囚人達
「……まァ、確かにセレナドでは、おれ達は敵同士だったかもしれない。だが、あれは命令あってのこと。決して本心でお前達を憎んでたわけじゃあない……おれ達だって、断腸の思いだったんだ。いやなに、当たり前だろう。おれ達は、あの日共に悪魔を倒すことを誓った仲間なんだからな……」
鉄格子に手をかけ愁いを帯びた表情で言うペザンを、RYU-Jinは薄い目で見た。
「……よっく言うぜ。あん時、ショウの話には耳も傾けなかったくせによ」
「仕方ないだろう! あの時は、お前達は国家反逆罪の指名手配犯だったんだから! だが、他の者はともかく、おれはずっと信じていたぞ。お前達が本当はそんな極悪人じゃないってことは……」
「ペザンさん、ここに来てからずっと、犯罪集団のショウ達なんかに関わらなければ良かったとか、ぼやいてませんでしたっけ」
「こらニシモ! お前、どっちの味方なんだ!」
「事実言っただけっす」
唱は少し考えた後、ペザンに尋ねた。
「ペザン、あの後、何があったのか教えてくれないか。あと、コモードさんがここにいないようだけど、行方を知っているなら教えてくれ」
ペザンの目がぱっと輝いた。
「教えたら、ここから出してくれるのか?」
「……お前なぁ、どこまで調子いいんだよ。ったく……」
怒り気味で食って掛かったRYU-Jinを、唱は静止した。
「ごめん、ペザン。悪いけど、おれ達はここの鍵を持ってるわけじゃない。出してあげたいけど、どうにもできないんだ」
その途端、ペザンは絶望の表情で嘆き始めた。
「なんだよぉ? じゃあ、なんだって来たんだよ! バカやろう、期待持たせやがってぇぇ! うわぁん、こんな恐ろしいとこで死にたくないよぉぉ!!」
「ペ、ペザンさん、みっともないっすよ……」
周りの仲間が引くほどにおいおいと泣き崩れるペザンを見て、唱達が困惑して顔を見合わせていると、ランテがすっと前に出た。
「鍵、開けられると思いますよ」
そう言うと、ランテはリボンのついた髪飾りを取った。栗色の髪が、するりと落ちて揺れる。
「――え? どういうことですか?」
その場にいた全員が、驚いてランテを見ると、ランテは髪飾りの金具の方を上にしてゆっくりと振った。
「これで、たいていの鍵は開けられるはずです」
「はぁ……?」
「鍵を無くした時にも家に入れるようにと父に教わったんです。生きるためには必要な知識だからと、しっかりしこまれました」
「いや、生きるためなのかな、それ?」
「どういう教育?」
「お父さん、まさか泥棒?」
全員の突っ込む声が響いたが、ランテは気にも留めず、ペザン達に向かってにっこりほほ笑んだ。
「但し、開けるには条件があります。必ず、ショウ様の言うことを聞くこと。それを約束してくださるなら、鍵を開けましょう。さぁ、皆さん、いかがですか?」
ペザンがぱっと泣き止んだ。
「もちろん、ショウのために何でもしよう! 元々仲間なんだからな、おれ達は! あっはっは」
「……ランテちゃん、やり手だな」
YAMAが感心したようにぽつりと言った。
ランテの交渉のおかげで、ペザンとその仲間達はぺらぺらとしゃべった。
「お前達が逃げた後、おれ達も何とかあの屋敷からの脱出に成功したんだが、そこに突然兵隊がやってきたんだ。おれ達と一緒にお前らを捕まえようとしていた兵とは全く別の部隊だ。問答無用でおれ達は捕まった。手引きをしたおっさんもな。何を言っても聞き入れてもらえず、家畜のように荷馬車に押し込まれてオルケスまで連れてこられたってわけさ」
「なるほどね。それで、真夜中に、この監獄塔に護送されてきたって聞いたけど……」
「実を言うと、捕まった時から目隠しされてたんで状況よくわかんなかったんですが、たぶん、オルケスに着いてすぐは警備塔の庭に拘束されてたんだと思いますね。で、突然、移動するって言われて、目隠ししたまんま歩かされて……」
「気が付いた時にはここに入れられてたって感じっす」
「じゃあ、お前ら、ここがどこなのかも知らなかったのか?」
YAMAが聞くと、ペザン達は不安そうな顔をして口々に言った。
「はい。何も説明なかったんで……」
「ってか、ここ、監獄塔なのかよ。最悪じゃん」
「どおりでガイコツなんか転がってるわけだよ……やだやだ、マジで怖い」
「早く! 一刻も早くこんなところから出してくれ!」
「待って、あともう少し。コモードさんも一緒だったはずだろ? 何か知らないか?」
唱の質問に、ペザンは首を傾げた。
「悪いけどわからん。さっきも言ったが、おれ達はずっと何も見えない状態で繋がれたままここに来たんだ。目隠しを外せたのは、この牢に入ってからだった。おれ達こそ、状況教えてもらいたいくらいだからな」
唱ががっかりしかけたところ、ニシモが言った。
「あ、でも、もしかして、途中でいなくなった人がその人かもしれないっす」
「えっ、本当に? どういうこと?」
「おれの後ろ、最初、確かに誰かいたんですよ。それが途中でいなくなってて、いつの間にかおれが最後尾になってたんで……」
「なるほど。ペザン組が全員そろってるなら、その一人はコモードさんってことになるな」
「ニシモ、どこでいなくなったかわかる?」
「そうっすね……ずうっと階段降りてたんすけど、途中で横に曲がって階段上ったんすよ。その辺りじゃないかと」
唱はランテやクリワ達と顔を見合わせた。
「横穴のところですね」
「おそらく、コモードさんだけ、そのまま階段を降りて行ったんだろう」
「マーニのところに連れていかれたのかもしれないですわね!」
「こりゃ、シフレー説がマジっぽいな……って、ランテちゃん、ごめん! 怒らないで!」
話している唱達を見て、ペザンがうずうずしたように言う。
「さぁ、もういいだろ? おれ達は知ってることを全部話した! 鍵を開けてくれ!」
「……あ、そうだったな。忘れてた。ランテちゃん、悪いけど、開けてやってくれる?」
YAMAに促されてランテが鍵を開け始めようとしたとき、唱はそれを止めた。
「ちょっと待って。もう一つ、ペザンとニシモには頼みがある」
声をかけられた二人はきょとんとする。
「なんすかね」
「……? 何か面倒なことじゃないだろうな……」
唱はうなずいた。
「うん。その面倒なこと。二人は、おれ達と一緒に来てくれない?」
「……はぁあ?」
ペザン達だけではなく、クリワ達も悲鳴のような声をあげた。
「おいおい、ショウ、本気か? ニシモはともかく、ペザンとか使える気しないぜ?」
「同感だ。正直、ペザンは足手まといでしかないと思うが……」
「おい、ショウ! キサマ、悪魔か? おれがこの場所、どれだけ嫌がってるのか、十分わかっただろうがぁ!」
「ペザンさん。すっげぇバカにされてるのはいいんすね」
反対意見ばかりだったが、唱は力強く言った。
「これから、どれだけ悪魔が出てくるのかもわからないんです。タイヨウさんとカッシーさんにはできるだけ負荷をかけたくない。この二人なら、必ず力になってくれるはずです」
唱の言葉に、反対していたRYU-JinとYAMAは渋々納得した様子だったが、肝心の本人はまだ嘆いていた。
「いやだよぉぉ。こんなとこ早く出て、おれは帰るんだぁあ!」
鉄格子にしがみついてわめき散らしているペザンを前にして、ランテが困ったように言った。
「あらあら、残念ですわね。ショウ様の言うことを聞いてくださらないのなら、鍵を開けることはできないですわね……」
その途端、牢の中から大勢の声が返ってきた。
「大丈夫! ペザンさん、絶対行かせますんで、鍵開けてください!」




