はじまりの夜
「……というわけで、地方ライブ連チャン、合間に東京戻ってレコーディングっちゅう鬼スケジュールの最中に、スタジオのドアあけたら、なぜか四人そろってこの世界に来てたのよ」
どうしてクリワがこの世界に来ているのか、という唱の質問に対し、RYU-Jinが肩をすくめながら答えた。
試験が終わり、唱はマーニ、ランテと共に宿に戻った。そして、クリワも唱たちの宿についてきたというわけだった。
RYU-Jinの言葉にYAMAが続ける。
「ショウの話も総合すると、おれ達は過労でフラフラ、唱は頭を強打。共通項は両方とも意識朦朧状態だったということだ。何らかの理由でこちらの世界とおれ達の意識状態がリンクし、転生――いや、転移か? してしまったってことだろうな。うん、一つ疑問が解けた」
「はあ、なるほど……そうすると、おれ達って元の世界に戻れるんですかね?」
RYU-JinとYAMAが顔を見合わせる。
「どうだろうな……おれ達はともかく、唱は頭を打ってるしな。この世界に来た原理も解明できてないから帰ることができるかは未知数だ。あまり期待はしない方がいいかもな」
最悪の事態を薄々予想はしていたが、改めてショックを受ける唱だった。
「でも、クリワさんはそれで大丈夫なんですか? お仕事は……?」
クリワは人気者だ。スケジュールもいっぱいで、さぞかし不安も多いだろうと思いきや、RYU-JinとYAMAはいたってのんきだった。
「大丈夫かって言われたら大丈夫じゃないんだが、こればっかりはどうしようもないしな」
「ま、おれ達は与えられた状況をめいっぱい楽しむってのがモットーなんで。わはは」
いや、この状況は楽しむべき状況と違うでしょ。
心の中で突っ込みつつも、さすが大物と感心する唱であった。
三人で会話していると、部屋の入り口がふいに騒がしくなった。
「ただいま! 夕ごはん買ってきたよ!」
「すみません、タイヨウさん、カッシーさん。荷物を持っていただいてしまって……」
「全然大丈夫ですよ。こちらこそ、夕食ご一緒させていただいちゃってすみません」
買い物から帰ってきたランテ達を見るなり、RYU-Jinが嬉しそうに立ち上がる。
「うわ、待ってた待ってた! すっげー腹減ってたんだよ。さ、早いとこ飯にしようぜ!」
そう言って近づいてくるRYU-Jinを見たランテが、顔を引きつらせて後ずさった。
「もう、ランテちゃん。さっきはごめんって。もう変なこと言わないからさ。ね?」
RYU-Jinが困ったように話しかけるが、ランテはRYU-Jinへの警戒モード全開だ。
「リュウ、自業自得だ。まったく、美人見るたび口説きやがって。ランテちゃん、こいつのこと、無視してていいから」
YAMAが冷ややかに言い、唱も思いっきりうなずいた。
クリワにランテとマーニを紹介した時、RYU-Jinはランテを見るなり目を輝かせたのだ。
「うっわ、ショウ。なんだよお前。何、可愛い彼女とか作っちゃってんだよ」
「な、何言ってんですか! 彼女なわけないでしょ。おれ、馬が乗れないので道中フォローしてもらってただけですよ」
「まじか? じゃ、問題ねーな。――ね、ね。めっちゃ可愛いよね。ランテちゃんはいくつなの? 後でちょっと酒でも飲みにいかない? いい店あるんだ」
突然なれなれしく話しかけられたランテは面食らって固まり、唱はRYU-Jinのあまりの軽さに憤慨した。
YAMAが呆れながら、
「いい加減にしろ!」
とRYU-Jinをどついた時、唱も思わず一緒にどついた程だった。
しかし、唱以上にランテは怒っているようで、RYU-Jinとは常に距離を取っているのだった。
ベッドを椅子代わりに移動させ、七人での夕食会が始まった。もちろん、ランテはRYU-Jinと最も離れた位置にいる。
「よし、ショウ。明日は早速、森で悪魔退治してみるか」
「ぐふっ、い、いきなりですか?」
唐突にYAMAに言われ、唱はのどに食べ物を詰まらせそうになった。
「そうだな。試験のあんなネズミ悪魔じゃ全然実力わかんなかったからな。まずはお手並み拝見させてもらうぜ」
「早く必殺ソングも作りたいしね!」
「ショウ君、楽しみにしていますよ!」
次々にクリワが言い、正面に座っていたランテもにっこりした。
「ショウ様。いよいよお仕事ですわね。お体に気を付けて頑張ってくださいね」
「は、はあ……」
苦笑いしながら、唱は、ランテの隣で大人しくしているマーニをちらりと見やる。
いつもだったら、ここで「ショウ様頑張って!」などと声を上げるマーニだったが、今は心ここにあらずといった感じで機械的にパンをかじっている。
光の巫女の出兵を見てから、マーニの元気はすっかり鳴りを潜め、口数も少なくなっていた。
どうしたんだろう。友達が見つかったのに、こんなに落ち込むなんて。
心配に思いながら、唱は肉とチーズが挟まったパンをかじった。
第二章が始まりました!
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