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かくて戦いは起これり

 パキ、パキ、と乾いた音が聞こえる。


 人間が靴で小枝を踏む音だ。そして、その人物は、見つからないように恐る恐る歩いていることが、足音の速度でよくわかる。


 間違いなく、おれを追ってきたんだな。


 唱は、倒木の隙間からこっそりと様子をうかがう。他の皆も、息を殺して見守っている。


 近寄ってきた人物は、足元を小さな明かりで照らしているようだ。ぼぉっとした光の中に、人影がうろうろとしているのが見える。


 RYU-Jinが、ちらりと唱を見てうなずいた。


 ん? リュウさん、何をするつもりだ?


 うなずかれても、意図がよくわからない。無言のまま、どう問い直せば良いのかわからずあたふたしていると、RYU-Jinはニヤッと笑って、突然立ち上がった。


 驚く間もなく、RYU-Jinは素早く人影の背後に回り込み、木刀を振り下ろした。

 鈍い音がして、地面にどさっと人が倒れこむ音がした。


「やったぜ。これぞ練習の成果」


 RYU-Jinの小さな声が聞こえた。


「リュウ! 早く、そいつを連れてこっちに戻れ!」


 YAMAも小声で返す。


 倒れた人物をRYU-Jinが担いでこちらに戻ってきた、のと時をほとんど置かずして、また人の気配がした。今度は会話も聞こえる。


「おい、トランクはどこ行った」

「おかしいな。この辺に向かったと思うんだが」


 YAMAが目を丸くして全員を見回した。


 唱たちは、トランクという名前に聞き覚えがあった。シフレー組にいた音楽騎士の青年の名前だったからだ。


 ということは、ペザン組に続いて、シフレー組までおれを捕まえに来たってことか。くそっ……


 唱の背中に、冷や汗が流れる。


「ん? これ、トランクの帽子じゃないか」

「本当だ。なんでこんなとこに帽子だけ……」


 まずい。ばれた。


 唱とクリワは顔を見合わせた。


「おい、みんな気を付けろ! この辺にショウ達がいるぞ」


 シフレー組のやつらが叫ぶのと、RYU-Jin、YAMAが飛び出していったのはほぼ同時だった。すぐさま、「うわぁ」という悲鳴が上がる。


「自信ないけど」

と小さく言って、Kassyが続く。唱も、細い木刀を握りしめて後に続いた。


「ショウ様! ショウ様は行っちゃダメ!」


 背後にマーニの声が聞こえた気がしたが、唱は無我夢中だった。


 RYU-JinとYAMAは、すでにシフレー組の二人とやり合っていた。よく見ると相手は剣を抜いている。RYU-Jinは攻撃を出されないよう無茶苦茶なスピードで木刀を打ち付けており、相手はそれをかろうじて剣で防いでいる。


「せ、先輩! 何を……!」

「うっせぇ! ショウがお前ら助けたの忘れたってのか、この恩知らずが! しかもご立派に剣なんか持ちやがって上等じゃねぇかこのヤロウ!」


 そう叫びながら木刀を振り下ろすRYU-Jinの顔は、怒りに満ち満ちている。


 YAMAの方も、木刀でもう一人の男と戦っていたが、男はすでに一刀を受けているようで、頭から血を流していた。おそらく、さっきの悲鳴はこの男のものだったのだろう。


 唱とKassyは助太刀をしようと様子をうかがっていたが、背後から声が聞こえて振り向いた。


「ショウ、お前、こんなとこに隠れていやがったのか!」

「お前、なんてことを……とにかく、いっぺん大人しくおれ達に捕まれ!」


「うわぁ!」


 二人がかりで飛びかかられ、唱は仰向けに倒れた。逃げようとするが、足をしっかり捕まれている。


「くそぉ! 離せ!」


 体を起こすと、手に持っていた細い木刀で二人を殴った。


「君達、やめなさい! ショウ君から手を離せ!」


 Kassyも加わって、唱の足を抑えている二人を滅多打ちにする。


「いてっ。いていていてて! やめろコノヤロウ」

「ばかやろー! そっちこそ手を離せよ!」


 必死にもがいていたが、さらなる絶望が唱を襲う。


「こっちだ! 声がした!」

「いたぞ! ショウだ!」


 また二人、男達がやってきて、

「先輩、すみません!」

と、叫ぶなり、Kassyに向かって飛びかかってきた。


「わぁっ。離して!」


 Kassyも、二人がかりで取り押さえられた。攻撃が一人分減ったので、唱の足元の一人が体を起こして唱の右手首を強くつかんだ。唱は悲鳴を上げた。あまりの痛さに耐えられず、握っていた木刀を落とす。


 くそ……これまでか……


 唱が諦めそうになったその時、「ぎゃっ」と目の前の男が叫び、唱の手を離した。見ると、男の手に枝が刺さっている。


「わぁ! 当たったよ!」

「タイヨウさん! 静かに! 居場所がばれてしまいますよ」


 木の陰から、Taiyoとランテの声がした。


 すぐさま、ひゅんひゅんと空気を切り裂く音がして、そのたびに悲鳴が上がる。シフレー組の男たちの腕や足や尻に枝――もとい、矢が刺さっていく。


 Kassyを捕まえていた男たちの腕にも矢が刺さって、Kassyも抜け出すことができたようだ。


「君達だけは……って信じてたけど、やっぱりそういうことなんだな……残念だよ」


 唱は言いながら立ち上がり、痛そうにもがいている二人に木刀を向けた。


「おい、ちょっと待て。話を聞けって」

「落ち着けよ、ショウ。頼むから」


 二人は急にしおらしくなった。


「あれ……ショウ君、なんか、この二人様子が……」


 Kassyが不安げに言ったが、唱は悲しい目をして首を振った。


「カッシーさん、騙されちゃダメです。人は、やっぱり権力には勝てないものなんですよ……おれはそういう経験をしたんだ。けれど、それを非難することはできません。だから、自分の身は自分で守る。この二人は、そこの木に縛り付けておきましょう」


 困惑した表情で、Kassyは答えた。


「……あ、はい……なんかショウ君、雰囲気変わりましたね……」


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