街の通りに
「どうだ? やつら、いなさそうか?」
「うん、全然見当たらないよ。おれの視力、2.0以上あるから間違いないよ!」
森の入り口付近で周囲の様子をうかがっていたTaiyoが言うと、YAMAが皆に告げる。
「よし、何とか逃げ切れたようだな」
全員、ほっとして肩の力を抜いた。
オルケスを出た唱たちは、夜通し走り、オルケスから遠く離れた森の中に逃げ込んだのだった。すぐに見つかることがないようにかなり移動したため、森に着いた頃には夜が明けていた。
「気が抜けたら、なんか眠くなってきたな」
と、RYU-Jinが言ったそばから寝息が聞こえた。
「ごめんなさい。この子ったら、すぐ寝ちゃって」
ランテの膝の上で、マーニがすやすやと眠っている。
「無理もない。あんな状況で、ランテちゃんもいない中、ちゃんとおれ達を道案内してくれたんだ。手際の良さに驚いたよ。改めて、ありがとう。二人のおかげでショウもおれ達も命拾いしたよ」
YAMAがランテに礼を言うと、皆、次々にお礼の言葉を口にした。
「とんでもないですわ。私もびっくりしています。日ごろからマーニには、もしもの時にはあの扉へ、とは言っていたのですが、まさか、本当にお役に立つ時が来るなんて……」
ランテが照れたように微笑むと、RYU-Jinがはっとして尋ねた。
「それなんだけどさ、ランテちゃんはなんであんな裏道とか、隠し門とか知ってたの? そういや、誰かに聞いたとか言ってたけど……」
そこで、唱は思い出した。
「あっ、コモードさんに聞いたって言ってましたよね?」
「そうそう、その人その人……誰なんだよ?」
「ああ。コモードさんは、おれ達をオルケスまで案内してくれたお城の方ですよ」
唱が説明すると、ランテもうなずいた。
「実は、私、コモードさんとずっと手紙のやり取りをしていたんです。その……オルケスでも、いつ悪魔に襲われるかわからないと思って、ショウ様のためにも、念のため逃げ道をたくさん確保しておこうと……」
唱も、クリワの四人もポカンとした。
「すげぇ。なんて用意周到な……」
「リスク対策を怠らない。ヤマさんと気が合いそうですね」
「本当だ! なんか、ライブの前のヤマみたい!」
「いや……それは理解できるが、貧民街の裏道はともかくとして、隠し門のことは普通、城の者でも知らされていない情報だろう。そのコモード氏も、なんでそんな重要機密事項を知っていたんだ?」
ランテが困ったような顔をした。
「こんなことを言って、コモードさんが怒られないか心配ですけど……コモードさんが商人をされていた時、お友達にお役人様がいらして、その方とお酒を飲んでいた時に聞いたそうなんです。オルケスには、もしもの時に王族が逃げるために作られた隠し通路があるという……ただ、コモードさんも冗談だと思っていたみたいですよ」
RYU-JinとYAMAが呆れたように言った。
「はあ。酔ってうっかり口滑らしたってことかよ。この国のセキュリティ大丈夫か?」
「おそらく、すでに都市伝説的な扱いだったんだろうな。だが、真実だったと」
「はい。ショウ様が修行されている間、時間もあったので、色々と探してみたら、それらしき扉を見つけてしまって……」
「まぁ、良かったじゃん! その役人さんの口が軽かったおかげで、こうしておれ達助かったわけだしさ!」
Taiyoがにこやかに言って、皆、それもそうだとうなずき合った。
一段落したところで、YAMAが皆を見回して言った。
「さて、こうして逃げ切れたのはいいが、もう当分、オルケスには戻れないぞ。最低限の物は持ってきたつもりだが、食料や明かりのロウソクは圧倒的に足りない。どうしたもんか」
「おれ、買いに行ってこようか? あそこに村が見えるけど」
Taiyoが指さした方向には、確かに小さな村らしき家並みが見える。しかし、YAMAは首を振った。
「いや、村にはフオゴ組がいる可能性がある。おれ達は顔が割れてるからな。その場で襲ってこなくても、帰りをつけられたらまずい。今はあまり人のいるところに行かない方がいい」
「げっ。食料は何とかなるにしても、ロウソク無くなったら真っ暗じゃねぇか」
RYU-Jinがうんざりした声を出すと、ランテが言った。
「あの、私が買って来ましょうか?」
唱はぎくっとする。
「そんな! ランテさん、今、ヤマさんが言った通り、危ないですよ!」
ランテは穏やかに微笑んで首を振った。
「皆さんは同じ音楽騎士同士、顔見知りでしょうけれど、私はさっき、暗がりで遠目に見られただけですから、軽く変装すれば大丈夫と思います。森の中で真っ暗なんて、今度は悪魔に襲われてしまいますわ」
じっと話を聞いていたYAMAがうなずいた。
「確かに、それはそうかもしれない。――ランテちゃん、申し訳ないけど、お願いしていいかな」
「はい。もちろんです。では、その間、マーニをよろしくお願いしますね」
ランテは小柄なカッシーからコートを借り、髪を結んで雰囲気を変えると、馬に乗って村に向かった。
唱は、ランテを一人で行かせることが心配で仕方なかった。しかし、自分と一緒の方が余計に危険を招くことになる。彼女を信じて待つしかないのがもどかしかった。
唱の心配をよそに、ランテは二時間ほどで戻ってきた。
「おお、お帰り、お帰り! 無事で安心したぜ!」
RYU-Jinがにこやかにランテを出迎える。唱もほっとして、笑顔で声をかけようとした、が、ランテの表情を見て声が止まった。
「ショウ様……こんなものが、村に……」
固い表情で呟くように言ったランテの手には、B4サイズくらいの紙が数枚握られていた。
のぞき込むと、そこには、唱の似顔絵が描かれていた。




