消える悪魔
あちこちで歌が歌われていた。
兵隊も鈴をジャンジャン鳴らしている。
それはまさに、四方八方から飛び込んでくる音の洪水だった。
「ひえー。ライブの爆音よりうるせえな」
「よその音に惑わされないように気を付けよう。よし、おれ達は左側から攻めるぞ。いつも通りの連携で攻撃する。タイヨウ、カッシー、悪魔が来たら止めてくれ。ショウ、特訓の成果を見せてやれ」
Taiyoを先頭に据え、その隣に唱、後ろにYAMAとRYU-Jin、最後尾にKassyの順で隊列を組んだ。
まず飛びかかってきたのは魚のような姿の悪魔だった。続けざまに、タコのような悪魔が細いアシを伸ばしてくる。Taiyoの歌で動きの止まった二匹の悪魔は、唱の歌で悲鳴を上げながら同時に消えて行った。
よし、大丈夫だ。こんな騒音の中でもちゃんとできてる。いけるぞ。
こんな騒音の中だが、YAMAとRYU-Jinの演奏する音を聞き分けて、歌えている。唱は、今までにない手ごたえを感じた。
しかし、同時に、討伐隊の実力について目の当たりにすることとなった。
討伐隊と言っても、作用系の力がある音楽騎士は数えるほどしかおらず、大半は彼らのフォローに回っている。だが、見事に統制が取れており、さすが、他国に遠征するだけの力があると言わざるを得ない。
騎士団長アイザッツは、率先して悪魔を蹴散らしている。彼が歌うと、悪魔は粉砕されて周囲はまるで黒い霧が立ち込めたようになった。
しかし、唱の目を引いたのは、アイザッツではなかった。
「あれが、ペルデンの“消滅の歌”……」
副団長ペルデンが、野太い声で軍歌を歌いながら、悪魔の中を練り歩いている。
不思議な力だった。彼が歌うと、悪魔がぱっと消えてしまうのだ。唱の力にも似ているが、ペルデンの場合は瞬間的に消えて何も残らない。
唱が見ている目の前で、ペルデンは、象のような悪魔と、巨大な人魚のような姿の悪魔を、次々にかき消していった。
すごいな……二人とも、悲鳴すら上げさせない。アイザッツさんもそうだけど即効性が高い。確かに、音楽騎士団長と副団長なだけあるな。
今までの唱なら、ここでまた自分の力と比較して落ち込んでいたことだろう。しかし、今の唱は、そんなことはしなかった。
おれの方が時間かかるかもしれないけど、仕方ない。それがおれの力なんだから。それより、おれは、この条件でどれだけたくさん悪魔を倒せるかに集中しなくちゃ。
そう気合を入れ直した時、冷やかすような声が飛んできた。
「はいはい、どいたどいた。フオゴさんの登場ですよ」
フオゴ組が背後からやってきて、唱たちを押しのけた。
「そんなちんたらやってたら、日が暮れちゃうって。ここは本物の討伐隊に任せて素人は引っ込んでな」
「ちっ。なんだよ、おめーら。いちいち失礼なやつだな」
「よせよ、リュウ。悪魔退治してくれるんなら助かるじゃないか。おれ達が選んだフオゴ組だ。お手並み拝見といこうぜ」
食って掛かったRYU-Jinを、YAMAが制止する。唱たちは後方に回った。
ヒューヒューという口笛と歓声が飛んでいる。
「フオゴさん! やっちゃってください!」
「放て、清き炎!」
「最強! 最強!」
仲間たちの声援を浴びながら歩いてきたフオゴは、舞い上がる様子もなく、相変わらず無表情に悪魔の前に立った。
神に祈りし、我が友よ。
あの讃美歌を歌うと、たちどころに周囲から紫色の炎が立ち上り、断末魔が響く。
フオゴは、淡々と向かってくる悪魔を倒し続けていった。
「すげえ。あいつ、あんなに強かったのか」
「あれだけの戦闘力があるなら討伐隊でも重宝されてるだろう。おれ達の人選は間違ってなかったな」
RYU-JinとYAMAが会話している横でフオゴの様子をじっと見ていた唱に、TaiyoとKassyが心配そうに声をかけてきた。
「ショウ。大丈夫だよ。悪魔を消滅させることができるってだけで、十分すごいんだから」
「そうですよ。ショウ君はショウ君です。また違った良さがあるんですよ」
「えっ? あ、いや、大丈夫です。前みたいに落ち込んでるわけじゃないんです。そりゃ、確かに攻撃力の差は歴然で、ちょっと叶わないなとは思いますけど……それより、フオゴの戦い方が気になって」
「あ、そうなんだ! びっくりしたぁ。で、何が気になるの?」
「フオゴ組ってあんなに人数いるのに、戦ってるの、フオゴだけなんですよね」
フオゴは大勢の仲間の先頭に一人立ち、ひたすら一人で戦い続けている。後ろの仲間はというと、ただ、やいやい歓声をあげているだけだ。
TaiyoとKassyは顔を見合わせて、バツが悪そうに言った。
「ああ……フオゴ組はね……性格的に荒っぽそうな子たち、ひとまず全部まとめちゃったから」
「他の隊だと問題起こしそうな人は、力関係なくフオゴ組にしちゃったんですよね。だから、あんまり役に立ってないのかもしれません……」
「ああ、そういう……」
ことなのだろうか? と唱は違和感を抱いた。
どちらかと言うと、フオゴが彼らを巻き込まんと、全てを自分一人で全てを背負って戦っているように見えた。そしてその背中には、どこか、悲壮な決意のようなものが感じられた
三十分後、ハルプ村の悪魔は全て殲滅された。




