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悪魔の棲む屋敷

 玄関から建物の中に入るとすぐ、大きな広間が広がっていた。天井も高く、吹き抜けになっているようだ。ランタンをかざすと、正面に大きな階段があるのが見える。


「いかにもお屋敷っぽい感じだな」


 独り言が不気味に反響した。

 背筋がヒヤッとするが、時折聞こえるカルの鼻息に勇気づけられ、ゆっくりと建物の中を移動する。


 外から見たこの建物は、左右対称のデザインになっているように見えたが、中もおそらく同じように左右で同じ構造になっていると思われた。ひとまず、向かって左側に足を進める。


 すると、カルの鼻息が急に荒くなった。

 さっとランタンをかざすと、カルのお尻がすでに無くなっている。


 唱は歌った。歌声が部屋に響き渡る。すると、部屋のあちこちから悪魔の悲鳴が上がった。


 うわっ。こりゃすごいわ。


 あまりの嬌声に、思わず唱は耳をふさいだ。


 やがて部屋の中がキラキラと光の粒に満たされ、やがて割れた窓ガラスから煙のように立ち上がっていった。


「やべ。悪魔けっこう一網打尽にしちゃったかな」


 苦笑いを浮かべた唱に、カルが顔を優しく擦り付ける。助けてくれたお礼のつもりだろうか。


「よしよし、もう大丈夫だ」


 唱もカルの鼻面をなでた。


 ガタッ。


 突然、背後から音がして、唱はぎょっとして振り返った。


「……ショウ君、ですか?」


 ランタンの明かりをかざした中に見えたのは、玄関の隙間から覗き込んでいるKassyの姿だった。


「カッシーさん! おれです、ショウです!」


 唱が答えると、Kassyはボールが弾むように走ってきた。


「無事で良かった! 今、窓から光の粒が上っていくのが見えたので、勇気出して中を覗いてみたんです。ショウ君、よくこんな不気味なところ、一人で入れましたね!」


 Kassyの早口が、なんだかとても懐かしくて心地いい。さっきまで張り詰めていた緊張が一気に解けた。


「カッシーさんも無事で良かったです。一人ですか?」

「はい。僕はタイヨウさんと一緒に逃げて来たんですけど、いつの間にかはぐれてしまって……」

「そうだったんですね……でも、よくあの状況で逃げられましたね」


 興奮気味にKassyは話し出した。


「本当に、あの時はもうダメかと思いましたよ。あの後、ヤマさんも追いついたんですけど、すぐに全員兵隊に囲まれてしまって……そしたら、絶体絶命の時に、ランテさんが馬を連れて来てくれて! それで、僕とタイヨウさんは先に逃げてショウ君と合流するように言われたんです」


「そうでしたか……やっぱり、ランテさんだったんですね。さすがですね」

「すごかったですよ。兵隊に矢をどんどん射ってましたから」

「ははは……それなら、きっとヤマさんもリュウさんも大丈夫ですね。信じて、ここで待ちましょう」


 二人でうなずき合うと、不安をかき消すように、唱は話し出した。


「カッシーさん。やっぱりこの屋敷、悪魔だらけです。今、この部屋の悪魔はあらかたやっつけちゃいましたが、たぶん、他の部屋にもたくさんいると思います」


 Kassyが難しい顔をした。


「まさに前門の虎、後門の狼ですね。どうしましょう。二人でとにかくやっつけてしまいましょうか?」

「いえ、実はおれに考えがあるんですが……」


 唱の話を聞いたKassyは大きくうなずいた。


「なるほど。それならペザン組や兵隊が攻めてきても対抗できますね。早速準備を始めましょうか。……ただ、その作戦には、できればタイヨウさんも欲しいとこですね」

「そうなんですよね……なので、しばらくカッシーさんには二人分頑張っていただくことになるかと思いますが」

「わかりました。僕のラップパワー、見せてやりますよ」


 二人でハイタッチをすると、唱はカルの首をなでながら言った。


「カル。ちょっとおれ達はこの部屋を離れるけど、ここにいて、みんなが来るのを待っててくれるかい? 大丈夫。この部屋に悪魔はもういないから」


 カルは、返事をするように鼻息をぶるぶるとした。


 そうして、唱はKassyと共に、追手を迎撃する作戦の準備を始めた。


 十五分ほど経った頃、屋敷に次の帰還者が現れた。


「カル! 良かった!」


 広間の方から聞こえてきた声に、唱は思わず振り返った。

 Kassyがラップを続けながら、唱に目くばせする。Kassyにぺこりと頭を下げると、唱は広間に走った。


「ランテさん!」


 唱は広間に飛び込むと、カルをなでているランテと側にいるマーニ、そしてTaiyoの姿を見止めた。


「ショウ、良かった! 無事だったんだね」


 目が合うなり、Taiyoがにこにこの笑顔で唱に抱き着いてきた。


「タイヨウさんも! 本当に良かったです」


 そして、唱はすぐにTaiyoに作戦のことを説明した。


「なるほど、オッケー! じゃあ、おれ、カッシーのとこ行ってくるね」


 スキップで左側の部屋に向かうTaiyoを見送ると、唱はランテとマーニに向かい合った。


「ありがとうございます、ランテさん。カルを差し向けてくれたのは、ランテさんだったんですよね。本当に、間一髪のところで助かりました……」


 ランテは、涙をぽろぽろとこぼしながら言った。


「ショウ様……本当に、ご無事で良かったです……私は何も……カルが、頑張ってくれました」


 唱はうなずいた。


「マーニ、大丈夫だったか。また心配かけちゃったよな。ごめんな」


 小さい子が母親の陰に隠れるように、ランテの後ろにひっついているマーニに唱は声をかける。

 また、マーニがぶんぶんと頭を振った。


「違うの。ショウ様、ごめんなさい。こんなことなら、もっと早く、みんなに言えば良かったって……」


 言いながら、マーニは唱に歩み寄ると、封筒を手渡した。


「あれ? これってコモードさんがくれた地図なんじゃ……」


 二人がうなずくので、唱は封筒から紙を取り出した。


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