雨が繋ぐ、小さい恋
纏わり付く銀糸の雨は、思うよりも濡れる。
冷える体を自分の両手で、抱きしめる菫は、当たり前の様に隣にいた響の温もりを思い出していた。
濃い金色の瞳から、透明な銀の雫が流れた。
何年前だろう?
同じ様な梅雨時期。
幼馴染みの菫と響。
紫音の方が一日だけお姉ちゃん。
絵が得意で、好き嫌いがはっきりしている。
口が立つ割には、引っ込み思案。
色が白くて、日に当たるともう火傷レベルに皮膚が赤くなる。
響は、両親と祖父の影響と天賦の才能でバイオリンが得意な男の子。
人が好き。
だって自分と違う考えなんて面白いじゃんって思うんだ。
スポーツも大好き。
何より菫が、大好き。
何時も一緒に、笑い転げて。
時々は、同じ出来事に心を動かされ二人で涙を流す。
実の無い話に、幾つもの花を咲かせた二人。
けれど、菫の仲の良かった両親が、田舎へ帰る途中に事故で亡くなった。
即死だったという。
菫は、響の家に預けられていて、それの知らせを受けた。
白い皮膚が、青くなった。
そして二人が、さよならしたのは、突然だったのだ。
一日違いの誕生日。
菫が、七歳。
響は、六歳。
響の両親は、菫が両親のどちらかの祖父母宅へ引き取られたのだと聞いたが、はっきりと分からないらしい。
「バイバイ。またね」
普段離れる時に、繰り返した言葉は、意味の無い文字になった。
だから響は、約束が嫌い。
雨の日もイヤ。
愛用品を持つ度に『バイオリンケースが、歩いている』と人に、言われる幼い背丈に、菫を想いながら一途に、音の道を邁進する。
君が、音を奏でる僕を好きと言ってくれたから……。
菫は、降り頻る銀糸の雨を肩に受けながら雨宿りしている大きな木の下でスケッチブックに筆を走らせている。
寒さに震える心の一番暖かな場所に、響を思いながら。 響は瞳を閉じて椅子に座る。
長い足をもて余す様に高く組み天から降りた雨粒が、濃くなる緑に挨拶する度に、聴こえる音階を楽しんだ。
雨粒が
その昔、菫と肩を並べて聴いた何時かのオルゴールと同じ音階を探す。
胸の奥に住んでいるただ一人を思いながら。
煙る様に降る雨空が、遠く離れた場所で過ごす二人を包み込んで一つにしていた。