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2話ー⑥

 第9の姫と会話をしながら歩いていると、いつの間にか森を抜け細部まで手入れのされた花壇が並び、奥に重厚感漂う洋館が姿を現す。中からは温かな色の光が漏れていて太陽が残した紅色の残光を背景に照らす。


 第9の姫は景色を見る暇もなく洋館の入口を目指す。ここは王子王女が住まう離宮だ。ノアは食事に誘う場合必ず王宮の方で準備をしている為、離宮の中に入ることは滅多に無かった。


 レイティが第9の姫に手を引かれて入った部屋は離宮に入って直ぐの場所にあった。


 そこは外の風景を楽しむことができるように窓が大きく取られており夜の庭とそこに夜に飛ぶ光る蝶が見えるのがまた神秘的であった。また、空に夜が訪れ輝きがだす星々見え始めていた。


 準備しているのであろう真っ白なテーブルクロスの上に花が数本花瓶に生けられた机の側まで来るとレイティの手を離して彼女の方へ向く。


「ここですわ!」

「素敵な場所ね!貴方が用意してくれたのかしら?」


 自慢げに紹介する第9の姫をレイティは微笑ましく見ながら定型的な質問をする。


「はい!いつもはここで独りで食べているのですが、お姉様がいらっしゃるということでこの瞬間を想像して庭園からお花を積んできたのですわ!」

「わたしのためにありがとう。とても綺麗だわ」


 レイティは花瓶の花に目線を向ける。そこには小ぶりながらも青い薔薇が3本と白色と黄色の薔薇が一本づつ生けてあった。青い薔薇はレイティの好きな薔薇だ。理由はノアから貰った初めての花であるからだが、それを口にすると第9の姫が拗ねてしまいそうなので故を教えたことはない。


 薔薇に目を奪われていた時、第9の姫のお腹から可愛らしいお腹の虫が鳴く。レイティが「あらあら」と微笑んで見ると第9の姫は恥ずかしそうに少し俯いていた。


「お姉様、早く食べましょう?お腹が空きましたわ…」

「そうね、早く頂きましょうか」


 控えていたウェイターが引いてくれた椅子にレイティが座ると第9の姫も着席する。出てきた王宮料理人が振る料理はどれも美味しく見た目も美しかった。


 第9の姫との会話では日々成長している姿を聞くことができて感動する。そしてレイティは(わたしも負けていられないわ)と心の中で気持ちを奮い立たせていた。


 そして、彼女はいなくならない。そう思わせる強い意志を感じた。






 一方レイティが第9の姫と夕食をスタートさせた頃フィンクスは自宅のクロウ公爵邸にてルイーズを夕食に呼びに彼女の部屋を訪れる為に廊下を歩いていた。


 侍女に任せればいい様な事を態々公爵子息であるフィンクスが行っているかと言うと彼の妹のルイーズはまだ幼く、王宮へ出仕していないクロウ公爵家の大切な箱入り娘だ。まだ教育も初期段階であり、世間を知らない故か度々その日作ったものや大作の進捗状況を無邪気に紹介してくれる。フィンクスは彼女の可愛らしい小さな発表会を見る為に自らの足を運ぶ訳だ。


 今日はどんなものを見せてくれるだろうと心踊らせながら廊下を歩く。等間隔に並べられた窓から見える夕暮れは綺麗だが、今日の第9の姫と会った場面を思い出させ、不愉快な気持ちが胸に広がる。


 夕方、太陽がまだ沈んでおらず今よりも明るかった空の下、フィンクスはいつも通りレイティが終わるのを待つ為に王宮の執務室から1番近い裏口出て直ぐにあるベンチに座っていた。


 帰りの馬車を揃えるのは仕事仲間として友人としての2人の仲は濃厚であるが、婚約者としては気薄な2人の関係を両家のそれぞれの両親が危惧して勧めてきたものである。当の本人達からすれば、それ以前から帰宅時間が被っており不都合が生じない為了承しただけであった。


 それに、とフィンクスは付け足して思う。


(信頼はしている)


 両親が言うようにフィンクスもレイティに対して腰を寄せ頬に手を添え口付けをする、なんていう想像は少しも想像出来なかった。婚姻すれば跡継ぎの子を成さなければならないとなっても公爵家に産まれ、貴族としての教育を受けてきた自分達ならば必要なこととして造作もないだろうと考えれる。


 それよりもフィンクスにとってレイティに関しての心配事は第6の君を始めとする王族との関わり方だった。15年前、彼女の言葉に感銘を受けた彼は一度、教育により作られた王族―龍への偏見を捨て、自身の目で彼らを観察した。


 それにより視野が広くなり、レイティの考えが合っていると思える部分も知ることができた。しかし、長い年月を掛けて構築された偏見であるから根が深かったのか、考察の結果導きだした答えは変わらず『龍は別の生き物である』であった。


 また、レイティは友人の友人の死すら涙を流す程、優しく繊細な少女だ。フィンクスだって恐ろしいと感じる親しい友人の死を彼女が乗り越えられると思えなかった。


 ただ、レイティから見る龍の受け継ぐ彼らはあまりにも人間的過ぎた。それが異常であるはずなのに彼女は気づく事ができない。忠告しても実際に接することができないのだから、こちらからの説得は不可能に近かった。


「ご機嫌よう、フィンクス様」


 急に声をかけられ、フィンクスは再確認中だった国内の地理志から顔を上げる。そこには白銀の髪を黄昏により黄金に輝かせる第9の姫が薄らと笑って立っていた。

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