚えている。


 一方レイティはルイーズをルイーズとしてでしか見ていなかった。平等に人と接する彼女はルイーズとも平等に他の人と同じように接した。レイティらしいその行動がフィンクスにとって不満でしかなかった。


 隣を歩く小さな生命体を見るとむしゃくしゃした心が浄化されていく。頭が冷めていく中でふと今日の第9の姫の虚勢を思い出す。


―第9の姫は自らが死することを知っている―


 そう頭に浮かぶが直ぐに払い除ける。フィンクスより余程第9の姫をよく知っているレイティが第9の姫はいつだっていなくならないと思わせてくれると言っていた。ならばこんな憶測は失礼だろう。


 フィンクスは第9の姫に良くは無い印象を持っているが、いなくなって欲しいわけではない。姫はレイティの大切な友達だ。レイティには友人を失うような悲しい思いは避けられないものだとしてもできるだけ長くさせたく無い。

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