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村の教会にて

「ねぇ、どこに行くの? それに、さっき言ってた音楽騎士って何?」


 ぐいぐいと腕を引っ張っていくマーニに、唱はとまどいながら声をかけた。


「教会よ! 音楽騎士のことは、そこで先生が説明してくれるわ!」

「教会? 悪魔とどんな関係が……あ、悪魔退散のお祈りするってこと?」

「いいから、ついてきて! ショウ様なら絶対大丈夫だから!」


 マーニは嬉しそうに言った。そして、いつの間にか唱の呼び名が“お兄さん”から“ショウ様”に昇格している。


 わけもわからずただついていくと、やっと、小さな集落が近づいてきた。

 唱が森を出た後に目指していた村だ。


「マーニが住んでる村?」

「うん、リヴ村よ。教会はあそこ。一つだけ、高い塔が見えるでしょ?」


 マーニの指さした先に、小さな家々が連なる中、筒のような建物がにょきっと生えているのが見える。


 へぇ。想像してた教会とは、違う感じの建物だな。


 教会と聞いて、唱はとんがり屋根の建物を想像していたのだが、実際には石造りの円柱で、太めの煙突のような造形だ。


 村の近くまでくると、マーニはすぐには中に入らず、村の周囲を大きく迂回するように歩き出した。


「あれ? あそこに教会があるんなら、今の道から入った方が真っすぐ行けるんじゃないの?」


 怪訝に思って聞くと、マーニは振り返らずに答えた。


「うん、あんまり人に見られたくないから。遠回りでごめんね」


 ああ、おれのことか。こんな格好してて、違和感ハンパないんだろうな。


 唱は納得して小さくうなずいた。

 パーカと細身のジーンズにスニーカーといういで立ちだ。この世界で、こんな服装の人は他にいないだろう。きっと騒ぎになるのを恐れて、人目につかないようにしているのだと唱は思った。


 ぐるりと村を外から回ると、人気のない畑道から村に入る。しばらく歩くと、さっきの塔の下に到着した。


「さ、着いたわ。入りましょ」


 マーニは得意げにそう言ったが、近くに入れそうな扉が見当たらない。


「えっ、入り口なくない? ここ、裏側なんじゃなくて? どうやって入るの?」


 塔は近くで見ると意外と大きく、五階建てのビル程の高さがあった。扉は一つもなく、五十センチ四方くらいの小窓が、階ごとにぽつんぽつんとついている程度だ。


「大丈夫。任せて」


 マーニは建物の壁面に備え付けられている小さな小屋のような物入れの扉を開けると、そこからハシゴを引っ張り出してきた。


「えっ、まさか……」


 唱の嫌な予感は的中し、マーニがよいしょとそのハシゴを頭上の小窓に向かって立てかける。


「ここから昇るのよ! 安心して。この小窓の鍵は壊れてるから開いてるの」


 不法侵入!


「いやいや、そういう問題じゃない! それ泥棒だから!」


 異世界に来て早々捕まったりしたらシャレにもならない。唱は断ろうとしたが、マーニはするするとハシゴを昇っていってしまった。


 マーニが窓を手で押すと、簡単にパカッと開いた。鍵が壊れているというのは本当のようだ。マーニは小窓の中にするりと体を滑らせると、数秒もせずに、今度は中から顔を突き出した。


「ショウ様、大丈夫よ! さぁ、ハシゴを昇ってきて!」

「えぇ……」


 無邪気な笑顔で待っている少女に嫌だとは言えず、唱は不安を抱えながらハシゴを昇った。


 うう、ごめんなさい。違うんです。泥棒とかじゃないんです。どうか誰にも見つかりませんように……


 恐る恐る窓の中をうかがうと、そこは廊下のようだった。幸い、窓から廊下までの距離は大人の体ほどだ。窓のへりに座るようにして中に足を突っ込むと、少しずつ体を滑らせながら廊下に飛び降りた。


 廊下は薄暗く、壁にぽつぽつとロウソクの明かりが揺らめいている。


「本当に、勝手に入って大丈夫なの?」


 不安な気持ちのまま小声で問いかけると、マーニはけらけらと笑った。


「あはは。ショウ様ったら心配性なんだから。安心して。先生とは長い付き合いよ」


 そう言うとマーニはすたすたと廊下を歩きだした。確かに、その足取りに迷いは見られず、この建物をかなり歩き慣れていることがわかる。


「ところで、その先生って?」

「あたしの歌の先生よ。この教会の神父様でもあるけどね。あたし、教会で歌唱隊やってたから」

「そうなんだ。じゃあ、マーニは歌がうまいんだね」


 唱の言葉に、マーニは振り返って微笑む。しかし、なぜかその微笑みはどこか寂しげに見えた。不思議に思った時、マーニが足を止めた。


「ここよ。先生の部屋」


 石壁に、木でできた扉がはめ込まれている。扉には文字が書かれていた。初めて見る文字だったが、唱にも意味がわかった。どうやら、異世界転移すると、言葉だけじゃなく文字もわかるようになるらしい。


 扉をノックする音が静かな廊下に響く。


「先生、先生。マーニです。入っていいですか?」


 マーニが声をかけてから少しして、中から声がした。男性、それも年寄りの声だ。


「マーニ? マーニなのですか。おお、良かった。あれからずっと心配していたのですよ」


 ガチャリという金属音がして、きしむ音を立てながら扉がゆっくりと開く。

 そこには、白髪で豊かな髭をたくわえた一人の老人が立っていた。


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