音楽騎士のエチュード
ふわぁ、と唱は大あくびをした。
昨晩は、ショックでほとんど眠れなかった。せっかくクリワに食事にも誘ってもらったが、あんな出来事の後では楽しい気分になれず、皆、どこか大人しかった。
本当に、この国のために音楽騎士とかやってていいのかって気になってきちゃったよな……
そんなことを思いながら、クリワとの特訓場所までカルを走らせた。
「聴いて! ショウのための必殺ソング、第一弾ができたよ!」
唱がカルから降りるなり、Taiyoがニコニコ顔で声をかけてきた。クリワの四人は、変わらず元気そうだ。
「えっ? 昨日の夜に作ったってことですか?」
唱が驚くと、RYU-Jinがニヤリとする。
「当り前だろ。うちのTaiyoなら余裕だぜ?」
Taiyoは草むらに胡坐をかいて、ビワギターを構えた。
「『遠くへ』と似たフレーズで作ってみたよ。関係あるのかがわかんなかったから、歌詞は適当ね。ここは、悪魔の反応みながら調整していこう。それじゃいくよ」
そしてTaiyoは指でビワギターの弦を弾くと、歌いだした。
うわ、すげぇ。クリワの新曲、今、おれが世界で一番最初に聴いてる……!
曲の良し悪しというよりも、一ファンである唱は、まずそこに感動していた。
Taiyoの言う通り、確かに『遠くへ』のサビを彷彿とさせるメロディが繰り返されている。しかし、リズムや構成が違うことで、全く別の曲になっていた。
それに何より、すこぶるカッコいい曲だった。
こんなカッコいい曲を、クリワがおれのために……?
唱は感動と興奮で震えていた。
「――って感じ! 以上、『アクマタイジノウタ』でした。どう、ショウ。覚えた?」
「えっ? いやあの、えっと……」
まさか、感動して曲自体の記憶がほとんどないとは言えず慌てていると、YAMA達がフォローしてくれた。
「あのな、タイヨウ。お前と違って、普通の人は、一回聴いたくらいじゃ曲覚えられないんだよ」
「全く、これだから天才は……それになんだよ、そのタイトル。まんまじゃねーか!」
「タイヨウさん、僕も覚えられなかったです。もう一回お願いします」
Taiyoは「そっかー、ごめんごめん」と、再び歌ってくれた。今度は、唱もなるべく覚えようと必死に聴いた。
結局、その後、五回ほど聴いたところで、やっと一通りメロディを追うことができるようになった。
「よし。早速、悪魔で試してみよう。森に行くよ!」
Taiyoはうずうずした調子で言う。まるで、遊園地に行くのを待ちきれない子供のようだ。
「ちょっと待て、気が早くねーか?」
「悪魔を相手にするなら、もう少し歌を練習してからの方が……」
さすがにRYU-JinとKassyも異を唱えると、Taiyoはあっけらかんと言う。
「だって、今の曲がいいかどうかもわかんないでしょ? まずは悪魔の反応見て、それからブラッシュアップしていく方が、無駄が少ないんじゃない?」
「まぁ、そう言われればそうだが……ショウ、お前はどうだ? 一度やってみるか?」
少し悩んだが、唱は心を決めた。
「タイヨウさんの言う通り、一度、悪魔で試してみたいと思います。うまくいかなかった時は、すみませんが、フォローよろしくお願いします」
唱の言葉を聞いたTaiyoとRYU-Jinが、嬉しそうに言う。
「よーし! ショウ、頑張ろうね!」
「よしよし、ちゃんとチームに頼れるようになったな。それでこそ、クリワの一員だ」
唱はほっとして、ふと頭によぎった名案を口にした。
「そうだ。それと、おれも色々考えてみたんですよ。効くのが遅いんなら、悪魔を見つける前からずっと歌い続けてたらどうかなって。――あ、おれがずっと歌いっぱなしだと迷惑かもしれないんですけど……」
それを聞いたクリワは、顔を見合わせる。そして、YAMAが神妙な顔つきで言った。
「悪いが、ショウ。それは止めた方がいい」
彼らの反応に、わかっていたつもりだったが、唱は少しショックを受けた。
「あっ。やっぱりおれの歌、ずっと聞いてるのってツライですよね……す、すみません、変な提案して……」
すると、四人が慌てる。
「あ、違うって。オマエ、今絶対誤解してる!」
「違いますよ、ショウ君! 君の歌が嫌とかそういうんじゃなくて」
「そうだよ、ショウ。ちゃんと理由があるんだよ!」
「すまん。ちゃんと説明してなかったよな。よし、わかった。まずはその説明からだ。一度、城に行くぞ」
そう言って四人は馬に乗り始めた。
「えっ? 今の話と城と、何の関係が?」
話の意図がつかめず困惑しながら、唱も慌ててカルの背に乗った。




