表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/117

昔話のグルーヴ

 僕がクリワに加入……いえ、その時は名前が決まっていなかったので、リュウさん、タイヨウさん、ヤマさんと一緒にバンドをやり始めたのは、僕が高1の時、三人が高2の時だったんです。


 僕ら、全員同じ高校出身なんですよ。その中でもリュウさんは、僕の兄と小学校時代からの友達だったので、よくうちにも来ていて顔見知りでした。


 その年の秋、あと一か月くらいで学園祭って頃、学校終わって帰ろうと思ったら、突然リュウさんが目の前に現れてね。


 あの見た目でしょ。怖かったから、うちに来ててもほとんど近づかなかったくらいだったので、もうぎょっとしちゃって。それで「ちょっと来いよ」なんて言われたもんだから、もう人生終わったって思いましたよね。


 で、連れていかれたのが軽音部の部室だったんです。


 はい、そうなんです。僕ら、軽音部から始まったんですよ。


 あ、音楽経験? 僕はその時まで全くなかったです。カラオケすら、行ったことなかったですし。これはまぁ、一緒に行く友達がいなかったっていうのもあるんですけど。だから、なぜ自分が軽音部に連れ込まれたのかワケわかんなくて。


 そしたらですよ。リュウさん、僕にこう言ったんです。


「おれ達、今度の学祭のライブで演奏すんだけど、お前、二曲ほどラップボーカルとして出てくれ」って。


 ね? 無茶ぶりにもほどがありますよね!


 当然、「無理です! できないです! なんで僕なんですか!」って全力で断ったんですが、理由がこれまたひどくて。


「この二曲、英語の高速ラップがあんだよ。おれ達じゃできなくってさ。で、お前の兄ちゃんに相談したら『おれの弟、早口だし、英会話習ってるからいけんじゃね?』って言うからさ。大丈夫、大丈夫、それなら何とかなるって」


 無茶苦茶ですよ。ラップって早口だからできるものじゃないんです。しかも、むしろ早口はコンプレックスだったんで、正直、あまり人前で話すのも嫌だったんですよ、当時。


 でも、その時の僕には説明することもできなくて、ブルブル震えながら歌詞カード受け取るのが精いっぱいでした。


 そして更なる無茶ぶり。


「でさぁ、もう時間なくってさぁ。悪いけど、この二つ、明日までに一通り覚えて来てくれ。んじゃ、よろしく」


 無理ゲーですよね! なんですけど、幸か不幸か、実はこの二曲、両方ともアニメの主題歌になってたんで、僕もよく知ってる曲だったんです。


 その日は家帰ってからずっと二曲リピートしまくって必死に覚えました。テスト前だってこんなに必死になったことなかったです。


 結果ですか? 努力の甲斐あってというか、学祭は何とか乗り切れたんです。

話によると、軽音部史上一番盛り上がったライブだったそうで。僕も胸をなでおろして、これで怒られることなく終りにできたと思ったんですが、ここで意外な方向に話が進んじゃいましてね。


 学祭の翌日、またしても帰り際にリュウさんが現れて、

「おい、カッシー。おれ達、ライブハウスでライブできることになったぞ。来月だ。早速練習始めんぞ!」

とか言われて。もう、衝撃でしたよ。


 どうも、学祭に軽音部のOBで音楽関係の仕事してる人が来てて、たまたまイベントに参加するバンドが足りなくて探していたそうなんです。


 僕の意思とは無関係に、リュウさん達の頭の中では僕もメンバーにされてまして。断るタイミングもつかめないまま流されて必死にやってるうちに、いつの間にかデビューしていたっていうのが僕のクリワ加入の真相です。


 * * *


 そこまで聞いてから、唱は一つの疑問を口にした。


「無理やりやらされたことは、怒ってないんですか?」


 Kassyはにっこりと首を振る。


「最初こそ理不尽さに嘆きもしましたが、今はリュウさんに感謝してます。あの時、部室に連れ込んでくれたから、こんな僕でもみんなに喜んでもらえる人生をおくれてる。コンプレックスだった早口も、今は武器になってる。クリワになって、自分を少し認めることができるようになったんです。本当、人生って何がどうなるかわからないものですね」


 唱ははっとした。自分は何か、重大な勘違いをしていたのではないかと、唐突に思った。


 にこやかにKassyは続ける。


「あ、ちなみに名前もこの時に決めたんですよ。イベント参加のために、急きょ名前考えようってなって。ちょうど、メンバー全員同じ建国ゲームにはまってたので“Create the World”って。単純ですよね」


 並んで座る二人の頬を、風がさらさらと通り抜けた。遠くでは、RYU-Jinが手を振っている。


「おーい。そろそろ特訓再開するぞー!」


 立ち上がったKassyは、大きく手を振り返し、そして唱に向かって言った。


「ショウ君。弱点や短所なんて、その人のただの特徴の一つに過ぎないんですよ。それを他の強みとかでカバーすることもできれば、逆に大きな武器に変えることもできる。どう料理するかは自分次第。あまり弱点にとらわれ過ぎないようにね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ