誤解
「くそっ、ショウ、いい加減にしろよ」
「お前、やっぱりクロなんだな? ちくしょう、信じてたのに……」
唱を襲った二人組を拘束した後、今度はKassyを襲った二人を木に縛り付けていた。二人は、悔しそうに叫んでいる。
「何を言ってるんだ? そんな言葉におれが騙されると思ったら、大間違いだぞ」
気の毒な二人を冷たい目で見下ろしながら、唱は淡々と言った。
そんな唱の姿にとまどいながら、Kassyも言い返す。
「……そ、そうですよ! そっちから飛びかかってきたじゃないですか!」
シフレー組の二人は、驚いたように顔を見合わす。
「なっ……違うだろ。そっちが先に仕掛けてきたんじゃねぇか! 突然、矢なんか射ってきやがって」
「トランクはどこだよ! あいつに何しやがった!」
「トランク? ああ、最初のやつな。おれがやってやったぜ」
いつの間にか、唱の後ろにRYU-Jinが立っていた。
「あ、リュウさん。勝ったんですか?」
「おうよ。ドラマーの腕力なめてんじゃねぇって話だ。そのトランクってやつと一緒に、あっちの木に縛り付けといたぜ……さぁ、次の犠牲者はこいつらか?」
RYU-Jinの顔は鬼のようだ。シフレー組の二人は縮みあがった。
「先輩! 自分が何したかわかってんすか!」
「厳罰になりますよ!」
「あぁ? 何が厳罰だ。フェイクニュース無条件に信じて無実の人間を捕まえようなんてバカどもに、んなこと言われる筋合いないわクソボケがぁ!」
今にも二人を殴り倒しそうなRYU-Jinに、唱は冷静に言った。
「待ってください、リュウさん。彼らはもう拘束してます。痛めつけるぐらいなら、情報を聞き出した方がいいと思います」
「情報? あ、なんでお前が手配されてるのかってことか」
「はい。どうしてこんなことになってるのか、正直おれにもよくわかってません。命令を受けてここに来てるんだから、彼らは知ってるでしょう」
RYU-Jinはにやりと笑った。
「なるほど。じゃあ、たっぷりと聞かせてもらおうじゃねぇか。あ、言っとくけど、嘘ついたり黙秘すんのはオススメしないぜ。体に聞いちゃうからな」
木刀をぽんぽんと叩きながら言うRYU-Jinを見て、シフレー組の男たちは悲鳴をあげた。
「ひぃぃぃぃ」
「た、助けてぇぇ!」
「言うから! 言うから、乱暴はやめてぇ!」
「よし、じゃあ聞くが、お前らも国から命令受けてショウを捕まえに来たんだろ? 一体、ショウが何したって言われて捕まえに来たんだ?」
一人が、おずおずと答える。
「ああ、国から命令があったのは間違いない。だが、違うんだ。おれ達は、ショウを捕まえに来たって言うか――」
すると、いつの間にか目が覚めたのか、RYU-Jinが最初に倒したトランクが向こうから叫んだ。
「くそっ。おれ達がバカだったよ! だからおれはシフレーさんに言ったんだ。問答無用で、見つけたらとりあえず捕まえちまえばいいんだってさ!」
唱もRYU-JinもKassyもぽかんとする。
「ん? どういうこと? 最初はおれを捕まえようと思ってたわけじゃないって、言いたいの?」
唱がそう言った時、背後からYAMAの声が聞こえた。
「もしかすると、おれ達が早まったかもしれないな」
振り返ると、YAMAが神妙な顔つきをしていた。
「え? 早まったって……?」
「でも、彼らから向かってきましたよ」
唱とKassyがいぶかし気に問うと、YAMAは首を振った。
「いや、そもそも攻撃をしかけたのはおれ達の方だ。トランク君はまだ何もしてないのにリュウが背後から襲ったし、もっと言えば、タイヨウが誰かをいきなり矢で射った。宣戦布告と取られても仕方ない」
唱達は、無言で顔を見合わせた。シフレー組の男が叫ぶように言う。
「やっと気づいたのかよ! だからさっきからそう言ってるだろ? 話聞けって!」
YAMAが彼らに問う。
「つまり、お前達は、ショウを捕まえるために探していたのではなく、話をするために探していた、ってことでいいのかな?」
拘束されているシフレー組の面々は、ぶんぶんと首を縦に振った。
「あら……」
唱達は、円陣を組んでコソコソと相談を始める。
「やべぇな、どうする? 結構、ボコボコにしちまったけど」
「仕方ないな。ここは正当防衛を主張するしかない。ショウには実例があるし、襲われると思った、で押し通そう」
「……嘘じゃないですしね。あ、タイヨウさんの矢はどうします?」
「これが厄介だな。正直に言うしかないだろう。練習の矢がたまたま当たっただけだって」
「それしかないですね。誠実に行きましょう」
コホンと咳払いをして、唱達がシフレー組に弁解を始めようとした時だった。
「ショウ、動くな。抵抗すれば、矢を放つ」
背後から、張りのある声が聞こえた。
恐る恐る後ろを見ると、十人ほどの仲間と共にシフレーがいた。皆、弓矢を構えている。
「こんな形で会うことになるとは思わなかったよ、ショウ」
シフレー達の様子で何かを悟ったRYU-Jinが悔しそうに言った。
「ちきしょう、遅かったか……! ここはもう全面戦争しか」
「リュウさん! ダメそれ絶対! ちょ、ちょっと待って、シフレー。今から説明しようと思うんだけど、これには深い理由があって……」
「そうだろうな。私はそれを聞きにお前のところへ来た。それがまぁ、随分とうちの組の者をやってくれたじゃないか。これからゆっくりと話を聞くよ。まずは、全員武器を捨てて手を上げろ」
唱達四人は言われた通りに、武器を捨てて両手を上げた。
「おっと。木の陰のお嬢さん、止めた方がいい。その矢一本じゃ、私をやるのがせいぜいだろう。その間に、この四人がどうなるか、わかるかい? あんたも先輩も、弓矢捨てて、前に出てきて」
おずおずと、ランテとTaiyoとマーニが、両手を上げながら木の陰から出てきた。
「ショウ様、お力になれず、すみません……」
「あーあ、見つからないと思ったんだけどなぁ」
「もう! タイヨウさん、大声出したりしたから!」
唱達は、全員一か所に集められ、手を上げた姿勢のまま、その場に座るよう指示された。弓矢を構えたシフレー組の面々が、唱達を取り囲む。
唱を見下ろしながらシフレーが言った。
「さぁ、ショウ。国を欺いた理由を聞かせてくれるか?」




