音楽騎士の進軍
そして、十日が経った。
「よし、ショウ、行けっ!」
「はい!」
唱は勢いよく返事をすると、Taiyo、YAMA、RYU-Jinの演奏をバックに、バンドのボーカルよろしく『アクマタイジノウタ』を気分よく歌った。
ほどなくして、悪魔が三匹、光の粒となって消えた。
「やったぁ! 三匹同時に倒したよ!」
「すごい進歩じゃねーか。やったな、ショウ」
「ボイトレ頑張りましたもんね」
「時間を短縮するより数を増やした、ってことか。いい方向転換だな」
「あ、ありがとうございます」
クリワの四人に褒められ、唱ははじけそうな気持ちだった。皆、満足そうにうなずいている。
「あとは耐久力だな。この前みたいに長丁場の戦いになると、どうしても喉のコンディションをコントロールするスキルが必要になる」
「あ、そーだ、ショウ。これあげるよ」
「タイヨウさん、何ですかこの瓶? 飲み物ですか?」
「うん。この世界、喉メンテするグッズないから、おれが作ったの。オリジナル喉ドリンク!」
「へえ、それは効きそうですね。いただきます……うぉえええええ!」
「あっ、タイヨウさん、ショウ君に喉ドリンクあげちゃったんですか? ダメですよ。あれ、超絶苦くてタイヨウさん以外飲めないんですから」
「えっ、そーなの? そんなに苦いかなぁ」
「……タイヨウ、マジお前味覚どーなってんの?」
ひどい苦みに襲われながらも、唱の心は晴れやかだった。
結局、どんなに頑張っても、悪魔を倒すまでの時間を短くすることはできなかった。
しかし、唱は気づいたのだった。
悪魔を同時に何匹も倒せれば、結果的に時間を短くできるんだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
Kassyと話してから唱は思い立ち、TaiyoとKassyからボイストレーニングを受けたのだった。その結果、前より大きく声を出せるようになり、悪魔への攻撃力が増したのだった。
トレーニング積んでもっと声を出せるようになれば、更に数を増やせるかもしれないぞ。これなら戦える。
唱は密かに拳を握りしめ、水筒の水を飲んだ。すると、突然Taiyoが遠くを指さした。
「あれ? 向こうに大行列が見えない?」
つられて皆、指さされた方向を見る。
「おっ、あれ、光の巫女の神輿じゃねーか?」
「あ、本当だ。ってことは討伐隊ですね」
「そうか。遠征が終わって戻ってきたんだな」
丘の中腹を、何百人の兵隊と音楽騎士達が隊列を組んで進んでいる。その中央には、あの白い神輿が見えた。
YAMAがいぶかし気に言う。
「しかし、彼らはどこに向かってるんだ? 城の方向じゃないってことは、国内で何か一仕事あるってことか」
それを聞いたTaiyoが、ぱあっと笑顔になる。
「えっ、じゃあ今度こそ、光の巫女の歌聴けるかな。ねぇ、みんな、行ってみようよ!」
Taiyoの言葉に、唱は疑問を持った。
「あれ? 皆さんも光の巫女の歌は聴いたことないんですか?」
「はい。僕たちは討伐に参加しないので、聴く機会がないんです」
「そもそも討伐隊は国外遠征がほとんどで、国内であまり活動しないからな」
馬に乗った唱たちは、隊列の後方に回ってそうっと様子をうかがいながらついていった。
「あれ? 先輩じゃないっすか」
最後尾にいたのはフオゴ組だった。
「やあ、みんな。お疲れ! 初遠征どうだった?」
Taiyoが無邪気に聞くと、彼らはニヤニヤし始めた。
「どうも何も、そりゃ大変でしたよ。いいなぁ、仕事楽な人たちは」
「おれ達も着任してすぐだってのに、早々にガンガンやらされたよなぁ?」
「な? 最初はちょっとてこずりもしたけど、今やもう悪魔なんか大したことないよな」
「まぁ、ウチにはフオゴさんがいますからねぇ。早くも方々で大評判ですよ」
「先輩たちも、今度はご一緒にどうです? あ、ダメか、悪魔倒すのもままならないし」
口々に言うと、げらげらと笑いだした。
「なんだよ、こいつら。感じワリーな」
RYU-Jinがむっとした顔をする。
「あれだろ。デビュー直後でイキりたい時期なんだろ」
YAMAは取り合うこともせず、Taiyoにいたっては、後輩の失礼な態度に気づきもしていない様子だった。
「ねぇねぇ、これからどこ行くの? もしかして、この辺で仕事?」
Taiyoの質問に、バカにしたような声が返ってくる。
「そうですよ。おれら忙しいんでね。これからハルプ村で悪魔討伐ですわ」
「やっぱり! 光の巫女も歌うかな? おれ達もついてっていい?」
また、嫌な笑い声が響く。
「ま、いいでしょうけど、足手まといにだけはなんないでくださいよ」
「下手なことやられると、フオゴ組の評判下がっちゃいますからね」
「大丈夫! なんない、なんない! じゃあみんな、行こう!」
うきうきと馬を進めるTaiyoを見て、唱とYAMAは小声で会話した。
「タイヨウさん、なんという強メンタル……」
「ああ、最強だ。マウントも気づかなければノーダメージだ」
隊列が向かう先に、深い山林を背にした小さな村が見えた。




