表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/117

原典

 突然、シフレーに歌呼であることを言い当てられ驚いているマーニに、シフレーが笑いかけた。


「驚かせてしまってすまない。ちなみにもう一つ……お嬢ちゃんのご両親は、オリージ国のご出身じゃないのかな?」


 マーニはますます疑問の表情を浮かべた。


「えっ、どうして? オリージ国って、昔、隣にあった国? 違うよ。お父さんは、生まれた時からずっとリヴ村だもん!」


 混乱しているマーニの肩に、ランテが優しく手を置いた。


「私達の母は他国の出身だったと、父から聞いたことがあります。母は、この子を産んで間もなく亡くなりましたが」


 シフレーがマーニとランテを見比べる。


「お二人は姉妹か。――だが、歌呼なのは妹さんだけのようだな」

「それは……どうしてお分かりになるのですか?」


「髪と瞳の色だよ。オリージ国の民、オリジアンは、普通は茶色の髪、茶褐色の目をしているんだが、金髪に黄金色の目で生まれると、ほぼ例外なく歌呼の力を持つと言われている。そして、オリジアンの歌呼は、歌呼の中で最もその力が強力なんだ」


「あ……母も、金髪に金色の目をしていました……」

「お母上も歌呼だったのだろう。おや、知らないといった顔だな」

「はい……母が歌っているところを見たことがないんです」

「では、『良い木こりと悪い木こりの歌』はどこで覚えたのかな?」

「父です。釣りをしている時、川岸に座って父がいつも口ずさんでいました」


 シフレーは、少し寂しそうに目を細めた。


「そうか。お母上は、歌呼の力を子供に明かしたくなかったのかもしれないな。もったいないことだが」


 唱はしばらく黙って三人のやり取りを見ていたが、たまりかねて口をはさんだ。


「ちょっと待って。つまり、シフレーもオリージ国の出身ってこと?」


 シフレーがうなずく。


「ああ。私は生粋のオリジアンだ。と言っても、すでに亡国だがな」


「……そうだったよな。確か三年位前にコンセール王国に侵略されたんじゃなかったか。オリージ国の人間にとってこの国は憎き敵といってもいいはずだが、なぜ音楽騎士に?」


 YAMAが首をかしげると、シフレーが一瞬目を伏せた。


「答えづらい質問だな……だが、こんなところで同胞に出会えたのも何かの縁だ。正直に話そう。実は、ちょっと調べたいことがあってな。音楽騎士になれば城の図書館や研究施設などが使える。それで音楽騎士に応募したんだ」

「なるほどな。で、何を調べたいんだ?」

「ダカポ教さ。私は元々歴史研究家でね。ダカポ教の発祥から、世界への広まり方、そして原典と現在の神書との違いについて研究している」


 シフレーの言葉に、ランテが聞き返した。


「原典? 今、現在の神書との違いとおっしゃいましたが、私達が知っている神書とは別の神書があるということですか?」


 不安げなランテとマーニの表情に、シフレーは「あっ」という顔をした。


「そうか。原典の存在は知らないものな。順を追って説明しよう。実は、ダカポ教が生まれたのはオリージ国なんだ」


 今度はマーニが驚きの声をあげる。


「えぇっ、嘘ぉ? 先生、そんなこと全然言ってなかったよ!」


 シフレーは苦笑いした。


「それはそうさ。ダカポ教が広まってからすでに千年以上が経過している。その間に起こったたくさんの戦争や侵略で、起源がどこにあったかなどの記録はほとんど消失した。皆、神書の内容はよく知っていても、いつどこでどうやってダカポ教ができたかなど、知らないのさ」


「それなら、どうしてオリージ国で生まれたってわかるの?」


 マーニが口をとがらせる。ずっと親しんできたダカポ教に知らないことがあったのが、面白くないのだろう。


「そこで原典の存在だ。百年ほど前、オリージ国にある古代遺跡で見つかったんだ。八つの冊子からなるダカポ原書と呼ばれる書物だ。そして、その中にはっきりと書いてあるんだ。ダカポ教は、オリージ国で生まれたとな」


 マーニは不服そうだったが、納得したのか「ふぅん」とつぶやいた。


「でも、今の神書と原典の内容が違うってどういうこと? 同じ宗教なんだから、同じ内容じゃなきゃ困るんじゃないの?」


 唱の疑問に、YAMAが答えた。


「宗教は、広まっていく過程で解釈を変えて表現されることがある。それが繰り返されるうちに、内容が異なってしまうこともあるんだ。宗派がいくつもあったりするだろう?」


 シフレーがうなずいた。


「そういうことだ。もちろん、研究途中の段階だから、まだまだわからないことがたくさんある。興味があれば、またいずれ話そう。――さて、そろそろ私は戻る。では、また何かあれば呼んでくれ」


 そういうと、軽く手を上げ、シフレーは隊員達のところへ戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ