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自己紹介その1

 翌日、唱たちは、オルケスから三十分ほど馬で移動した先にある深々とした森にやってきていた。ここで唱の修行が始まるのだ。


 ちなみに、問題だった乗馬も、今やカルもすっかり唱に慣れて、ランテのフォロー無しでも乗れるようになっていた。


「さて、お前の力を見せてもらう前に、おれ達の自己紹介もちゃんとしなくちゃな」


 YAMAの言葉に、唱は目を輝かせる。


「自己紹介? 皆さんの力を見せてくれるってことですか?」


 馬を下りたRYU-Jinが、馬の背に乗せていた太鼓のような楽器を背負いながら言う。


「と言っても、歌の力があるのは、タイヨウとカッシーだけなんだけどな」

「あれ? じゃあ、リュウさんとヤマさんは何するんですか?」

「おれ達はフォローだよ。二人の力が最大限発揮できるよう演奏すんだ。――ま、いつもと変わんねーな」

「神事に使う神音器という楽器を借りてる。多少、歌の効力を上げるっていう話だが、ほとんど気持ちの問題ってところだな」


 TaiyoとYAMAも背中にギター状のものを背負っている。


「えー? おれはやっぱり演奏あった方が効果ある気がするよ!」

「そうですよね。リズム取りやすいし、やっぱり効力あると思います」


 ボーカル二人の言うことを聞いているうちに、唱は教会で聞いた話を思い出した。


「神音器……もしかして、歌呼が天使を降ろす時に使う楽器のことですかね?」


 唱の言葉に、Taiyoがにっこりとうなずく。


「そう! ショウ、よく知ってるね」


 三人は、唱に、自分の楽器を次々に見せ出した。


「それなら話が速いな。いくつか種類があるんだが、幸いにも、元々やってた楽器に近いものがあったんで、みんなそれを使ってる。 おれは、このアルパルっていうネックがついた小さい琴みたいな楽器を使ってる。音の感じがベースに近いんだ」

「おれはこれ。ビワギター! ほら、琵琶の形に似てるでしょ。本当の名前は……なんだっけ?」

「ラキタじゃなかったか? おれはこの太鼓。タブっていうんだが、こうやって小脇や頭の横に抱えてバチで叩くんだ」


「へえ。ちゃんとバンドの編成ですね」


 唱が感心すると、YAMAがうなずく。


「まぁ、異世界だろうが何だろうが、音楽の基本がリズムとメロディとハーモニーなのは共通ってことだろう」


 準備ができると、Taiyoが元気よく号令をかけた。


「それじゃあ、悪魔退治に出発!」


 唱たちはうっそうとした森の中に入った。


 真っ暗闇の森の中、五つのランタンの光だけがぼうっと動いている。


 唱は落ち着きなく、キョロキョロと周囲を見回した。ランテとコモードが襲われたあの時のように、いつ悪魔に襲われるかわからない恐怖がある。気を紛らわそうと、つい口が開いた。


「クリワさんは、いつもこの森で修行してるんですか?」


 唐突な唱の質問に彼らは快く答えてくれた。


「ああ、そうだな。音楽騎士になってからは、とにかくはやく一人前にならなきゃと思って、毎日ここで特訓してたよ。何せ、おれ達が音楽騎士になったのも偶然だったからな」


「そうそう。おれ達はオルケスの町中に転移したんだけど、当てもなくフラついてたら、たまたま歌のイベントやってんの見つけてさ」


「歌のイベントだと思ってたのが、音楽騎士の一次募集試験だったんですよね。で、参加してみたら、タイヨウさんと僕が合格したんです」


「でも、国が大変なことになってるって話聞いたから、それならおれ達も頑張らなくっちゃ、って思ってさ!」


「本来なら、リュウとおれは音楽騎士になれないんだろうが、その時は人数が少なかったし、タイヨウとカッシーが四人一緒じゃないと本領発揮できないって談判してくれたんで、おれ達も音楽騎士になれたってわけだ」


 そんなことを話しながら、十分ほど歩いた頃だろうか。先頭を歩いていたTaiyoが足を止め、大きな声で歌いだした。


 あ、この曲、『空から』だっけ。好きなやつ。


 などと思っていると、前にいるYAMAが怖い顔で言った。


「ショウ。後ろを振り返らずにこっちへ来い。早く」

「えっ? ななな、何ですか?」


 面食らいながらYAMAの言われた通りにする。


 距離をとってから振り返ると、まるで覆いかぶさる布のように、巨大なムササビの形をした悪魔が羽を広げていた。


「うわ! 悪魔! ……あれ、でも動かない……あ、そうか」


 広がった羽がぴたっと動かないのを見て、唱は思い出した。YAMAとRYU-Jinが口々に言う。


「そうだ。タイヨウの歌は、“静止の歌”だ」

「タイヨウが歌っている間は、どんな悪魔でも動けねー。しかも一瞬で効くんだ」


 組決め試験の時にシフレーが悪魔を凍らせていたが、Taiyoの方もすごい。


「今、タイヨウさん、後ろ向いたままでしたよね。それでも効くんですか」

「ああ、タイヨウの歌の射程距離は約半径三メートル。その範囲内にいる悪魔であれば、基本的には動きを止められる」

「射程距離……?」


 意外な言葉に思わず聞き返すと、YAMAがうなずいた。


「おれ達が調べてきた限りでは、おそらく、歌の力によって、悪魔に影響を及ぼす範囲、すなわち射程距離があるようなんだ」


 なるほど。と唱は思った。なかなか悪魔が倒せなかったとき、もしかしたら射程距離の問題があったのかもしれない。


「ところで、タイヨウさん、後ろ向いたままでよく悪魔が出たのがわかりましたね。これも歌の力ですか?」


 ふと疑問に思って聞くと、RYU-Jinがニヤリとした。


「それは、あいつの天賦の才ってやつだな。何となくわかるんだと」


 なぜか、RYU-JinはTaiyoの話になるとやけに嬉しそうである。


「さて、お次はこっちかな」


 YAMAがちらりと振り返ると、Kassyがうなずいて悪魔の前に出た。


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