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潜伏

「うりゃあぁっ」

「来いやぁ!」


 ガン、と鈍い音が森に響く。


「くっ……お前、なかなか……」

「へっ。力技だけが戦いじゃないってことを教えてやるよ」


 ぎりぎりと互いの木刀をまみえていたRYU-JinとYAMAだったが、ふいにYAMAが体勢を変えると、RYU-Jinがよろめいた。


「隙あり!」

「しまった!」

「はーい。そこまで。ヤマさんの勝ち」


 Kassyが手を振って言うと、YAMAは振りかぶった木刀をぴたっと止め、朗らかに言った。


「よし。これで二勝二敗だ」

「くっそー! ぐうの音も出ないようにしてやろうと思ったのに!」

「リュウ、お前、攻撃がパターン過ぎるんだよ。すぐに見切られるぞ」

「まじか。ちょっと考えねーとな。……よし、次はショウだ! さあかかってこい!」


 手作りの木刀を構え、喜々として叫ぶRYU-Jinに、ショウは怖気づいた。


「え、いや、あの。おれはちょっとまだ……」

「何言ってんだよ。外は敵だらけなんだぞ。こうやって訓練しとかねぇと、いざって時、戦えねぇぞ」

「はぁ、まぁ……」


 唱は言いながら、傍らにある自作の木刀とRYU-Jinが構える木刀を見比べた。


 どう見ても、おれの二倍の太さ!


 選んだ枝が悪かったのか、それとも削り過ぎたのか、唱の作った木刀はやけに細かったのだ。そして、RYU-Jinのはやたら太い。ほとんど棍棒である。戦ったら、秒でへし折られ、頭をゴチンと殴られる未来しか見えない。


「なんだよ。せっかく新技考えたのに。んじゃカッシー! 次はお前だ!」

「えっ! いやです!」


 Kassyの悲鳴が聞こえた。


 唱が再び仲間たちと行動を共にするようになってから、数日が経っていた。


 当初のYAMAの考え通り、人が来にくい森を拠点にして生活をしている。

 近くには川があり、飲み水にも、食事にも不自由しておらず、ランテとマーニが大量に買い集めてきたロウソクもあるため、生活すること自体に不自由はさほどなかった。


 しかし、潜伏生活ということには、何ら変わりはない。


 仲間を巻き込んでしまった後ろめたさが、今も唱にはある。

 ただ、前のように、一方的に出て行こうという気は、もうなかった。考えてみれば、あの時の行動は、ただの現実逃避だったのだと思う。


 唱がいなくなってから、六人は必死に探してくれたそうだ。


 ペトラン村に唱が現れたらしい噂を聞きつけ、急いで向かったが、すでに唱は出発した後だった。唱が向かいそうな場所をYAMAが推測して森に向かったところ、走ってくるカルを見つけたそうである。間違いないと森に入った彼らは、遠くから聞こえてくる唱の歌声を頼りにして、見つけてくれたということだった。


 必死に探してくれた彼らの想いを、もう、無駄にしたくはなかった。

 そして何より、仲間と一緒に過ごせることが、たまらなく有り難かった。


 今の唱にできることは、仲間と共に、現状を打開することだ。


 そのため、いつ追手が来ても困らないよう、フオゴ組や兵隊達と戦うことができるように訓練を始め、武器も自作しているのだった。


 とりあえず、木刀はすぐに作り直さないと。


 RYU-Jinの木刀並みに太い枝はないかと真剣に探している唱の横で、RYU-JinとKassyがぐるぐると走り回っている。


「待て、カッシー! 逃げんな!」

「いやです! リュウさんとなんて、いやだ!」


「あはは。鬼ごっこ? 楽しそう」


 そこへ、歩いてきたTaiyoが、猫とネズミのアニメのような追いかけっこを繰り広げる二人を見て楽しそうに笑った。


「あ、タイヨウさん、ランテさん、マーニ。お帰りなさい……うわぁ、すごい量の枝ですね」

「はい、この枝を矢にするんです」


 ランテは微笑みながら、てきぱきと枝から余分な小枝をはらっていく。マーニも一生懸命真似をしている。


「おれもね、ランテちゃんに弓矢習おうと思って。ほら、今、弓作ってるんだよ」


 そう言ってTaiyoは手作りの弓を手にした。


「タイヨウさん、作るの初めてなのに、とっても上手なんですよ」

「えへへ。ちょうど、ビワギターの替えの弦があったしね」

「わあ、本当だ。ランテさんの弓と、見た目的には全然変わんないですね。もう、弓は使えるんですか?」

「どうかな。ランテちゃん、どう思う?」

「そうですね……うん、大丈夫だと思います。こちらの矢を使って、試してみてはいかがですか?」


 Taiyo作の弓をひとしきり点検した後、ランテは細枝で作った矢を渡す。Taiyoは嬉しそうに立ち上がり、弓矢を構えた。


「こんな感じでいい?」

「はい。さすが、お上手ですね。良い構えです」

「ようし。遠くに向かって……えいっ」


 森の奥に向かって、ひゅうと矢が飛んで行った。


「ぎゃああっ」


 遠くから悲鳴が聞こえた。


「えっ? 今、なんか声しませんでした?」

「今の……悲鳴でしたね……」


 不安げに顔を見合わせた唱とランテに対し、Taiyoはてへっと笑って舌を出す。


「あらら。リュウに当たっちゃったかな」

「違います! リュウさん後ろにいるから! あと、そうだったとしても笑顔はダメ!」

「え? なんかおれのこと呼んだ?」


 Kassyを羽交い絞めにしながらRYU-Jinがきょとんとする。


 唱は慌てて全員に声をかけた。


「皆さん! やばいです。森に誰か来てます!」

「なんだって?」


 驚いたRYU-Jinから解放されたKassyは、苦しそうに咳をした。


「お、追手でしょうか……ゲホゲホっ」

「おい、みんな! そこの倒木の影に隠れるぞ!」


 YAMAの呼びかけで唱達は身を潜めた。


 まずい。フオゴ組がついに来たのか……?


 唱は、頼りなさすぎる木刀を握りながら、ごくりとつばを飲み込んだ。


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