瞳と髪の色
「はぁ、けっこう何とかなった……」
疲れ果てて地面に座り込んでいる唱に、RYU-Jinが水筒を手渡す。
「お疲れ、ショウ! すごかったぜ。お前、マジでかなり進歩したな!」
「ホントホント! いっぺんに倒せる悪魔の数も倍以上になってたね」
「心なしか、射程距離も前より広くなっていたように見えたぞ」
「ショウ君はまさに“戦いの中で強くなるタイプ”ですね!」
口々にクリワに褒められ、唱は照れ臭くなりながら水を飲んだ。
「はは……ありがとうございます。でも、転んだ拍子に、腕章破れちゃいました。どうしましょう……」
「安心しろ。腕章は城で再発行してくれるはずだ。明日にでも行くと良いだろう」
YAMAに言われ、唱は安心して一息ついた。
ちらりと横を見ると、ランテとマーニが避難した村人たちに水を配ったり、ケガを手当てしている。
唱が見ていることに気づいたRYU-Jinが、ニヤリとして言った。
「あと、ランテちゃんとマーニちゃん、連れてきて良かったな」
「ランテちゃんすごかったね! おばあさん背負って、両脇に小さい子抱えて走ってたからビックリしたよ」
「しかもそれで何往復もしてましたよね。あんな華奢な感じなのにどこにあんな力が……って感じでしたね!」
唱は苦笑いした。
戦いの最中、TaiyoとKassyが悪魔をコントロールしていたとはいえ、ランテは的確に状況判断しながら住民を避難させていた。
おれの心配なんか無用だったなぁ。
改めて、ランテの有能さに舌を巻く唱であった。
村の見回りを終えたシフレー組が、戻ってきた。
「ショウよ、お疲れだったな。悪魔はもういないようだ。安心してくれ」
「ああ、シフレー。ホント、来てくれてありがとう。助かったよ」
唱はシフレーと握手した。
「いや、こちらにはお前やフオゴのように、悪魔を完全に倒す力のある者がいないからな。あまり役に立てずにすまない」
TaiyoとKassyが興奮気味に話す。
「全然そんなことないよ! やっぱ、悪魔を凍らせる力って便利だね。おれのはずっと歌ってないといけないからさ」
「悪魔を殴り倒す力もすごかったです! ゴリゴリのパワー系の力、メチャクチャかっこ良かったですね!」
「ん? ああ、レスティのことか?」
シフレーに言われて、十五歳頃の小柄な少女がひょこっと顔を出した。
「は、わわ……わ、私ですか? そんな、そんな、お恥ずかしいです……」
「レスティさんですね! 組決め試験の時と違って、ジャブ連打と強烈なカウンター一発と使い分けていましたよね? どうやってるんですか?」
「じゃ……? か、かうんた……? あ、えと、えと……声の大きさと歌の速度で、攻撃が、変わるんです」
「つまり、速い速度で歌うと連打で、大きな声で長く歌うと強い一発が決められるってことですか?」
「は、はい。そんな感じ、ですです……」
カッシーさん、だいぶテンション上がってんな。ジャブとかカウンターとか言っても、この世界の人にはわかんないだろうに。
子供のようにはしゃいだ様子を見せるタイヨウとカッシーを、唱はほほえましく眺めた。
唱たちとシフレー組とで健闘をたたえ合っていると、シフレー組の若い男性隊員が話しながら歩いてきた。
「えー、絶対、空にちかっと光るものが見えたんだけどなぁ」
「何言ってんだよ。星なんか見えるわけないだろ。お前疲れてんだよ……あ、シフレーさん、お疲れ様です。村中見て回りましたが、村人もここにいるのが全員と思われます。負傷者も他には見つかりませんでした」
「悪魔も全て片付いてますし、帰宅するように伝えましょうか。もう、夜も遅い時間ですから」
シフレーがうなずいた。
「うん、そうだな。小さい子供も多い。番地ごとに分けて集団帰宅させよう。隊員が必ずついていってやってくれ」
シフレーの指示で、隊員は皆、住民の手伝いのため移動していった。
面倒を見ていた住民たちが帰宅を始めたため、ランテとマーニが唱のところへ戻ってくる。
「ショウ様、お疲れ様でした。本当に大活躍でしたね」
「やっぱりショウ様はあたしが見込んだ通り、最強だね!」
マーニが大喜びで唱をほめそやしたので、唱は恥ずかしくなった。
「ちょ、やめてマーニ。そんな大げさな。おれ、別に最強じゃないし、ホントマジで……」
マーニはひとしきりはしゃいだ後、シフレーの方を見て言った。
「お姉さんが悪魔に歌ってた歌、“良い木こりと悪い木こり”だよね。あたし、この歌大好き! だから、なんか嬉しかった」
すると、シフレーは不思議そうな顔をした。
「お嬢ちゃん、この歌を知ってるのかい? どうして?」
今度は、マーニが驚いた顔をする。
「え? あたしが小さい頃から、お姉ちゃんが子守歌に歌ってくれてたよ。なんで? みんな知ってる歌じゃないの?」
「いや、この歌は今は亡きオリージ国に伝わる歌なんだ。コンセール王国では、一般的に知られている歌ではないはずだが……」
そして、はっと気づいたようにマーニの顔をまじまじと見た。
「お、お姉さん、何? あたしの顔になんかついてる?」
ぎょっとするマーニをよそに、シフレーは笑みを浮かべてうなずいた。
「その金髪に黄金色の瞳……そういうことか。お嬢ちゃんはもしかすると、歌呼かな?」
マーニはきょとんとした。
「……えっ? どうしてわかったの?」




