表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/117

街の通りに

「どうだ? やつら、いなさそうか?」

「うん、全然見当たらないよ。おれの視力、2.0以上あるから間違いないよ!」


 森の入り口付近で周囲の様子をうかがっていたTaiyoが言うと、YAMAが皆に告げる。


「よし、何とか逃げ切れたようだな」


 全員、ほっとして肩の力を抜いた。


 オルケスを出た唱たちは、夜通し走り、オルケスから遠く離れた森の中に逃げ込んだのだった。すぐに見つかることがないようにかなり移動したため、森に着いた頃には夜が明けていた。


「気が抜けたら、なんか眠くなってきたな」


 と、RYU-Jinが言ったそばから寝息が聞こえた。


「ごめんなさい。この子ったら、すぐ寝ちゃって」


 ランテの膝の上で、マーニがすやすやと眠っている。


「無理もない。あんな状況で、ランテちゃんもいない中、ちゃんとおれ達を道案内してくれたんだ。手際の良さに驚いたよ。改めて、ありがとう。二人のおかげでショウもおれ達も命拾いしたよ」


 YAMAがランテに礼を言うと、皆、次々にお礼の言葉を口にした。


「とんでもないですわ。私もびっくりしています。日ごろからマーニには、もしもの時にはあの扉へ、とは言っていたのですが、まさか、本当にお役に立つ時が来るなんて……」


 ランテが照れたように微笑むと、RYU-Jinがはっとして尋ねた。


「それなんだけどさ、ランテちゃんはなんであんな裏道とか、隠し門とか知ってたの? そういや、誰かに聞いたとか言ってたけど……」


 そこで、唱は思い出した。


「あっ、コモードさんに聞いたって言ってましたよね?」

「そうそう、その人その人……誰なんだよ?」

「ああ。コモードさんは、おれ達をオルケスまで案内してくれたお城の方ですよ」


 唱が説明すると、ランテもうなずいた。


「実は、私、コモードさんとずっと手紙のやり取りをしていたんです。その……オルケスでも、いつ悪魔に襲われるかわからないと思って、ショウ様のためにも、念のため逃げ道をたくさん確保しておこうと……」


 唱も、クリワの四人もポカンとした。


「すげぇ。なんて用意周到な……」

「リスク対策を怠らない。ヤマさんと気が合いそうですね」

「本当だ! なんか、ライブの前のヤマみたい!」

「いや……それは理解できるが、貧民街の裏道はともかくとして、隠し門のことは普通、城の者でも知らされていない情報だろう。そのコモード氏も、なんでそんな重要機密事項を知っていたんだ?」


 ランテが困ったような顔をした。


「こんなことを言って、コモードさんが怒られないか心配ですけど……コモードさんが商人をされていた時、お友達にお役人様がいらして、その方とお酒を飲んでいた時に聞いたそうなんです。オルケスには、もしもの時に王族が逃げるために作られた隠し通路があるという……ただ、コモードさんも冗談だと思っていたみたいですよ」


 RYU-JinとYAMAが呆れたように言った。


「はあ。酔ってうっかり口滑らしたってことかよ。この国のセキュリティ大丈夫か?」

「おそらく、すでに都市伝説的な扱いだったんだろうな。だが、真実だったと」

「はい。ショウ様が修行されている間、時間もあったので、色々と探してみたら、それらしき扉を見つけてしまって……」

「まぁ、良かったじゃん! その役人さんの口が軽かったおかげで、こうしておれ達助かったわけだしさ!」


 Taiyoがにこやかに言って、皆、それもそうだとうなずき合った。


 一段落したところで、YAMAが皆を見回して言った。


「さて、こうして逃げ切れたのはいいが、もう当分、オルケスには戻れないぞ。最低限の物は持ってきたつもりだが、食料や明かりのロウソクは圧倒的に足りない。どうしたもんか」

「おれ、買いに行ってこようか? あそこに村が見えるけど」


 Taiyoが指さした方向には、確かに小さな村らしき家並みが見える。しかし、YAMAは首を振った。


「いや、村にはフオゴ組がいる可能性がある。おれ達は顔が割れてるからな。その場で襲ってこなくても、帰りをつけられたらまずい。今はあまり人のいるところに行かない方がいい」

「げっ。食料は何とかなるにしても、ロウソク無くなったら真っ暗じゃねぇか」


 RYU-Jinがうんざりした声を出すと、ランテが言った。


「あの、私が買って来ましょうか?」


 唱はぎくっとする。


「そんな! ランテさん、今、ヤマさんが言った通り、危ないですよ!」


 ランテは穏やかに微笑んで首を振った。


「皆さんは同じ音楽騎士同士、顔見知りでしょうけれど、私はさっき、暗がりで遠目に見られただけですから、軽く変装すれば大丈夫と思います。森の中で真っ暗なんて、今度は悪魔に襲われてしまいますわ」


 じっと話を聞いていたYAMAがうなずいた。


「確かに、それはそうかもしれない。――ランテちゃん、申し訳ないけど、お願いしていいかな」

「はい。もちろんです。では、その間、マーニをよろしくお願いしますね」


 ランテは小柄なカッシーからコートを借り、髪を結んで雰囲気を変えると、馬に乗って村に向かった。

 唱は、ランテを一人で行かせることが心配で仕方なかった。しかし、自分と一緒の方が余計に危険を招くことになる。彼女を信じて待つしかないのがもどかしかった。


 唱の心配をよそに、ランテは二時間ほどで戻ってきた。


「おお、お帰り、お帰り! 無事で安心したぜ!」


 RYU-Jinがにこやかにランテを出迎える。唱もほっとして、笑顔で声をかけようとした、が、ランテの表情を見て声が止まった。


「ショウ様……こんなものが、村に……」


 固い表情で呟くように言ったランテの手には、B4サイズくらいの紙が数枚握られていた。

 のぞき込むと、そこには、唱の似顔絵が描かれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ