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救世主が天を開く

「ショウ様!」


 遠くから、ランテとマーニの声が聞こえてきた。やがてアジに乗った二人が到着し、唱たちの側に下馬する。


「良かったぁ。けっこう探したのよ」

「行き違いになったりしなくて良かったですわ。悪魔は退治されたのですね……って、皆さん……?」


 呆然と空を見つめている一行を見て不思議に思ったランテとマーニも、顔を上げる。


「まぁ……」

「え、えぇっ……? 青空……? なんで……?」


 マーニがはっとして、唱に飛びつかんばかりに問いかけた。


「ねぇ! もしかして、ショウ様がやったの? 空を晴らしたの?」


 しかし、唱にも何が何だかよくわからない。


「え? あ? いや? おれもちょっとよくわかんないんだけど……」


 おどおどしながら周りを見回したが、全員、同じようにわけがわからないという顔をしていた。一人を除いて。


「闇を祓いし救世主……」


 シフレーが唱を見ながら言った。


「救世主?」


 唱がキョトンとしていると、シフレーは顔を輝かせて唱の手を取った。


「原典に書かれている音楽騎士の中の救世主だ! “悪魔全て退治せり音楽騎士、闇を祓い、人々に平安をもたらす。これを皆、救世主と呼ぶ”――。本当にいたんだな。しかもそれがショウ、お前だったなんて――ああ、これでまた、ダカポ教の真実に一歩近づいた!」


 いつも冷静沈着なシフレーが、やけに興奮気味だった。


 ランテがぽつりと言った。


「原典……この前お聞きしたお話のことですね」


 シフレーがうなずく。


「ああ。原典と現在の神書の違いの一つだよ。現在の神書では、雲をはらって空を取り戻したのは光の巫女とされているが、原典では、救世主と呼ばれる音楽騎士の一人が行ったとされているんだ」


 YAMAが納得したようにうなずいた。


「なるほど……ということは、空を晴らすのは歌なんかじゃなかったってことか」


「そうなのだろう。私も、今のショウの戦い方を見てわかった。ショウが倒した悪魔は、皆、光の粒になるな。その粒が天に昇って雲を切り裂いていくように見えた。消滅した悪魔の光の粒に、空を覆っている雲を消す作用があるんだろう」

「そういうことか。おれ達も、今日、初めてみた。ということは、おそらく一定量の悪魔を倒さないと空を晴らすまでには至らないってことだったんだろうな。うん。歌よりよほど合点がいく理屈だ」


 YAMAはうんうんとうなずいていたが、RYU-Jinが不思議そうな顔をした。


「いやいや、ちょっと待て。一定量って言うけどさ、このくらいの量、ショウだったら何度か倒してるぜ。ペトラン村の時も、ティーパ村の時も……」


 そう言ったRYU-Jinの言葉を遮るように、近くにいたモレドが声をかけてきた。


「あの、そのことなんですが……おれ、ペトラン村の時、見たんです」


「そう言えば、お前、報告に来た時、やたら空ばっかり見てたよな」

「はい。あの日は夜だったんで、青空を見たわけじゃないんですが、ふと空を見上げた時、星が見えたような気がして――でも、見間違いだと思って、特に言ってなかったんです」


 モレドの言葉に、Kassyが思い出したように言う。


「そう考えると、ティーパ村の時も時間帯遅かったですよね。それに、火事で煙が充満してたし」

「ああ、そうだったな。気づけなかっただけという可能性は十分にある」


 話を聞いていたマーニが興奮気味に言った。


「そうすると……ショウ様は悪魔を倒すことができるだけじゃなくって、この世界を救うこともできるってことね! すごいわ、やっぱりショウ様は最強の音楽騎士だったんだわ!」

「おいおい、ショウ、すげーじゃん! やっぱりおれ達が見込んだだけのことはある!」


 マーニと同じくらいはしゃいだ様子のRYU-Jinに力強く肩をつかまれ、唱は思わずよろめいた。


「あいたた! いやあの……突然すぎて、何が何やら、全然つかめてないですよ……」


 シフレーがにっこりと微笑む。


「いいんだ、ショウ。お前は今まで通り、悪魔退治を続けていればいい。そうすれば、必然的に空も晴れるようになるんだからな」

「ああ、まぁ、そうなのかもしれないけど……」


実感が湧かないまま、悪魔退治は完了した。


 シフレー達と別れ、唱達がオルケスに戻ってきた時には、夜になっていた。


「今日はめでたい日だからな。パーッとお祝いでもしようぜ」

「お祝い? わぁい! あたし、美味しいもの食べたい!」

「こら、マーニ。あなたのお祝いじゃないのよ」

「あはは。気にしない、気にしない。マーニちゃんにも、モリモリ食堂の鶏煮込み食べて欲しいなぁ」

「いやいや、ちょっと待ってください。その前に、城に行って討伐隊の行く先を聞かなくちゃ……」

「うっわ。いっけね! ショウのインパクト凄すぎて忘れてた!」


 そんなことを言いあいながら大通りを歩いていると、広場の方が騒がしいことに気づいた。


「号外! 号外―!」


 新聞売りが大声を上げながら紙を配っている。人々もざわざわと騒々しい。


「ん? なんだなんだ? 何かニュースか?」

「えー、なになに? あたしもあれ欲しい!」

「号外の新聞ですね。一枚、もらってきましょうよ!」


「全く、お前ら、ミーハーだよなぁ」


 YAMAが呆れ気味に言ったが、RYU-JinとKassyはマーニを連れて楽しそうに新聞をもらいに行った。

 そして皆、三人がもらってきた紙面をのぞき込む。


「なっ……まじか……?」


 RYU-Jinは声を漏らし、他の皆は絶句した。


 紙面には、こう書かれていた。


『悪魔、群れを成し討伐隊を急襲。ペルデン副団長、無念の戦死』


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