歌の力
森を出たところで、YAMAは一冊の手帳を取り出した。
「音楽騎士の力を、おれ達はこう分類してる。組決めのときも、これを使って相性を考えた。この図を見てくれ」
そこには、十字を切るように、縦の線と横の線が書かれていた。
「まず横軸は、悪魔に何らか影響を与えられるかを見る軸。右側は、悪魔に直接影響を与える“作用系”。つまり、ショウ、タイヨウ、カッシーみたいな力だ」
「当然、フオゴやアイザッツさんもそうってことですよね」
「もちろんだ。シフレーやペザン、ペルデンさんも含まれる。“悪魔に攻撃できる”と言い換えた方がわかりやすいかもな。逆に左側は“非作用系”。悪魔に影響を与えない力だ」
「悪魔に影響を与えない力って……なんですか?」
「組決め試験の時、実技試験を行わなかった奴らがいただろ。例えば、歌っている時に悪魔の居場所がわかる、みたいな力だな」
「さっき、タイヨウさん、後ろ向いたままなのに悪魔がいるのかわかってましたよね。あれもですか?」
「ううん。あれは歌の力じゃないんだ。おれ、子供の頃から“視える人”だったから、第六感的な方じゃないかなぁ」
「うん、タイヨウのその力はちょっと例外なんで、ここでは言及しない。ショウ、まずここまではいいか?」
唱がうなずくと、YAMAが説明を続ける。
「では今度は縦軸にいくぞ。これは時間の軸だ。歌い始めてからどのくらいで力の効果が現れるか、ということを見ている。上は、歌い始めてすぐ効果が出る“即効性”。例えば、タイヨウの力なんかは即効性が高い。反対に、下は時間がかかる“遅効性”だ」
言いながらYAMAは、右側の一番下に唱の名前を書き入れた。
「軸が下に行くほど時間がかかるということだ。ショウの力は、この縦軸の下の方に位置する」
「えっ、おれ、もしかしてめちゃくちゃ遅い……?」
「そうだな。今まで見てきた音楽騎士の中では、一番遅い部類に入る。」
「でも、『森のくまさん』より『遠くへ』の方が速く効き目が表れましたよ。もしかしたら、もっと効果のある必殺ソングがあるのかも……」
うーん、とYAMAがうなる。
「確かに、曲を変えれば速度が上がる可能性はあると思う。だが、フオゴみたいに歌って即効果が出るようになるのは、正直難しいとおれは見てる」
RYU-JinとKassyも気の毒そうな顔をした。
「おれ達もけっこう色んな音楽騎士の力を見てきたけどな、即効性の力がある音楽騎士は、多少の違いはあっても、大体、何の歌でも十秒以内で決められるんだよ」
「『遠くへ』のサビにかかるまで、二十秒くらいありますからね。ショウ君の力は、元々少し時間がかかる性質の力なんだと思いますよ」
唱は、YAMAの手帳をじっと見つめた。
二本の線で区切られた四つの枠の中には、たくさんの名前が書かれている。
縦軸の右側には、それほど多くの名前が書かれているわけではない。それだけ、作用系、つまり悪魔に攻撃できる音楽騎士が少ないということだろう。
右上の枠には、最上位にTaiyo、その下にKassyの名前があった。アイザッツ、ペルデンは真中辺り。枠内の下の方だがペザンの名前もある。唱と同じ右下の枠にはシフレーがいた。
唱の名前は、最も右側の、最も下に書かれている。
そして、唱と反対の位置、つまり、最も右側で一番上に書かれているのはフオゴだった。
ショックだった。フオゴの力を見せつけられてから、唱も、訓練すればいつかはあんな風に素早く悪魔をやっつけられるようになるだろうと思い込んでいたからだ。まさか、力の特性でそれが叶わないとは思っていなかった。
やっぱり、おれの力って大したことないんじゃ……
落ち込んでいると、そんな唱の考えを見透かしたように、Taiyoが言った。
「大丈夫。ショウの力がすごいことはみんなわかってるよ。でも、一人で全部背負おうとしないで。チームなんだからさ」
「だって、悪魔を倒すことができるのは、この中じゃおれだけなんですよ。おれの力が弱いばっかりに、皆さんを危険にさらすことになってしまったら……」
肩を落としながら唱が言うと、クリワ四人が顔を見合わせて吹き出した。
「なっ……なんで笑うんですか! おれ、真剣に悩んでるのに……」
憤慨した唱を、RYU-Jinが笑い飛ばす。
「ばーか。おれ達が、お前に悪魔退治全部任せるとでも思ってんのか? 大した自信じゃねぇか」
意味がわからず、唱がきょとんとしていると、Taiyoがにっこり微笑んだ。
「バンドは一人じゃできないでしょ。それと同じこと。色んな力のある人が集まるから、何か大きなことができるんだ。おれ達みんなで力を合わせて、悪魔をやっつけようよ」




