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哀れな一家

「特訓初日、どうだった?」


 城下町の人通りを歩きながら、Taiyoがにこやかに唱に声をかけてくる。


「いやあの……べ、勉強になりました……」


 特訓が終わり、オルケスに戻ってきてからも、唱はまだ悶々としていた。丸まった背中を、RYU-Jinにドーンと叩かれる。


「そーんな顔すんなって。まだ一日目だぜ? 気楽にいこうって。よし、じゃあ今日はショウの歓迎会といくか」


 RYU-Jinの提案に、Taiyoが大喜びする。


「わーい! じゃ、モリモリ食堂行こうよ。あそこの鶏煮込み、美味しいから」

「そういえば、ショウ君はまだ未成年ですか?」

「あ、はい。十九歳になったばかりです」

「じゃあ、酒はダメか。残念だな。あそこはビールもうまいんだが」


 わいわいと商店街を進んでいくうちに、中央通りがざわざわと騒がしいことに気づいた。


「あれ? また何かあるんですかね。光の巫女は行ったばかりだし……」


 中央通りまで出ると、城の前の広場に人が集まっていることがわかった。


 広場の真ん中には、木でできた舞台のようなものが設置されている。舞台の前には、木の柱が左右、そして上に一本、枠のようにくっついていた。


 そこに役人の服を着た男が一人立った。


「それでは、これより処刑を始める。罪状は国家反逆罪。この者は、根も葉もない虚言でコンセール王国と国王マイスター様を侮辱した。故に、国家反逆罪として絞首刑に処す。国家反逆罪であるからして、その家族も同罪とみなし、同時に処刑する」


 男の話が終わると、続けて、縄で縛られた三人の人間が、兵隊に引っ立てられながらやってきた。


「待ってくれ。虚言などではないんだ。原典にある通りなんだ。この悪魔騒ぎは陰謀だ。このままだと、世界は本当に破滅してしまう」


 死刑囚の一人は中年の男性だった。髪は乱れ、髭もぼうぼうと生えていたが、目だけがらんらんとし、必死に目の前の大衆に訴えかけているようだった。


「ありゃ、新聞記者だろ? この前、国益のために悪魔が故意に生み出されているって記事書いたやつ」

「バカなこと言うよなぁ。だったら、わざわざ討伐隊なんて作るかよ。税金いくらかかってると思ってるんだ」

「討伐の見返りもらってたとしても、それくらい当然だよな。何が国益のためだよ」


 唱の周りからは、そんな声が聞こえてきた。


 男の隣には、中年の女性と、十四、五歳頃の少年が並んで立っていた。妻と息子なのだろう。


 女性はずっとうつむいていた。少年は顔を上げていたが、どこか諦観したような表情だった。


 目の前の光景に、唱が言葉を失っていると、RYU-Jinが声を漏らした。


「ひでぇことするよな……本当に胸糞悪いぜ」


「リュウ、あまり大きな声で言わない方がいい。どこで役人が聞いてるかわからないぞ」


「ヤマさん、それってどういうことですか? おれ達も捕まる可能性があるってことですか?」


「ああ。この国は、不敬を行うことに対して非常に厳しい処罰をしている。国や国王に対して利にならないようなことを行うのはもちろん、批判するようなことを言っても国家反逆罪となる。気を付けた方がいい」


 唱の質問に、YAMAは声を潜めて答えた。唱は納得できずに、なおも続けた。


「そんな……言っただけで、死刑になっちゃうんですか? それも、家族まで一緒に? 無茶苦茶な……」


 YAMAが口の前で人差し指を一本立てる。


「ショウ、そこまでにしておけ。可哀想だが、おれ達がここで何を言ったところで何の解決にもならないんだ」


 処刑台の上で、男はずっと叫んでいたが、ついにさるぐつわをはめられた。哀れなその一家の首には縄がかけられ、彼らは処刑台に立たされた。縄は、上部の柱に結びついている。兵隊が三人、それぞれ死刑囚の背後に立ち、棒を構える。


 役人がさっと手を上げた。


 唱は目を背ける。


 観衆が湧く声と拍手、それと同時に、大きな鐘の音が鳴り響いた。


 ゴォォォオオオオオオン! ゴォォォオオオオオオン! ゴォォォオオオオーーン……


 はっとして、音のした方向を見る。


 処刑台の向こうにそびえる城の中、ひと際古びた塔の上に、大きな鐘があった。それが、今、鳴らされたのだ。


 呆然と見ている唱に、YAMAが低い声で説明する。


「あの塔は監獄塔というそうだ。その名の通り、監獄として使われていた塔だ。昔火事があったらしくて、今は使っていないというが、あの鐘だけ、こうやって処刑があった時に鳴らされる。死者一人につき一回な」


 鐘を鳴らすのは鎮魂のためだろうか。せめてそうであってほしい。


 暗い空の下、不気味にたたずむ塔と鐘を唱は見つめた。宙にぶら下がる人の体が三つ、視界の端に映った。


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