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真実の手紙

『これを読んだら、町を出ていくふりをしてください。


 これから、音楽騎士や兵隊が、ショウさん達を捕まえに来ます。

 どうしても、ショウさんを彼らに引き渡さなくてはならない。


 ショウさんを、国外に逃がそうとしていたのがばれてしまったのです。


 それを知った彼らは、あたしを国家反逆罪の大罪人として捕まえに来ました。

 家族も一緒に捕まえると言って。


 彼らはあたしに取引を持ちかけました。

 ショウさんを引き渡せば、あたしも、家族も、見逃してやると。


 あたしには、何の罪もない妻と娘を巻き添えにすることは、どうしてもできないのです。

 ですが、ショウさんをみすみす彼らに引き渡すことだって、同じようにできない。


 だからお願いです。ショウさん達を助けてあげてください。

 午前0時に中央広場です。機はこの時一度しかありません。


 他の音楽騎士や兵隊には見つからないように、気を付けて。


 ごめんなさい。謝っても、謝り切れません。』





 以前、シフレーから受け取った手紙とは違い、走り書きで書かれた手紙。

 紙に大きく描かれた地図の横に、ごく小さい字で書かれていた。


 あの短い時間のどこかで、必死に用意したのだろう。


 唱の脳裏に、コモードの元を訪れた時、最初に抱いた違和感が蘇った。


 ドアが開いた瞬間に見たコモードの表情は、明らかに、凍り付いていたのだ。

 まるで、唱が訪れてはいけなかったかのように。


 その違和感は、コモードが笑顔を見せたことによって消え失せたが、今ならあの凍り付いた表情の意味がわかる。


 きっと、おれが来ないように祈ってたんだろうな……


 しかし、祈りむなしく、唱は仲間を連れて訪れてしまった。


 そして、コモードは命がけの一芝居を打つ覚悟を決めたのだろう。


 コモードは、自分の家族も、唱も、同時に救おうとしたのだ。


「こんなつらい思いを、コモードさんにさせていたなんて……」


 悔しさと申し訳なさが、言葉となって口に出た。

 マーニが、ふるふると首を振りながら言う。


「ごめんなさい……あたし……おじちゃんの様子おかしいなって思ってたのに、気づいてたのに……でも、もしあたしの勘違いだったらって思って、おじちゃんに悪くて言えなくて……あたしが、あたしがみんなに言ってたら……」


 マーニは肩を震わせた。大きな目に、涙がいっぱいに浮かび上がる。


 唱はしゃがみこむと、マーニの方に両手を置いて、ゆっくりと首を振った。


「それは違うよ。もしマーニが指摘してたら、おれ達は逃げて、コモードさんは間違いなく捕まってしまったと思う。仮に、コモードさんに協力して、おれ達がペザン組に捕まるふりをしてから逃げようとしても、どうしても不自然さが出てたと思う」


 マーニは顔を上げ、救いを求めるように唱を見つめている。


「もし、わざとやってることがバレたら、コモードさんは二回も国家を裏切ったということになって、捕まるどころの話じゃなかったかもしれない。おれ達が、自力で逃げ出すだけだったら、それはペザンの失敗だ。コモードさんは、おれ達が絶対逃げ出せるって信じてたんだ。だから、マーニが黙っててくれて、よかったんだよ」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、マーニはうなずく。ランテがそっとマーニの側に寄り添った。


「ショウ様、ありがとうございます。あとは、リュウさんとヤマさんが無事であれば良いのですが……」


 マーニの頭をなでながら、ランテが言う。


「カッシーさんから聞きましたが、ランテさんが、皆さんの馬を連れて来てくれたそうですね」


「ええ……私が着いた頃にはすでに皆さんは兵隊さん達に囲まれていましたが、何とかタイヨウさんとカッシーさんに逃げてもらうことができました。私もリュウさんとヤマさんと一緒に戦っていたのですが、気が付いたらはぐれてしまって……それで、ひとまずタイヨウさんとカッシーさんの後を追ったんです」


「それで、タイヨウさんと一緒にここに来られたんですね」

「はい。カッシーさんを見失ってしまったとタイヨウさんに聞いたので心配してたんです。ご無事で本当に良かったです」


 唱は改めてランテに礼を言うと、励ますように笑顔を作った。


「大丈夫。リュウさんとヤマさんなら、きっと何とか切り抜けられますよ」


 すっと不安そうな表情を浮かべていたランテだったが、唱につられるように微笑んだ。


「……そうですね。あのお二人なら、きっと大丈夫ですわね……そうしたら、私、馬を屋敷の中に入れますね。もし、兵隊さん達が馬を見つけたら大変なので……さ、マーニ、一緒に手伝って」


「あ、ランテさん。馬を移動するなら、ちょっと考えがありまして……」


 唱は作戦のことをランテにも話した。


「さすがですね、ショウ様! では、その通りにいたしますわね」


 ランテとマーニがカルを連れて屋敷の外に出ていくと、唱はTaiyoとKassyがいる左側の部屋に向かった。

 奥の方から、二人の掛け合いが聞こえてくる。


 ああ、クリワの歌だ。


 Taiyoの迫力あるボーカルと、Kassyの小気味よいラップ。二人の声が、絶妙のタイミングで重なり、混ざり合い、一つの曲になる。


 今まで間近にいたのに、考えてみたら、目の前の悪魔を倒すことに必死で、ちゃんと聴いてはいなかったことに気づく。


 初めてクリワの曲を聴いた時のことを、唱は思い出していた。

 学校で嫌なことが続いて落ち込んでいた時だった。たまたま入った店のBGMでかかっていて、なんてカッコいい曲なんだろうと衝撃を受けた。すぐに動画サイトでミュージックビデオを検索した。曲も買って、気分のいい時、落ち込んだ時、浸りたい時、テンション上げたい時、色んなシーンで聴いたものだった。


 いつの間にか、唱は歌に合わせて体を揺らせていた。

 こんな緊迫した状況だというのに、楽し気に体でリズムを取っている自分に気づいた唱は、少し笑った。


 音楽の力って、すごいんだな。ただ音を聴いているだけなのに、人の気持ち――心でさえも、変えることができる。


 なんだかふと、そんなことを思った。


「めっちゃカッコいいっすね」


 拍手をしながら言うと、Taiyoが振り返った。


「ああ、ショウ! いい加減疲れてきたよー。ちょっと悪魔減らしてくれない?」

「いや、今おれが歌ったら全滅させちゃいますって」

「あ、そっかー! ああ、早くリュウとヤマ来ないかなぁ」


 Taiyoがぼやいた時、外がにわかに騒がしくなった。


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