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螺旋

「ここに下に降りる階段があります。ちょっと凍ってるとこあるんで、気を付けて降りてください」


 モレドとピックが、床の一点をランタンで照らしている。


「なるほど。壁伝いに階段がくっついていて下まで行く構造になってるのか。結構、深そうだな」

「おっと、マジで階段凍ってるぜ。おい、カッシーこけんなよって、うおっと!」

「わぁ、ちょっと、リュウさん! いくらなんでもお約束過ぎるでしょって、わぁっ、滑るっ!」

「あはは。二人とも気を付けて!」


 クリワの四人は、手すりを握りしめながら、そろそろと階段を降りて行った。


「おーい、ショウ! 何やってんだよ。早く行こうぜ!」

「さぁ、ショウ様、行きましょう」


 シフレーと話していた唱に、階段の下り口にいるランテが声をかけた。


「はい! 今行きます」


 返事をしてから、再びシフレーに向き直る。


「ごめん。けっこう大変なこと頼んじゃったけど……」

「……驚いたな。お前は面白いことを考える。だが、理屈はわかった。やるだけやってみよう」


 そして、二人は握手した。


「色々ありがとう。本当に助かった」

「礼には早いぞ。無事に戻ってきてから頼む」


 唱は、シフレー達に手をあげて挨拶をすると、手すりを握って慎重に階段を降り始めた。







 監獄塔の地下は、まるで大きな筒のようだった。中央に丸くぽっかりと空洞があり、まるで壁から生えているような格好で階段がらせん状に連なっている。階段の傾斜は緩やかだったが、その幅は狭く、人がやっと一人すれ違えるほどしかない。


 そして、壁のところどころに、まるで洞穴のような横穴が開いている。その横穴は、ちょうど大人が一人入れるほどの大きさで、階段から直接入れるようになっていた。


「なんだよ、さっきからこの穴。気味悪ぃな」

「中、真っ暗だねぇ」

「タイヨウさん、覗き込んだら危ないですよ! 中から悪魔が出てくるかも」

「大丈夫だよ、カッシー。さっき、シフレー達がけっこう集めてくれちゃったのか、この辺は全然いないから」

「たぶん、この横穴から入ったところに牢獄があるんだろうな」

「げっ! ということは、火事で死んだやつの死体とか……」

「あはは。リュウったら本気でびびってる! 怖がりだなぁ」

「やめろよ、タイヨウ! ってか、逆になんでびびらねぇんだよ!」


 列の最後尾にいる唱は、そっとランタンをかざして、手すり越しに下を覗いた。底の方は真っ暗な闇で、何も見えない。


 一体、何階まであるんだろう。


 もし、地上の高さと同じくらいの深さがあるなら、三十メートルほど下に降りることになる。しかも、これだけ広いということは、それだけ部屋があるということだ。この中から、マーニがいる場所を探し当てなければならない。


 まずいな。手あたり次第探すなんて時間がかかり過ぎる。何か手がかりでもあれば……


 そんなことを思った時だった。


「い、今、どこかから唸るような声が聞こえませんでしたか?」


 突然、前方のカッシーが怯えたように辺りを見回しながら言った。


「げっ、カッシー。脅かすなよ」


 でかい図体でびくびくと周囲を見渡すRYU-Jinに対し、のんきそうな声が聞こえてきた。


「カッシーの言うことホントだね。おれにも聞こえた。なんか、助けを求めてるような感じに聞こえるよ」

「もしかして、マーニでしょうか?」


 ランテが興奮気味に声を出したが、先頭のYAMAが首を振る。


「いや、残念ながら違うな。男、それも複数だ」

「ペザン達か!」


 それを聞いた唱は、身を乗り出した。


「YAMAさん、ペザン達、どこにいるかわかりますか?」

「ああ……おそらく、あと五段ほど降りた横の穴の中だ」


 そう言って、YAMAはランタンをかざしながら、横穴の手前の階段を指さした。


「そこまでは、階段にほとんどほこりがない。大勢が歩いた証拠だ。ペザン達が、その中に進んだのは間違いないだろうな」


 RYU-Jinはつまらなそうに言った。


「まぁでも、あいつらに用はないわな。ほっといて先に行こうぜ。時間もないし」


「いえ、リュウさん。ペザン達のところに行きましょう。コモードさんは一緒かもしれないし、ひょっとしたらマーニに関する情報も何かわかるかもしれない」


 唱の話にYAMAもうなずいた。


「ショウの言うことももっともだ。コモードさんが一緒にいる可能性はあるからな」


 唱達は、横穴に入ることにした。


「あれっ。中も階段なんだね。今度は上ってるけど」

「しっかも天井低いな、ここ。おれの頭ギリギリだぜ」


 RYU-Jinのぼやく通り、酷く狭苦しい横穴の中は階段になっていた。すぐに牢屋があるわけではなく、石造りの壁がしばらく続き、上り切ったところで右側に通路が伸びていた。


 通路は、緩やかに湾曲しながら進んでいる。そして、その通路沿いに牢屋が並んでいた。


 歩きながらちらりと横を見ると、ランタンの光に照らされて、牢の中にいくつもの骸骨が転がっているのが見えて、唱はぞっとした。YAMAがぽつりと言う。


「塔がこの構造だと、焼け死んだっていうより、一酸化炭素中毒で死んだ奴がほとんどだったんだろうな」


 おそらく、脱走防止のため、あえて通路を狭くしているのだろう。仮に火事の時に牢が開けられたとしても、避難できるような状況ではなかったに違いない。


 前からTaiyoとRYU-Jinの声が聞こえてきた。


「だんだん声が大きくなってきたね」

「……こんなとこにいても、うざい話してんのは変わらなそうだな」


 聞き覚えのある声を道しるべに進んでいくとやがて通路は突き当り、右手側に広めの牢屋があった。


 ランタンをかざすと、鉄格子の中に、ペザンとその仲間たちが勢ぞろいしているのが見える。だが、そこにコモードの姿はなかった。


 唱に気づくなり、ペザンは鉄格子に飛びついた。


「お……お前……ショウ? ショウじゃないか! 助けにきてくれたんだな。お前達なら、きっとおれ達を助けに来てくれるって信じてたぞ。さすが、音楽騎士の鑑!」


 RYU-Jinが呆れ気味に言った。


「……は? お前、何言ってんの?」


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