桜坂さんのお礼と妹
次の日、僕は朝早く起きて朝食を作っていた。訳あって家には大抵僕と妹の二人しかいないので、朝食を作るのは日課となっているのだ。ちなみに妹の名前は藤原奈央。中学一年生だ。
今日は土曜日で起きるのが遅かったので朝昼兼用にすることにした。慣れた手付きでパンとスクランブルエッグ、ウインナーを作りサラダを添えて出来上がり。特に難しい料理ではないと思う。
「兄さん。私たまには朝にパンじゃなくてご飯が食べたいんだけど」
「別になんでも良くないか?」
「良くない!」
「てか、もう昼だしノーカンだろ」
「いや意味分かんないし」
奈央は少し頬を膨らませながら言った。昔はもっと大人しかったのに最近は気が強い気がする。反抗期だろうか…そんな態度で友達はちゃんといるのだろうかと少し不安になってくる。
「食べ終わったら皿洗っといてよー」
「分かってるって!子供扱いしないで」
「でもお前言わなきゃ洗わねえだろ」
てか、たまに言っても洗わないしな。図星だったのか妹からの返事はなかった。
昼が過ぎて太陽が沈みかけてきた頃、一件の通知があった。見てみると、
『明日時間はありますか?良かったら昨日のお礼をさせてください。』
と書いてあった。いくらお礼とはいえ、今まで女子とまともに会話すらすることがなかったので僕は少し気分が高揚していた。自覚できるほどに。僕は早く返信したい派なので早速返信した。
『明日は午後からなら大丈夫です!わざわざありがとう』
と。
ちなみに午後からにしたのはゆっくり寝たいから。迅は長い間桜坂と一緒にいることよりも睡眠を優先したのであった。
日曜日、僕は少し早めに起きて準備をした。といっても家を出る時間より少し早いという意味なので11時くらいだ。一般的には十分遅い。朝顔もしぼんでしまう時刻だ。まだ季節は早いが…
そんなどうでもいい事を考えていたら、
「兄さんどこか行くの?」
「ちょっとね」
僕はなんとなく言葉を濁した。
「じゃあついでになんかお菓子買ってきて」
「はぁ?なんで僕が行かなきゃいけないんだよ…」
一応説明しておくと、僕はめんどくさいから行きたくないのではなく、お菓子を買った分のお金を返してくれないからである。すぐに奢らさせられるのだ。ただでさえ物価が上がっているのだから節約したいところである。
僕は待ち合わせ場所である駅前に着いた。ちなみ妹にお菓子を買ってあげることにしたが、荷物になるので帰りに買うつもりだ。そんなことを考えていると待ち合わせ場所に桜坂さんが来た。
「遅れてすみません。待ちましたか?」
そんなテンプレを言いながら近づいてきた。もちろんテンプレで返す。
「今来たところだよ」
「それなら良かったです。では行きましょうか!」
元気いっぱいにそう言うと先に進んでいった。なんだかテンションが高そうだ。普段と全く雰囲気が違うので、クラスメイトが見たらとても驚くだろうなぁ…
そんなことを考えつつ僕は桜坂さんに尋ねた。
「えっと…どこに向かってるの?」
「近くのファミレスに行こうかなと思っていましたけれど、嫌ですか?」
自然にだろうが、上目遣いで少し目をうるうるさせて聞いてくる。
「全然嫌じゃないよ。じゃあそこに行こっか」
桜坂がファミレスに行くイメージがなかったので正直以外だった。
店に入ると昼過ぎだったので他の客はあまりいなかった。とりあえず僕はドリアとドリンクバーを、桜坂はパスタとドリンクバーを頼んだ。二人が食べ終わった後、ようやく勉強を始めた。今日やるのは英語だ。
「では、とりあえずこの問題を解いてみて下さい。」
普段は英語なんてやりたくないが今日はやる気が出た。
それから10分ほど経った頃に解き終わった。その紙を桜坂さんに渡して採点してもらった。なぜか桜坂さんは気まずそうにしている。そんなにできていなかったのだろうか。
「えーと、とりあえず丸つけしましたけど…」
どこか歯切れが悪い。
「半分もできてないですね…」
「えっ!」
正直もう少しできてると思っていた。国語とか英語ってできたと思ってもなかなか点がとれていないんだよなぁ…
桜坂さんは間違えていたところを丁寧に教えてくれた。
「この問題ですが、discussの直後には前置詞は付かないですよ?目的語がきます」
まあそんな感じで色々なことを教えてもらっていたのであった…
「今日は勉強教えてくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございました。よろしければまた今度も勉強会しませんか?」
「良いんですか!」
「ぜひっ!またやりましょう!」
お互いに目が合って少し気まずくなって僕はつい目を背けた。
「じゃあ、またね!」
僕は桜坂さんと別れた後、忘れずに妹へのお菓子を買った。自分にはグミを、奈央には奈央が苦手な酸っぱいキャンディを。この後激怒されたのは言うまでもない。