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再び、オルケスへ

 高い城壁に囲まれた首都オルケス。

 だだっ広い平原にぽつんとあるそれは、遠くからみると、まるで石でできた一つの険しい山のように見える。


 そういえば、初めてここに来た時は、期待半分、不安半分で眺めたっけ。


 オルケスから少し離れた位置にある森に身をひそめながら遠くを見やった唱は、ふと、音楽騎士になるためにここへやって来た日のことを思い出していた。


 あの時は、コモードさんも優しくて、ランテさんもマーニも楽しそうで、色々あったけど、楽しい旅だったよな……


 今の状況と比べると胸が苦しくなるが、唱は、再びオルケス、そしてコンセール城に入らなくてはならなかった。


 かつて生活していたオルケスがおどろおどろしい魔窟のように、今の唱には見えた。


「しっかし、またあの隠し門から入るのはいいとしてよ、今度は門番ついてんじゃねぇかな?」


 唱と並んでオルケスを眺めていたRYU-Jinがいぶかし気に言うと、ランテがにっこりとした。


「ご安心ください。もしいても、私が弓矢を放ちますわ。一声も出させません」

「ランテちゃん、怖い」


 YAMAが申し訳なさそうな顔をする。


「すまないな。散々悩んだ末に出た作戦が、夜にこっそり忍び込むしかなくて……全員お尋ね者の今、妙案が思いつかなかった」

「問題はその後ですよね。城に入る時、門番や兵隊ともめる可能性が高そうです」

「カッシーの言う通りだな。戦いになったら、入れる者だけが入る、ということになると思う。その後は、囚人の牢がある第三塔までまっしぐらだ」


 YAMAは城の地図の一点を指さした。この地図はもちろん、ランテがコモードとの文通時にもらったものである。


「わかりました。戦いは私に任せて、皆さんはお進みください。矢はたっぷりあります。兵隊の十人や二十人、何てことありませんわ」

「ランテちゃん、本当に怖い」

「ここまでほとんど休みなしでしたから、夜までの間、この森の中で少し休憩しましょう」


 唱達がここに到着したのは午後三時頃だった。夜中まではまだ時間がある。長旅の疲れを少しでも癒す必要があった。

 お湯を沸かして茶を飲んでいると、突然、遠くの方に人の気配がした。


「やばい! お前ら、隠れろ!」


 RYU-Jinがそう言って、棍棒を構えた時だった。


「ショウか? 良かった。オルケスに入る前に見つかって」

「あ……シフレー?」


 シフレーとその仲間が数人、ランタンを掲げてこちらを見ていた。


「どうしてここに……?」


 唱が驚くと、シフレーがうなずいた。


「うむ。昨日の報道を聞けば、必ずお前達はオルケスに戻ってくるだろうと思っていた。だから、周辺を仲間達と手分けして見回っていたのさ」

「昨日の報道って? もしかして、アイザッツさんのこと?」

「いや、それもあるが、セレナドでペザン組と男性が捕まり、オルケスまで移送されてきたことだ」


 唱はぎょっとした。


「ペザン組と男性? もしかして、コモードさんが……?」

「ああ、そうだ。確か、以前、そこのお嬢さんに私が手渡した手紙の送り主だったと思ったが」


 愕然として、唱は言葉を失った。コモードが捕らえられたということは、国家反逆罪でということだろう。うかうかしていると、死刑になってしまうかもしれない。


 ショックのあまり唱が黙り込んでいると、シフレーが続けた。


「それと、さっき、妙な噂を耳にした。どうも、そのコモード氏とペザンは、今使われている第三塔の牢ではなく、監獄塔の方に収監されたらしいというんだ」


「かんごくとう……?」


 困惑していると、YAMAとTaiyoが横から言った。


「ショウ、思い出さないか。あの処刑があった日に……」

「あのおっきな鐘があるところだよ!」


「……! ああ、思い出しました。昔、火事があって今は使われてないっていう……え? だったら、なんで?」


「まぁ、この話は聞いた本人に聞くのがいいだろう。おい、モレド」


 すると、見知った顔が前に出てくる。


「これは、おれが城の厨房勤めの女性に聞いた話なんですが、どうも、昨日の深夜に監獄塔の方に護送されていくのを見た使用人がいたらしいんです。真夜中に囚人が護送されることなんか普通ないので、密かに噂になっているとかで」


「ちょい待ち。疑ってるわけじゃねぇんだけどよ、又聞きもいいとこじゃねぇか。それになんで、お前が城で働いてる人からそんな話聞けんだよ」


 不思議そうにRYU-Jinが言うと、モレドは急にもじもじとし始めた。


「いやあの……その、厨房勤めの女性ってのは、その、おれの彼女でして……」

「昼食の時に聞いたんだそうだ」


「あっそう」


 唱は皆を見回した。


「どう思います? なぜコモードさん達が監獄塔に……」

「通常の囚人とは扱いが違う、と言うことは……何か臭うよな」


 唱はうなずいた。


「十中八九、魔王絡みだと思います。それが正解なら、きっとマーニもそこに……」


 唱の言葉を聞いたシフレーが言った。


「ん? あの歌呼のお嬢ちゃんのことだな。そういえば、姿が見えないが……」


 怪訝そうなシフレーに、唱はマーニが悪魔にさらわれたことを説明した。


「なるほど。それでお前達はオルケスに戻ってきたというわけだったのか。さぞかし心配なことだろう」


 そう言うと、シフレーはランテに軽く首を垂れる。


「私もあの後、魔王について調べていてな……以前、話したことは覚えているか?」


「うん。争いばかりの人間に怒った神様が、自分の右腕をちぎって魔王にしたんだよね。それから、魔王が空を今みたいに闇で覆って悪魔が出て……最終的に、音楽騎士の中の救世主が闇をはらったんでしょ?」


「そうだ。そして魔王は救世主によって壺の中に封印されたんだ。それが、オリージ国の古代神殿にあった」


「え、封印? じゃあ、今、魔王はいないってこと?」


「話を最後まで聞け。その古代神殿は、コンセール王国が侵略してきた時に破壊されたのさ。もちろん、壺もろともな……この意味がわかるな」


「……魔王が解き放たれた……」


 唱が言うと、シフレーがうなずく。


「つまり、今起こっていることは、原典に書かれていることの再来というわけだ」


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