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ある噂

 ふんわりと、甘いイチゴの香りが漂っている。

 コモードはことりと音を立てて、お茶の入ったコップを机の上に置いた。


「なるほど。でも、それを裏切りとまで言い切るのは、少し強引でしょうなぁ」

「そうですよね。そもそも、おれがペルデンさんの本当の力に気づいたことを、国がどうやって知ったのかっていう疑問がありますし……本当に、何を誤解されているのか……」


 唱はそう言うと、湯気の立つお茶を一口すすった。


 食事をしながら、唱達はコモードに事のいきさつを説明していた。食事のお供はもちろん、城までの旅路でコモードが飲ませてくれた、あのお茶だ。甘い香りが、張り詰めていた気持ちを落ち着かせてくれる。


 ううん、とコモードも腕を組んで唸った。


「すみませんが、もう一度、命令書の写しを見せていただけませんかね」


 YAMAが、コモードの前に手帳を開いて見せた。いつの間にか、YAMAはシフレーが持ってきた命令書を書き写していたのだった。

 じっと命令書の文面をにらんでいたコモードだったが、ためらいがちに口を開いた。


「気になるのはね、“裏切り”とか“騙し”たとは言うけれど、その内容が明らかにされていないということなんですよ。どんな手配書でも、例えば“誰を殺した殺人”であるとか、“何を奪った強盗”であるとか、犯した罪の内容が具体的に書かれるものなんです。それが、この命令書は“国王の命に背き、王国に仇なす裏切り”と、実に抽象的な書き方です。まるで、“裏切り行為の内容”自体がわからないかのように、ね」


「やっぱりそう思いますか。おれ達もおかしいと思ってて――」


 YAMAもうなずき、Kassyも不思議そうに言う。


「こんな書き方じゃ、誰にでも言えちゃいそうですよね。それこそ、僕達にだって当てはまりそうな……」


 すると、YAMAが目を見開いた。


「そうか……いや、まさか……でも、そうとしか……」

「えっ、何かわかったんですか?」


 唱が聞くと、YAMAは神妙な顔つきで言った。


「ショウ、酷い話だが、ショックを受けずに聞いてくれ。この“裏切り”による国家反逆罪というのはでっち上げだ。おそらく、お前を殺したいという理由だけで、お前は手配されているんだと思う」


 座がしんと静まり返った。


「は? なぜ? おれを殺したい?」


 意味がわからず、唱は聞き返した。RYU-Jinやランテも続ける。


「おいおい、待ってくれよ。ショウを殺すのが目的で、口実は正直何でもいい、ってことか? ふざけんなよ、不良の言いがかりじゃあるまいし、そんなの納得できるかよ」

「そんな恐ろしいこと……国王様が出した命令で、そんなことがあり得るのでしょうか。それに、どうして善良なショウ様が?」


 不安そうにランテが言うと、YAMAは渋い顔で続ける。


「それは、もう一つの疑問の答えにもなる。不思議だったのは、国家反逆罪と書かれているのに、ランテさんとマーニちゃんが一緒に手配されていないことだ」

「そういえば、確かに……」


「国に対して不利益な言動を取り締まるための罪状だから、近しい存在も一緒に葬ることでその根を絶やそうという目的がある。だが、今回はショウしか手配されていない。つまり、目的がそこにないということだ。おそらく、国王にとってショウの存在が邪魔になった。そういうことだろう」


「いやいや、疑問だらけだよ! なんでショウの存在が邪魔になんだよ。むしろコイツ、悪魔退治のキーパーソンなくらいなんだぜ?」


 YAMAとRYU-Jinの会話を聞いたTaiyoが、ぽんと手を打った。


「あ、そっか! だから“声を出せないような処置”が必要だったんだ」

「? タイヨウ、なんだそれ?」


「命令書にさ、『捕獲した場合は、速やかに声を出せないよう処置を施した後、城に引き渡すこと』って書いてあるでしょ。つまり、ショウに歌わせたくないってことだよね?」


「これでハッキリしたな。国王は、ショウに悪魔を倒されるのを阻止したいんだ」

「おいおい、つまりあれか? 討伐隊でもないのに悪魔倒されちゃ都合悪いってことか? 金取れねぇから? まっじで腐ってんなぁ、この国!」


 じっと話を聞いていたコモードがうなずき、

「そうか……そう考えると納得だな……」

と、ぽつりとつぶやいた。


「どういうことですか?」


 身を乗り出したYAMAに、コモードは思案顔で言った。


「いやね、今、皆さんがおっしゃったように、悪魔を利用して金儲けや侵略をたくらむ方が、国王様らしいんですよ。こんな風に悪魔騒動が起きる前までは、侵略戦争ばっかりしていましたからね」


「ああ、けっこう悪逆非道なこともやってたとか」


「おっしゃる通りです。それなのに、悪魔が出るようになった途端、急に悪魔討伐軍を編成し始めて、周辺諸国に悪魔退治に行かせてるんですよ。やってることは、今までと真逆です。あまりの変わりように、『国王も年老いて殺した人間の夢にうなされるようになったんじゃないか』とまで町民に噂されてたほどです」


 YAMAがうんうんと首を振る。


「読めてきたぞ……この悪魔騒ぎは国王の自作自演なんだ。おそらく、国王は魔王と結託して、世界に悪魔をはびこらせた。そして、討伐隊と光の巫女伝説を利用して、周辺諸国と有利に外交を進めているんだろう。だから、ショウの力が邪魔なんだ」


 ランテが顔を恐怖に引きつらせる。


「なんてひどいことを……まさか、この国が……」

「しかし、侵略戦争を続けるのも十分にひどい。悪魔を利用したこの方法の方が、圧倒的に被害が少なくて済む。皮肉なことにな」


 ヤマが言うと、コモードが聞き直す。


「先ほど、ヤマさんは魔王とおっしゃいましたかな?」

「はい……あ、コモードさんは知らないですよね。実はダカポ教の原典が存在していてその中に……」


 説明しようとするヤマを、コモードが愛想よく遮った。


「原典ですよね。知っておりますよ。まだオリージ国があった頃には、何度か仕事で訪れたこともありますんでね」


 そしてコモードはお茶を一口飲むと、ふうと大きく息を吐いた。


「――国王様一人しかいないはずの部屋で、国王様が誰かと話をしていることがあるらしい。下級の城勤めの者達の間でね、ここ最近、そういう噂があるんです」


 全員、あっ、という顔をする。


「もし、その話し相手が魔王というのなら、ヤマさんのおっしゃったことの辻褄が合いますな」


 そう言うと、コモードは立ち上がって、暖炉の上に置いてあった紙とペンを取った。


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