壁を越えて
「お姉ちゃん? いる?」
聞こえてきたのは、マーニの声だった。
「いるわよ。こっちよ」
ランテが答えると、茂みから馬に乗ったマーニとRYU-Jinが顔を出した。
「良かった! 町出る前に間に合って」
「えらいわ。マーニ。ちゃんと皆さんをお連れできたわね」
RYU-Jinの馬からぴょんと飛び降りると、マーニはランテに駆け寄って嬉しそうに抱きついた。
茂みから、続けて他の三人の馬も顔を出す。
「すげぇな。こんなとこ、よく見つけたな」
「おれ達も全然知らなかったよ!」
「裏道のことも気づかなかったですよね。普段、貧民街には近づかないですし」
「おれも驚いた。この町と城のことは、そこそこ知っているつもりだったが……誰かに聞いたのか?」
クリワの四人は、驚いたように周囲を見回している。
「皆さん! よ、良かった……追手かと……」
唱は、気が抜けてへなへなと地面にへたり込んだ。
YAMAの問いに、ランテが小声で答えた。
「はい。コモードさんという方からお聞きしました。詳しいお話は後にしましょう。ひとまず、ここを出なくては」
そう言うと、ランテは木の扉に手をかけた。
「この扉の向こうにもう一つ、外に出る扉があります。そちらの扉は、城壁の外側から見てもわからないように、石でできているそうです。私がこの木の扉を開けましたら、皆さんで、その石の扉を押し開けてください」
「わかった。任せとけ」
RYU-Jinが手をブラブラと振りながら言った。続けてクリワの三人もうなずく。唱もぶんぶんと首を縦に振った。
ランテはにっこりと微笑んだ後、ぱっと表情を厳しくして、木の扉を力いっぱい引いた。
「んんーっ……」
ギギィーッ……
辺りに木のきしむ音が響いた。全員の体に緊張が走る。
扉はかなり重たいようで、ランテの力でもゆっくりとしか開かない。皆がじりじりとする中、ようやく、人が通れる隙間ほど開いた。すぐさま、ランタンを掲げたRYU-Jinが飛び込み、次々に男たちが続いて行った。
城壁のトンネルは真っ暗だった。ランテの言う通り、外への出口を石でふさいでいるのだろう。
「あったぜ! よし、せーので押すぞ」
先頭のRYU-Jinの声が聞こえると、皆、ランタンを足元に置き、男五人で目の前にふさがる石を精一杯押した。
グググ……と手ごたえがあり、石はゆっくりと動き出した。
ズズズズズ……
地響きのような音がする。そこまで大きい音というわけではないが、静まり返った夜では、遠くからでも聞こえてしまうだろう。
やばいな。急がないと、フオゴ達が気づいてしまうかも。
焦りながら石を押していると、唱の隣にふわりとランテが飛んできた。その途端、石の動くスピードが上がる。
ようやく、馬一頭が通れるほどの隙間が開いた。
「さあ、皆さん。急いで戻って馬に乗ってください。追手が来る前に、ここを出ましょう」
皆、ランテの言う通りに動いた。カルに乗った唱を先頭に、次々に馬で通り抜けていく。
「よし、一旦、身を隠せる森に入るぞ。悪魔が出るかもしれんが、悪魔なら出てもわかるし、倒すこともできる。そこでまずは体制を整えよう」
YAMAが叫び、唱たちは森を目指して馬を走らせた。
「ねぇ、あれ、フオゴ君達じゃない?」
Taiyoの声が飛んだ。皆、ぎょっとして振り返る。
オルケスの方から、数騎が走ってくるのが見えた。
「うわっ。本当ですね。やっぱり、さっきの音で気づかれちゃいましたね!」
「やばいな。この段階で追いついてこられたら、森に身を隠す意味もないぞ」
「こうなったら、おれ達、降りて戦うか? ショウだけでも逃がそうぜ」
「そんな。おれも戦いますよ!」
「バカなこと言うな、ショウ。お前は捕まったら速攻処刑だ。おれ達の目的は、お前を無事に逃がすことなんだぞ」
「皆さん、ご心配には及びません。私が食い止めます」
殿のランテが叫んだ。
「ランテさん、ダメです! いくらランテさんが強くても、男数人相手じゃ勝ち目ないですって!」
唱は叫んだが、ランテはアジを減速させた。
「ショウ様! 皆さん! こちらは任せて、とにかく進んでください」
「ランテさん! 戻ってきてください!」
「待て、ショウ。彼女はかなり有能だ。無茶は言ってないと思う。何か考えがあるんだろう。とにかく今は彼女の言う通りに」
そうこうしているうちに、フオゴ達の馬が迫ってきた。
「おらおら、逃げんなコラァ!」
粗暴な叫び声が響き渡る。それを合図にするかのように、アジの手綱をマーニに任せたランテが後ろを向き、いつの間に用意したのか、馬上で弓を構えた。
その瞬間、ヒヒィーン、という馬のいななく声と、悲鳴が聞こえた。
唱が振り返ると、馬が驚いたように前足を高く上げ、乗っていたフオゴ達が次々に地面に振り落とされるところだった。ランテの弓が馬の足元に刺さっており、馬が驚いて急に足を止めたのだ。
RYU-Jinが感嘆の声を上げる。
「すっげー! ランテちゃん、可愛いだけじゃなくてめっちゃ強ぇ!」
しかし、フオゴ達も振り落とされただけでは諦めなかった。
「ちっきしょお。てめえら、絶対許さねぇ!」
彼らのうち数人が、剣を抜き走って追いかけて来る。
ランテはためらわず、彼らに矢を向けた。
「ぎゃあ!」「うぐっ」「痛ぇ!」
次々に悲鳴が聞こえる。ランテは、見事に彼らの足に矢を命中させていた。
「さすが。やるな、ランテちゃん。足をやられれば、もう追いかけてこれない。これで逃げ切れるぞ」
漆黒の闇夜、唱達は無事オルケスを脱出したのだった。




