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危機迫る

 翌日、唱は城でペルデンに会った時の話をクリワに報告した。


「そうか。ペルデンさんは、自分の力が悪魔をただ移動させるだけの力だとは思っていないということか」

「はい。それに、とても人を騙すような感じにも見えなかったです」

「だとすると、それはそれでまずいな。もし、おれの仮説通りだとすると、無自覚に、今後もどんどん被害を出してしまうってことだからな」


 YAMAは顎を指でつまむように触っている。これは、彼が考え事をしている時によくやる仕草だった。


「そうだよ。だって、討伐隊、また今日から遠征に行っちゃったでしょ。てことは、またどこかで悪魔が大量発生しちゃうってことじゃん」

「ああ。まじぃな。おれ達が動ける範囲だったらまだいいけど、全然わかんないような、遠い地域で起こっちまったら、下手すりゃ村全滅だぜ」

「すぐに追いかけて、止めに行った方が良くないですか?」


 クリワが口々に言ったが、YAMAが首を振る。


「ことはそう簡単じゃない。たとえ事実だったとしても、それをどう証明する? あっちは“国王様の御意志”で動いてるんだ。明確な証拠も見せられずに軍隊を止められるわけがない。下手をすれば、国家反逆罪で即絞首台行きだ」


 皆、『国家反逆罪』という言葉を聞いて、「あぁ……」と大きなため息をついた。


「せめて、ペルデンさんがあまり悪魔を消さないようにすることができればいいんだが……」

「あ! じゃあ、フオゴ君に頼んでみたら? ペルデンさんに先回りして悪魔バンバン倒してくれるようにさ」

「タイヨウ、ナイス! フオゴならまだ頼みやすいしな」

「さっすがタイヨウさん! じゃあ、早速馬に乗って討伐隊を追いかけましょう!」


 クリワの会話から聞こえたフオゴの名前に、唱は複雑な思いを抱いた。昨日の、ペルデンの話を思い出したからだ。


 かつて、友を救えなかった罪を償うように、仲間の盾となって一人で黙々と悪魔を倒すフオゴ。


 本当に、彼がそう思って悪魔討伐をしていると言うのなら、そんなことを頼んだら、余計に一人で背負い込んでしまうのではないだろうか。


 いや、そうならそうで、いいじゃないか。とにかく、あいつは最強なんだから。


 唱の中で、音楽騎士としての責任感と、フオゴを気の毒に思う気持ちがぐるぐると交錯していた。


 その瞬間だった。


 何か黒い物が、視界の端をすごい速さで通り過ぎていった。


 唱は、気づいた。

 その黒い物が、大きな犬の形をした悪魔であること。そして、その口に、人間の腕が一本ぶら下がっていることに。


「今! 悪魔が! 人を!」


 唱が指さしたとき、Taiyoの歌が響いた。同時に、黒い犬の悪魔が硬直した。


「ショウ! 歌だ!」


 YAMAがそう叫ぶより早く、唱は歌い始めた。しばらくすると、悪魔の悲鳴が聞こえ始め、やがてキラキラと光の粒になっていく。


悪魔が消えると、地面にどさりと人が落ちた。


「おい! 大丈夫か!」


 RYU-Jinが駆け寄り、倒れている人を抱き起した。


「こいつ……音楽騎士だ。見覚えあるぞ。ええと、どこの組のやつだったっけ……」

「本当だ。確かシフレー組だ。名前は……ピアーとかだったと思う」


 YAMAがピアーと言ったその男は、気を失っているようで目を覚まさない。


「ちょっと待ってください。なんでシフレー組の人が悪魔に……」


 唱がぽつりと言うと、全員が顔を見合わせる。


「おい、やべぇぞ。シフレー組、悪魔に襲われてんじゃねぇか?」

「ああ。シフレー達だって、悪魔を倒せないまでもそこそこ対抗できるはずだ。それが、一人食われてるということは、ティーパ村やペトラン村の時みたいに、突然大量発生した悪魔に襲われた可能性が高い」

「大変だ! よし、助けに行こう!」

「ちょい待ち。討伐隊の方は、どうするよ?」


 唱たちは、お互い顔を見合わせた。


 少しの沈黙の後、YAMAが言った。


「討伐隊の方は、まだ行ったばかりだ。後を追うのが多少大変にはなるが、城で目的地を聞けば向かうこともできるだろう。最悪、手紙を送るってこともできる」


 RYU-Jinもうなずく。


「そうだな。それよりも、たった今、襲われてるやつらを助ける方が先だな」


 全員が納得したところで、YAMAは胸元から地図を取り出した。


「シフレー組が見回りに行っているのがこの範囲だ。この範囲内の村を順番に確認しに行く」


 YAMAが地図を指でなぞった。


「西側には、村が四つある。まず、一番近いシンバリー村から行くぞ。で、いなかったら、近い順にこう回る」

「でも、村にいるとは限らないんじゃ?」

「その可能性もある。だが、村と村との移動ルートは概ね限られる。そこから大きく外れなければ、おそらく見つけられるはずだ」

「よっし、わかった。じゃあ、このシフレー組のやつは、おれの馬に乗せる」

「ああ、リュウ、頼む。もし、途中で起きたら、どこに仲間がいるのかすぐに聞いてくれ」


 全員、馬に乗り込み始め、唱は近くで昼食の準備をしようとしていたランテとマーニに向かって声をかけた。


「ランテさん! マーニ! おれ達、これから、悪魔退治に行ってきます!」

「えっ? 待って、待って! あたしも行く!」


 聞くなり、唱に向かって駆け出そうとしたマーニだったが、ランテに引っ張られて止められた。


「ショウ様、お急ぎなのですよね? 後から追いかけますので、私達のことはお気になさらずに!」


 唱はランテに会釈をすると、カルに飛び乗ってクリワの四人を追った。


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