友情の讃歌
一匹は大きなトカゲ、もう一匹は三本足の人みたいなお化け、もう一匹は……なんだ? ビュンビュン飛んでくるからわからない……
悪魔に取り囲まれた唱は、歌いながら、必死に辺りを見回した。
ふいに倒れそうになり、はっとする。転ばないように、慌てて片膝をついた。
見ると、左足が無くなっていた。
げっ……トカゲ、こんなにいたのかよ……?
唱の目の前にいる、小型のワニくらいの大きさのトカゲだけかと思ったが、小さな分身をたくさん引き連れていたらしい。リアルにトカゲサイズの悪魔が、唱の足に取り付いて少しずつ喰っている。
しかし、サイズが小さいので、唱の歌が効くのも速い。次から次へと、小さな悲鳴をあげながらきらきらと光輝く粒子に変わっていった。
――ビィィィィィィー……
突然、、悲鳴と共に唱に突進してきた悪魔を、唱は間一髪で避けた。そのはずみで体が倒れかけ、地面に手をつく。
突進してきた悪魔は目標を失い、空中で停止した。おかげで、やっと悪魔の姿を確認することができた。
鳩の悪魔か……それほど大きくないけど、空中に逃げられると厄介だな。歌が届かない……
再び飛び上がった鳩の軌道を確認しようとした時、突然、突き飛ばされたように、唱は地面に転がった。
う、いてて……なんだ……?
起き上がろうとしたが、ふと見ると、右手が肘から無くなっていた。そのまま顔を上げると、人みたいな形をした悪魔が、ガブリガブリと唱の腕を喰っている。
ぞっとする光景だった。
痛みこそないが、喪失感――自分自身が溶けて無くなっていくような感覚がひどく気持ちが悪い。
くそっ……こいつらが消えるのが先か、おれが喰われるのが先か……
とにかく、顔だけは喰われないように、唱は必死に体をのけぞらせて、人型の悪魔から少しでも距離を保とうとした。
――ビャアアアアアァァァ――
恐ろしい悲鳴が響き渡る。やっと人型の悪魔にも歌の効果が表れてきたようだった。唱の体を気味の悪い形の手で捕まえたまま、ぶんぶんと不格好な頭を振り回している。
――キィィィィィィィィ……
同時に、一番大きなトカゲも、尻尾をぴいんと伸ばして苦しそうにもがいた。
よし、もう少しだ。これなら勝てそうだ……
唱は、できるだけ大きな声を張り上げた。
その時、頭がボールで殴られたかのような衝撃が走った。痛みは無かったが、突然片目が見えなくなった。
やばい! 鳩のやつか?
はっと頭上を見ると、鳩の悪魔が唱の顔めがけて飛び込んでくるところだった。
そして、何も見えなくなった。
顔を……喰われ始めた……!!
恐怖で体に力が入らない。自分がどのような状況になっているかはわからないが、悪魔達が唱の残った手足を引っ張り合いながら、喰っているらしいことだけはわかった。
そしてついに、何も聞こえなくなった。
耳を喰われたのか……? それとも……まさか、口まで……?
どんどん、どんどん、感覚が無くなっていく。自分という体の形が無くなり、液体になって流れ落ちていくような気分になった。
ああ……おれは、悪魔に喰われたんだ。やっぱり、一人じゃダメだったんだ……
唱は、自分の最期を覚悟した。
意識が薄れていく。すると、まるで動画を巻き戻しているかのように、次々に色々な記憶がよみがえってきた。
逃げ出した夜。シフレーを助け出した時。ペトラン村での戦い。みんなで光の巫女の歌を聴いたあの日。ティーパ村で挫折を味わったこと。そしてクリワの新曲――
ショウ、歌って!
はっと、唱は意識を取り戻した。
タイヨウさんの声? いや、記憶の中の声か――
そう思った時、続けてたくさんの声が聞こえた気がした。
歌え! 歌ってください! 歌い続けろ! ショウ様!
――ピイイイイイィィィィィィィ……
悲鳴が合図となったかのように、唱は視界を取り戻す。
「よし! 次々に消えていってるぞ。もう少しだ!」
聞き慣れた声が聞こえた。そして、歌も。
やがて、最後の悲鳴が聞こえると、唱の体は地面にどさりと落ちた。
はぁはぁと荒い息をしながら、仰向けになったまま呆然としていると、上から六つの顔がのぞき込んだ。
「やっべぇ。まじで間一髪だったな。タイヨウの歌が間に合って良かったぜ」
「ほんとほんと! ショウの口が残ってて良かったね!」
「ショウ君の姿を見た時はぞっとしましたよ。鼻から上を喰われてたので……でも、歌を止めなかったのはさすがです!」
「だが、あと数秒遅かったらアウトだったな」
唱はぽつりと言った。
「リュウさん、タイヨウさん、カッシーさん、ヤマさん……」
すぐには状況が飲み込めずに、ぽかんとしていると、腹の上にどさっと重たいものが落ちて来た。
「ショウ様ぁ! 無事で良かったぁ! もう、どこにも行かないでぇ!」
マーニが唱の体にしがみついて泣いている。
「マーニ……」
首を横に向けた時、もう一人の顔が目に入った。目に涙を浮かべている。
「ショウ様……おかえりなさい」
そう言って微笑んだ彼女の頬に、一筋の涙がつたった。
「ランテさん……」
その様子を見ていたRYU-Jinの顔がにやついた。
「ったく、ショウよぉ。なっげぇションベンだったなぁ。あ、それともおっきい方だったか? ――って、待ってやめて! ランテちゃん、冗談だよ! そんな汚い物見るような目で見ないで!」
「なんにせよ。これでわかっただろ。いくらお前に最強の歌の力があると言っても、一人で戦うには限界があるんだぞ」
「そうですよ! ショウ君は、もうクリワに欠かせないメンバーなんですからね」
「ショウ。おれ達も、ショウがいてくれないとダメなんだよ。どんなことがあってもさ、一緒に戦おうよ!」
四人はそう言うと、次々にその手を唱の手に重ねた。
唱は、薄れゆく意識の中で見た走馬燈のような記憶を思い出していた。
そのどれもが、なんだか幸せな光景だった。そして、その景色の中には、いつも、クリワの四人と、マーニと、ランテがいたのだ。
少し笑うと、唱は、言葉なくうなずいた。




