自己紹介その2
Kassyがラップを始めると、同時にTaiyoが歌うのを止めた。
その途端、悪魔が羽をゆっくりと動かし始める。
「わぁっ、やばい! 悪魔、動き出しちゃいましたよ! やっつけなきゃ」
唱が慌てて歌いだそうとすると、Taiyoがにっこりしながらぽんと唱の肩をたたいた。
「大丈夫。見てて」
悪魔は、広げた両翼をゆっくりとたたんだ。そして、Kassyのラップに合わせるように、短い足でちょこちょこと歩き出したのだ。
唱は、ぽかんとして言った。
「……あれ、どういうことですか?」
「カッシーのラップは“操作の歌”――あ、“操作のラップ”かな」
Taiyoが言うと、YAMAが説明を引き取る。
「ラップの歌詞によって、悪魔の動きを操るんだ。今は前進、あ、動きを止めたな。そして今度は後退させてる。悪魔の形状によっては複雑な動きができないこともあるが、好きな方向に動かすことは共通してできる」
「おれの力の上位互換だね」
Taiyoがニコニコしながら言うと、RYU-Jinが首を振る。
「何言ってんだ。お前の力だって十分だろ。一瞬で効果出るし、射程距離広いじゃねーか」
「あ、カッシーさんの方が、射程距離が狭いってことですか?」
「そうだ、カッシーの射程距離はタイヨウの半分くらいで、後ろを向いたままだと効果が薄い。そして、同時に操作できる悪魔の数は最大三匹くらいだ。大きいのになると、一匹しか操れないこともある。射程距離の話にも通ずるが、おそらく、歌の力によって悪魔に影響を及ぼせる制限があるんだと思う」
「それと、タイヨウにはもう一つすげぇ点がある。こいつは珍しいことに、何歌ってもいいんだ」
「何歌ってもいい?」
「お前もそうだろうけどさ、普通、効果の出やすい歌と出にくい歌があるだろ。だから、たいていの音楽騎士は、必殺ソングを決めて歌う。けど、タイヨウは違う。何歌っても効果が変わらねぇんだ」
「へぇ。さすがタイヨウさんですね。やっぱりプロのミュージシャンだからですかね!」
唱が改めて感心していると、クリワの三人がニヤリとした。
「さぁて、それじゃあ、真打登場といくか」
「わぁい! 楽しみ!」
「あのムササビ悪魔、倒さなくちゃなんねーからな」
「え? 真打って……まさか、おれのことですか?」
三人は一斉にうなずくと、悪魔に呼びかけるように言った。
「それでは次の曲、聴いてください。『遠くへ』!」
ええーーっ!
まるで、勝手にカラオケに曲を入れられたかのようだ。突然すぎる振りにパニックになりつつも、状況的に歌わざるを得ない。
唱は頑張った。憧れのクリワに少しでもできるやつだと思われたくて、今まで以上に声を張り上げた。
「あれ? 試験の時は、この辺で効果出てた頃だよな」
RYU-Jinが不思議そうに言うと、YAMAも首をかしげる。
「ああ、結構時間がかかってるな」
そんな会話を耳にして、唱はますます焦った。ただでさえ外れている音程が、どんどん外れていく。
その時、ムササビが羽をバッと広げ、唱に覆いかぶさろうとした。YAMAの声が飛ぶ。
「やばい! タイヨウ、カッシー!」
「はい!」「りょうかーい」
Taiyoの歌で、ムササビは再び羽の動きを止め、Kassyのラップでまた羽を閉じた。YAMAがほっとした顔をする。
「ふぅ、危なかったな。そろそろサビが終わる頃か」
――キィィィィィィィ……
「おっ。効果出てきたんじゃないの?」
RYU-Jinの言う通り、ムササビ悪魔はキラキラと光り出し、ようやく消えていった。
唱は、地面にがっくりと座り込んだ。
「お疲れ。大変だったね」
Taiyoが笑顔で肩をぽんぽんと叩く。
「なんか……すみません。結局、タイヨウさんとカッシーさんがいないと悪魔を倒すこともできなくて……」
しかし、YAMAは嬉しそうだった。
「これで仮説が立てられるな。ショウの場合、悪魔の大きさや形状など、何らかの条件によって、歌の効き目が違うってことだ」
「そんなことがわかって、何か役に立つんですか?」
「もちろんだ。出てきた悪魔に対して、どう戦うのが最も効率的か、考えられるだろ」
「いや、でも……おれが力を磨いて、フオゴみたいに、速攻で悪魔に攻撃できるようになれば良いだけなんじゃないかと思うんですが……」
YAMAは大きく首を振った。
「いや、必ずしもそれができるとは限らない。ショウの力の場合、悪魔を倒すには、一定の時間が必要になる可能性もあるんだ」
「えっ、そんな……」
あっさりと目標を否定され、ガーンとショックを受ける唱に、YAMAは慰めるように言った。
「別に速いからいいってものでもない。おれ達は、何人もの音楽騎士の力を見てきて、考え付いたことがあるんだ。説明するよ。じゃあ、ひとまず森を出よう」




