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悲しみに沈む町

 ペルデンの葬儀は、盛大に行われた。


 行軍の予定を切り上げて帰還した討伐隊の面々は、皆、神妙な面持ちで参列していた。

 英雄であるペルデンの死は、オルケスの民たちにとっても、大いなる悲しみだった。

 町の中央広場には、大きな祭壇が置かれ、ペルデンの肖像画が飾られ、悲壮な顔つきの人々が、ひっきりなしに訪れていた。


「ペルデンさん……」


 唱も、その祭壇の前で立ち尽くした。


 話によれば、行軍途中で討伐隊は悪魔の群れに襲われたのだそうだ。そして、その悪魔には、ペルデンの歌が効かなかったと――そして、ペルデンは悪魔に喰われた。


 唱達は、これで確信した。ペルデンの歌の力の真実を。


 あの時、もし、討伐隊を追いかけて止めに行っていれば。


 葬儀から戻っても、ついそのような考えが頭によぎって、唱は顔をしかめた。


「ショウ、あんまり思いつめちゃダメだよ。起こっちゃったことは、もう変えようがないんだから」


 Taiyoが心配そうに、唱に声をかけた。


 皆、葬列後に唱の宿に集まっていたのだった。


「そうなんですけど……でも、おれ、城で会った時だって伝えることができたんで……なんで伝えられなかったんだろうって、どうしても……」


 YAMAが首を振る。


「仮にペルデンさんに、あなたの力は悪魔を消滅させるものではなく、ただ移動させるだけの力なんですよ、と伝えられたとしても、信じてもらえたとは限らないんだ。お前が責任を感じることはない」

「そうだぜ。むしろ、国家反逆罪になってた可能性の方が高いだろ? だったら、気にするだけ損だろ」


 RYU-Jinもそう言って、YAMAと顔を見合わせる。


「お前の気持ちはよくわかる。冷たいように聞こえるかもしれないが、今おれ達が考えなきゃいけないのは、これ以上被害を増やさないために、どうすれば良いかだ。まだ、ペルデンさんが移動させた悪魔が残っている可能性があるからな」


 唱はうなずいた。


「……そうですね……皆さんの言う通りです。先のことを考えなくちゃ、ですよね……」


 とは同意したものの、やはり唱の心にもやもやとしたものが渦巻いていた。


 そんな話をしていた時、下階で物音がした。


「ん? なんか今、でけー音しなかったか?」

「ああ、入り口の扉の音っぽかったな。こんな夜中に、もっと静かに開けて欲しいもんだな」


 しばらくすると、何やら言い合いをしているような声が響いてくる。


「あれ? 誰か、ケンカしてない?」

「この宿の御主人の声がしますね」


 じっと耳をすませて聞いていると、会話はこんな風に聞こえた。


「やめてください! 勝手に入らないで!」

「うるせーな、じじい。あんまりガタガタ騒ぐと、国家反逆罪で捕まえるぜ?」

「こっちは、国王様の御命令で来てんだ。勝手に入っていいんだよ」


 唱たちは全員、顔を見合わせた。


「随分、物騒な会話でしたね」

「てか、この声、聞いたことある気がしねぇか……?」


 そうこうしているうちに、乱暴に階段を上がる音がして、数人の足音がバラバラと聞こえた。そして、その足音は、唱の部屋の前で止まった。


「おい、ショウ、いるか? いるんだろ? ちょっと出て来いや」


 あ、この声。この前、城で会ったやつの一人っぽい。


 そう思って、返事をしようと口を開けたところを、YAMAに制される。


「待て、ショウ。返事するな。なんかおかしい」


 YAMAは、口の前に人差し指を立てて全員を見回す。


 すると、今度はドアが激しく叩かれた。


「テメー、居留守使う気か? わかってんだよ。こっちが穏便に済ませてやろうって思ってるうちに、大人しく出てこいよ」


 激しく鳴らされる音に、マーニが怯えたようにランテの後ろに隠れる。唱も、クリワも、異常事態に身構えた。


 YAMAが小さな声で言う。


「ショウ、お前は後ろに下がってろ。いざとなったら、窓から逃げられるようにな」

「え? でも、向こうはおれを探しに来てますよ?」

「だからだよ。理由はよくわからんが、何か、お前の身に良くないことが起きているのは確かだ」

「は、はい……わかりました……」


 激しすぎるノックの音がドンドンとしばらく続いていたが、やがて、一人の男の声と共に止んだ。


「おい、やめろ。他の客に迷惑だろう」

「あ、フオゴさん……でも、こいつ、居留守使ってんすよ。引っ張り出さねぇと」

「おれ達は仕事で来ている。喧嘩じゃないんだ」


 ここまで聞いて、唱も嫌な予感に青ざめた。


 外の男、フオゴの声がドア越しに聞こえてきた。


「ショウ、いるんだろう。国王様の御命令により、お前を捕まえる。おれ達、悪魔討伐隊を騙し、ペルデン副団長を死に追いやった罪でな。――つまり、最重度の国家反逆罪だ。逃げれば更なる罪になる。ここ


で大人しくおれ達に捕まった方が身のためだぞ」


「は?」


 唱は、思わず声を漏らした。


 待って、待って。どういうこと? おれが、ペルデンさんの力のこと知ってたけど黙ってたのがバレて罪になってるってこと? いやその前に、おれが討伐隊を騙してるって何?


 頭がパニック状態になっている唱に、RYU-Jinが言った。


「おい、ショウ。なんかわかんねぇが、クッソやべぇぞ。おれ達が何とかするから、とにかくお前は窓から逃げろ」

「はっ、はい。あ、いや、でも、ここ二階……」


 窓の外を見て怖気づいていたら、

「自分から出てくるつもりはないか。では、荒っぽいが、無理やり捕まえさせてもらうぞ」

という声と共に、鍵穴に鍵が差し込まれる音がした。


 ガチャッ、ガチャリ――


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